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アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ足利

 二〇二二年一〇月二五日(日)
 一〇時二四分

 北千住駅に降り立つ。

 驚いたことに常磐線快速を使うと松戸駅からひと駅で着いてしまった。心の準備が出来ていない。まだ心が北千住を求めていないのだ。そして、駅がもの凄く大きい。超時空要塞マクロスのように千住に横たわるこの駅は何層にも重なり、ここが一つのコロニーのように成形されていた。
 待ち合わせ時間より三六分も早く来たのにはワケがある。そう、みんなも大好き小諸そばを食すためだ。私が記憶する限り、駅のホーム上に存在する小諸そばは、このEQUiA北千住店の3、4番線ホームにしか無い。
 想像してみてくれたまえ、あの小諸そばを駅のホーム上で食えるのだ。雑然とした空気の中で漢の中の漢たちが集い、黙々とそばを啜る。食す前から武者震いが止まらぬわ。ということでEQUiA北千住店に入ったが、意外にも旅行の夫婦客とかが多く、なんか東京駅丸の内のきらく菴のような緩い空気で肩透かしを食らった。
 いつも通り、かき揚げそばとライスのセットで腹を満たし店を出た。唇はかき揚げでオイリーに、クールにセクシー、ヒップでキュートなリップだ。すると突然後ろからスミタタケシが声をかけてきた。朝の一一時ちょい前、久しぶりのスミタは駅ナカなのになぜだかサングラスをしていた。
 だだっ広い駅から2人で1番線ホームを探す。駅のはしっこに小さい降り口があり、その階段が1番ホームにつながった。車輌の一番後ろ側のホームが果たして待ち合わせ場所として正解なのか、てなー氏もジェイもまだ来ないので分からない。全員がこの北千住駅を松戸駅のようなサイズ感でいるはずだ。果たしてテレパシーだけでめぐり逢えるのだろうか。
 スミタを一番線ホームに残し、私は缶ビールを買いに行きつつ、残り二人をピックアップしに出かけることにした。

 旅のお供に缶ビール。
 これだけは譲れない。

 しかし、東武線の北千住駅構内にキオスク的な店がない。仕方なしに一旦駅から出ようとしたタイミングでてなー氏とジェイに出会した。2人もタバコを吸うために改札口から一旦出るという。
 スミタを一番線ホームに独りぼっちで待たしているので、すぐに改札脇のキオスクでサッポロピール黒ラベル350mlを2本買い込み、再び一番線ホームに舞い戻った。
 寂しそうに待っていたスミタを連れて、ホームの上で4人全員が合流した。

 今回、足利の撮影会、スナップミーティングのメンバーを紹介しよう。てなー氏、ジェイ、スミタ、そして私である。ここまでで結構な行数をかけてしまった。まだやっと合流したところである。まぁ、いいか。
 1本、東武動物公園行き電車を見送り、東武スカイツリーラインの久喜行き急行に乗り込んだ。車内はガラガラで全員が横並びで座れた。

 約四五分ほどで久喜に着き、そこから東武伊勢崎線の館林行きに乗り換える。ここもガラガラで座れた。このタイミングで私とジェイは特にアイコンタクトもなくほぼ同時に缶ビールをプシュした。いや、私の方が1分早くプシュした。ここまできたらもうええやん。
 ここからは先は全く行ったことのない未踏の地かと思いきや、途中で加須駅や羽生駅など嫁の実家からの遠征撮影で訪れた駅を通過して驚いた。埼玉の別路線とは言え、鴻巣や熊谷に意外と近くまで来ているのだ。
 久喜から館林駅までは三〇分ほどで到着した。もう群馬県である。思えば遠くへ来たもんだ。
 しかし、館林駅から伊勢崎行きの電車にトランスファーするのに2分しかない。一番線端っこの車輌に乗った故、同じホームの乗り換えなのだが移動しなければならない。伊勢崎行き電車はもう来て発車をまっているのに、このタイミングでジェイがホームにあるトイレに行ってしまった。

 ビアインピスアウトだ。

 彼は久喜辺りで体内から吸収したビアをご丁寧に三〇分で小便に変換し、乗り換えの2分間で放出しなくてはならない。
 すぐにでも電車に乗り込みたいが、ジェイが来るまでは乗れない。ドアの前で地団駄踏んでいると、ダイヤに厳格な車掌は私たちに乗るのか乗らないのか聞いてきたので「一人トイレにいます!」と涙ながらに訴えた。
 なんとか聞き入れてもらい、ジェイが来たのでダッシュで乗り込んだ。本当はアウトなんだろうけどギリセーフ。

 おいおい銀河鉄道999の鉄郎かよ!

 館林駅から目的地の足利市駅までは一七分。ちなみに足利駅は栃木県なので私は千葉県→東京都→埼玉県→群馬県→栃木県と移動したことになる。

 意外と大きい足利市駅に着き、降りてすぐに痺れるほどの寂れ感を味わう。目の前にはどーんと流れる渡瀬川。

 あの渡瀬川である。

 ジェイに渡瀬川の歌詞を聞いたら、当時はミニスカートばかり見ていたので歌詞は全く覚えていないと言い放った。激しく同意した。
 駅前の飲み屋街を撮影していたらてなー氏とスミタに置いていかれたので急いで追いかける。中橋からJR足利駅に向かって歩いた。
 中橋を渡り終わるとジェイが焼き鳥屋のおじさんに歩きタバコを注意されていた。私は即座に他人のフリをしたが、カメラをぶら下げているので仲間だと思われただろう。

 関係ないが今回ぶら下げるカメラのチョイスを失敗した。カメラはライカM9だ。いや、正確にはレンズのチョイスの失敗か。
 持ってきたレンズは全てカールツァイステッサー二八㍉ f8、テッサー三〇㍉ f3 3/4、テッサー五〇㍉ f2・8。これらを持ってきて撮影してから気がついたのだが、テッサー五〇㍉意外の2本のレンズはカメラの距離計に連動しない。つまり、距離がわからないので目測かパンフォーカスで撮影しなくてはならない。最近はパンフォーカスで反射的に撮影して、余裕があればきちんとフォーカシングして撮影していたのだ。なのでフォーカシングできない。


 それから最近は過焦点距離をスマホで調べるのだが、アップルIDを凍結させてしまい、過焦点距離測定アプリにアクセスできなかった。
 二八㍉の過焦点距離はなんとなく覚えていたのだが、三〇㍉4分の3の過焦点距離は自信ない。
 それでもロボットマウントから移植したレンズなのでパンフォーカスの部分がわかりやすく色分けされて見やすくはなっている、だが、近距離は自信がない。
 それと、二八㍉と五〇㍉はレンズが曇っていて、逆光に鬼のように弱いのだ。きちんと順光にしてやらないと綺麗に写らない。いつも初見の場所はコシナツァイスの三五㍉と五〇㍉を持ってくるのだが、足利のクラシカルな街にはオールドレンズが似合うかなぁなんて思いついて突然にレンズを変更したのが災いした。まぁ、いいか。

 足利のビルはどれも昭和チックでタイムスリップしたかのようである。昔はさぞかし賑やかな街だったに違いない。マンションやビルに施された派手な意匠がそれを物語っていた。
 太平記館という足利市の土産屋兼アンテナショップでトイレを済ませた。この辺りだけ道が整備されて石畳になり、足利学校や鑁阿寺などの立派なお屋敷が立ち並ぶ。所謂小京都的な観光スポットだが、完璧すぎて全く写欲が湧かない。小川に並ぶ鴨を撮ったぐらいだろうか。

 足利駅から周辺を遠巻きに反時計回りに半周し、いよいよお目当ての雪輪町に入る。
 ぐっと狭い道になり、迷路のような砂利道に繋がる。どこかのおばあさんは丁寧に笑顔で挨拶をしてくれた。私も笑顔で挨拶をし返す。なにせ不審者丸出しだから愛想ぐらい良くしなくてはいけない。

 さっきまで前を歩いていたてなー氏は消えて、人の気配もなく静まり返り、私だけの世界になる。カドカドにてなー氏は見えるが、そのカドに着くといなくなってしまう。

 豊島園のミラーハウスかよ!

 足利短大の前にある公園の前でなんとなく全員が揃った。

 今度は全員で劇場通りに向かった。その途中の道もクラシカルで味わい深い。旧足利東映プラザは蔦が覆い、傾いてきた陽射しも合間ってなかなかに赴きがある。映画のロケ地にもなっているそうな。遠くでジャズが流れている。商店街の放送だと思っていたら、近くのカフェが月イチでやるライブの生音だった。


 全てが整った。

 もう、これ以上の撮り高は無いだろうし、気力も無くなっていたので、駅に向かって帰ることにした。

 途中で道に迷いかけ、私の方向音痴の話しになったが、私の言う方向と逆に進めば正解するという結論になり、見事にそれを証明した。

 暮れなずむ田中橋を渡り、駅に着いたとたんジェイは缶ビールを買っていた。てなー氏と私は「北千住の打ち上げ会場まで我慢する」ことにした。帰りの電車も全員座って帰れた。乗り換えごとに自然と席替えになるので、4人それぞれが勝手に喋り、勝手に寝て、北千住駅までたどり着いた。

 普段のスナップ撮影行は孤独な世界だが、こういう小さなスナップセッションみたいなのは、たまにやると面白いし勉強になる。
 それぞれの視点の違いや興味対象へのアプローチの仕方、スナップするタイミングまで学べる。当然だが、同じ場所に行っても4人全く違う写真に仕上がる。
 なぜか全員土地勘のない北千住で打ち上げをすることにした。2回ほど来たことがあるジェイが水先案内人だ。繁華街まで連れて行ってもらったら、店選びは私の出番である。私の方向音痴の話しにもどるが、街スナップ的には行く先々で方向音痴を発揮したが、居酒屋の嗅覚の良さは半端ないと褒められた。

 これは本当に褒められているのだろうか。

 タバコもOKな50円焼き鳥居酒屋を見つけた。仕事終わりのニイナナヨンさんも合流してくれた。散々たら呑んだがビタイチ酔っていないことに帰り道で気がついた。恐らく薄っすい酎ハイだったのだろう。お腹はダボダボだが、意識はシャンとしていた。

 翌日の朝、我慢しきれずにPCに繋いで撮れ高を確認したが、手応えの割に結果は今市市だった。

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