【序】「グルーヴとは何か」についての考察の断片~海保けんたろー氏の言うことがなぜ腑に落ちないのか~

 ドラマー諸兄、こちらの記事はもうご覧になられましたか?

 センセーショナルなタイトルとともにSNS上で拡散されたこの記事は海保氏の狙いがおそらく幾ばくかは的中し、"プチ"炎上のような状況になったことは比較的記憶に新しいです。

 もちろん自分もこの記事は出た当時すぐに読ませていただきました。
 しかし、どうも腑に落ちない。
 記事に書かれていることは一見真っ当そうに見えるし、しっかりと読み直しても何か大きな矛盾や論理の破綻は無いように見える。にも関わらず、腑に落ちないのです。

 このような時は、論理のどこかに綻びがあるか、もしくは論調が錯覚を起こさせているかのどちらかであることが多いものです。「なぜ腑に落ちないのか?」を、記事が出されてからの数か月間考えていました。どこにモヤモヤしているのか?書かれていることはもっともらしく見えるのに、心の底から「その通りだ!」と賛同できないのはなぜなのか?
 ようやく、自分なりの答えがまとまりましたので、その一部をここに書かせていただきたいと思います。

 なお、本稿にも些かセンセーショナルな標題をつけさせて頂いてはいるのですが、この文章の目的は頭ごなしに海保けんたろー氏の悪態をつく、所謂「disる」ことではないということを予め申し上げさせていただきたいと思います。本稿の狙いはあくまで、氏が提示したひとつの結論についてを冷静に論理的に分析、批判をするという試みにあります。自分の考えが絶対的に正しいというようなことを申し上げるつもりは微塵もなく、様々な考え方が存在する中でひとつの自分なりの考えを単に提示するものであります。
 このような機会を与えてくださった海保氏に、まずはここでお礼を申し上げます。

1.腑に落ちない理由

 記事の中で、海保氏は「先輩」から自分のドラムについてあるオーダーを受けたと当時のやりとりを紹介しています。それは以下のようなものです。

「海保のドラムはちょっと軽いんだよな…もっと後ノリで叩いた方が気持ちいいよ」
「軽い…?テンポが早くなっちゃってるってことですかね?」
「いやそうじゃないんだけど。2拍4拍のスネアをもっと重く叩いて欲しいな」
「ドラム全体の中で、スネアだけ遅くするんですか?」
「そうそう。そうするとビートが重たくなるよ」
「スネアだけ遅くしたら、それと同時に叩いてるはずのハイハットとずれちゃいますけどいいんですか?」
「いやそれはフレーズとしておかしいから、ハイハットごと遅くすればいい」
「それって相対的に言ったら1拍目と3拍目が早くなってるのと同じですよね?」
「そういうことじゃないんだよな…」


 このやりとりの中で取り上げるべき問題点は三つあります。

 まず、自分のドラムがテンポに対してジャストであるという間違った前提を持っている点。

 そしてそれゆえ、「先輩」がなぜ「重く叩け」というオーダーをしたのかを根本的に理解できていない点。

 最後に、相対視すべきでないところを相対視してしまっている点です。

 それぞれを詳細に解説し、途中に自分のグルーヴについての考えを交えながら、次回以降お話をさせていただきたいと思います。

※次章へ続きます。こちらからお読みいただけます。

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