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ハラスメントをしない、させないために管理職ができる事

監修者紹介

鈴木 麻美
ピースマインド株式会社
コンサルティング部 EAPスーパーバイザー・コンサルタント・精神保健福祉士・公認心理師・
社団法人日本産業カウンセラー協会 産業カウンセラー

大学卒業後、2004年よりピースマインド株式会社にて、コンサルタントとして、社員のセルフケア、人事・管理職向けのマネジメントコンサルテーション、職場惨事(死亡事故、自殺他)後の心のケア、など、産業現場のメンタルヘルスに関わる業務に携わる。個人カウンセリングだけでなく、グループセッション、研修、ストレスチェック組織分析説明会などを実施。ストレス・マネジメント、不調社員、職場不適応社員対応、休職・復職対応、職場惨事対応などを専門とする。

1. ハラスメントフリーな職場の実現

2020年6月に施行された労働施策総合推進法(以下、パワハラ防止法)により、企業には職場のハラスメント対策を強化することが益々求められるようになりました。

「自分は決してハラッサー(ハラスメントをする人)にならないように」と漠然と思いながらも、部下の指導に付きまとうハラスメントのリスクを不安視している方も多いと思います。

今回は、部下はどのようなことをハラスメントと捉えていて、管理職が気づかずにやってしまうことは何か、管理職としてハラスメントにどのように向き合い、振舞うのがよいのかについて専門家の視点から解説していきます。


2. ハラスメントって何?

昨今何かと話題になるハラスメント。パワハラ、セクハラ、モラハラ、リモハラなんて言葉まであり、○○ハラの種類は100にも及ぶと言われています。これだけ数があると、覚えられない、防ぎようがないと思うかもしれないですが、ハラスメントのポイントは、ハラスメントをした本人の意図ではなく、それを受け取った相手の感じ方に重きが置かれるという点です。

ここの部分を抑えると、無限にあるハラスメントを一つ一つを網羅するのではなく、根本的に防ぐためにはどのようなことができるのかということを考えることが出来るのではないでしょうか。


ハラスメントの起きる背景

ハラスメントの起きる背景には、

・相手の尊厳に対する意識の欠如
・コミュニケーションの行き違い
・職位や性差などに対する偏見・認識のずれ、心理状態の悪さ

があると言われています。(※1)

また、表面上は部下の成長を思ってやった行為でも、その時の精神状態の悪さや心の奥にある部下に対するネガティブな感情のせいで悪意があると捉えられかねない行動になってしまう場合があります。


ハラスメントの弊害

しかし、そもそもハラスメントはなぜこんなにも問題視されているのか、と疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。ハラスメントはその被害を受けた方に多大な精神的ダメージをもたらし、最悪の場合、働く機会を奪うことにもつながります。

またハラスメントを受けた社員だけではなく、会社全体にも大きなダメージがもたらされます。例えば1人の社員がハラスメントによって退職、休職に追い込まれた場合、それはその人が所属していた部署の戦力ダウンにつながります。学術的研究でも指摘されるように、ハラスメントが発生するような人間関係の良好でない職場では社員のモラル・モチベーションが減退し、その生産性は著しく低下します。

他にも、退職者がハラスメントを受けたことで訴訟を起こす場合も増えてきており、企業としてのコンプライアンス問題、イメージダウンといった問題も軽視することはできません。


パワハラ防止法

今年6月に施行されたパワハラ防止法では、ハラスメントへの取り締まりが強化され、明確な罰則はないものの、違反した場合には企業に対して勧告・指導がなされるようになりました。この法律では、職場におけるパワハラを、「①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの」と定義し、身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害といった6類型を典型的な事例として提示しています。これにともない、企業は今まで以上にハラスメントへの対応姿勢を明確に示し、改善することが求められています。

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管理職の役割

この法律の施行に伴い、管理職はパワハラをしないことや予防策を講じる事だけでなく、起きてしまった場合には相談窓口となって解決に尽力することをも求められるようになりました。管理職が職場のハラスメントを撲滅するための重要な役割を担うようになったのです。管理職は自分がハラスメントをしないようにする術だけでなく、ハラスメントについて十分な理解と知識を持ったうえで、ハラスメントに立ち向かう術にもまた身につけていくことが必要です。


3. 管理職が無意識のうちにやってしまうハラスメント事例

ここでは、ハラスメントをしないように気を付けていても、知らない間にハラスメントに捉えられてしまう行動の事例をご紹介します。特に今回は法律の施行後、増えてきたグレーゾーンのハラスメントに注目したいと思います。グレーゾーンのハラスメントは主に上司と部下のコミュニケーションにおける行き違いによるものです。

例えば、部下の指導に熱心な上司が部下の成長を思って大きな仕事を任せたところ、ハラスメントと認識される事例(過大な要求)や、部下のことを思って業務を変更したところ、「説明がないままに仕事を取り上げられた」と部下が自分の上司に訴えた事例(過小な要求)。部下からミスの報告を受けたときにあからさまな溜息や舌打ちをする、皆の前で怒鳴ってしまう、相談を受けたときに、顔も見ないまま「あとにしろ」などと追い返してしまったり、「またか」など口走ってしまうことは、つい無意識で行ってしまうかもしれません。

1度や2度ですぐにハラスメントとなる事はないかもしれませんが、日ごろのコミュニケーションの取り方によっては、相手方にハラスメントととられかねない事例です。自分は暴力や意図的な嫌がらせをしていないと自信のある方でも、このようなハラスメントのリスクは思いのほか高いのではないでしょうか。


4. ハラスメントをしないためには

自分の言動がハラスメントにあたらないか、不安を感じている人もいるかと思いますが、ハラスメントをしないためには意識の持ちようの部分だけではなく、行動面も見直す必要があります。まずご紹介するのは、管理職に関わらず、ハラスメントを防止し、良好な人間関係を築く上で有効なコミュニケーションの姿勢です。


基本的なコミュニケーションの姿勢

コミュニケーションの方法は「攻撃型」、「受身型」、「相互尊重型」の3つに分類することが出来ると言われています。この中でハラスメントの防止に有効なのは「相互尊重」の姿勢です。「相互尊重」の姿勢とは、しっかり自分の意見は率直かつ明快に伝えるけれど、相手の話も聞くことで、両者のアイデアや力の掛け算の成果が生まれ、相互の信頼関係も深まるという対話姿勢です。この姿勢は同僚との関係だけでなく、上司と部下の関係においても有効で、ハラスメントの抑止にも大きく貢献します。(※2)


しない3原則+2

上司から部下への伝え方に注目した場合には、「しない3原則+2」が基本となります。

これは
①感情的な叱責はしない
②不快・辞めて欲しいと言われた行為は繰り返さない
③人格・人間性の否定はしない
ことに加えて、
➊言い過ぎたと思ったらあやまる
➋改善して欲しいことについては明確かつ具体的に伝える
ことです。

盲目に怒りすぎることや指導の意図が伝わらないといったことをなくし、効果的な指導を行うのに有効な手法です。また管理職の方は日頃から、自分自身の言動を振り返り、先に示したハラスメントの要項に当てはまるような行動がないか、確認することも重要です。

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5. 部下の相談”2つのDO”

まず、部下にハラスメントの相談を持ちかけられた際に、すぐにやってほしいことは、なるべく迅速に相談の場を設け、話を傾聴し、記録を取ることです。それが「2つのDO」のうちの一つ、”聴く”にあたります。このとき、相談者が本人の場合、セカンドハラスメントに注意し、相談者には不利益がないことを明言する事が重要です。

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また、ハラスメントを受けた方というのは、その影響でひどく感情的になっていたり、時系列がバラバラになっていることもあります。したがって記録のポイントとしてはいつ、どこで、誰が、どのような行為をしたか、頻度、回数、行為の内容、それに対して何か対応をしたか、相手の反応はどのようであったかを時系列に沿って聞き取ることになります。また本人が希望する解決方法についても知っておくとよいでしょう。

「2つのDO」のうちのもう一つは、”連携する”ということで、管理職1人で抱え込まずに、社内・社外相談窓口にすぐに相談するという迅速な行動が重要です。ここで本人が秘密にしてほしいといった場合には、「〇〇さんに知られたくないから」といった秘密にしたい理由を聞き、「〇〇さんに知られないようにする」ための対応を取ったうえで相談をし、連携していくことが望ましいでしょう。

会社がハラスメントを黙認するリスクとして、他の被害者を助けだせないことや裁判沙汰になりブランドイメージが低下してしまうことが考えられます。会社としてもハラスメントを隠ぺいすることは非常にリスクが伴うことです。きちんと被害者と向き合い、ともに解決への道を歩むことがベストな選択です。それでもどうしても本人の同意が得られない場合には対象者や管理職自身も匿名にすることで相談するという方法もあります。

おわりに

ハラスメントの問題は、会社にとっても被害者にとっても非常にデリケートで慎重に取り扱わなければならない問題です。したがって、自ずと、管理職の方々にとっては、責任を感じることもあると思いますが、ハラスメントは会社の人事や外部機関の専門家などで構成されるチーム全体で解決していく問題です。管理職の方には責任感を持ちながらも、抱え込むことのないようにして取り組んで頂きたいと思います。

また、日頃の職場環境の改善がハラスメントの抑止に大きく貢献します。例えば、部下とのコミュニケーションを見直すということも大切です。カウンセリングやコーチングの手法を取り上げた記事もありますので、併せてご覧ください。

出典

※1:監修者インタビューより
※2:厚生労働省『あかるい職場応援団 第1回自分も相手も尊重する”相互尊重”コミュニケーション』(最終閲覧日2020/10/20)

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