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【臨床心理士監修】皆さんのコーチング、本当に効果的ですか?コーチングのコア概念と実践

近年ビジネスパーソンのスキルとしてコーチングが注目されています。特に管理職の方々は、部下とのコミュニケーションにおいて、成長を促すためにコーチングを活用できる場面も少なくないでしょう。

しかし、一部のイメージやテクニック部分が先行してしまい、重要なコアの考え方が知られていなかったり、カウンセリングやティーチング、コーチングといった様々なコミュニケーションの技法それぞれの違いがよく理解されていないこともあります。誤った場面で利用すると、かえって逆効果となってしまうことも考えられます。

今回は、クライアントに対してコーチングを行っているピースマインドのコンサルタントの話も交えて、効果的なコーチングについてご紹介します。

本記事の監修者紹介

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1. コーチングとは?

コーチング(※1)とは、自発的行動を促進するコミュニケーションを指します。“coach”という言葉はもともと「馬車」を意味し、「大切な人をその人が望むところまで送り届ける」という意味が含まれています。そこからコーチという言葉は「人の目標達成を支援する」という意味で使われるようになりました。


コーチングとティーチングとの違い

”coach”も”teach”も日本語ではどちらも”教える”と訳されますが、指導方法としての
ティーチングは
「自分が持っている知識、技術、経験を相手に伝えること」
コーチングは
「双方向的なコミュニケーションを通して、相手が選択肢やアイデアに自ら気づき、自発的な行動を起こすことを促す手法」
です。

ティーチングは「速いスピードで、一度に大勢の人数に対してやり方や価値観の統一を図ることができる」ため、
「基本的な知識を教えるとき」
「社内のルールを徹底させるとき」
「緊急性が高いとき」
「コンプライアンスを遵守させるとき」には有効です。

しかし、ティーチングでは
「教える側が持っていること以上を伝えたり、引き出したりできない」
「教える側と違うタイプの人にとっては役に立たなかったり、苦痛や労力を伴う場合がある」
「受け身の態度である為に、成功しても自信につながりにくく、失敗した場合は責任転嫁する場合がある」などの限界があります。


コーチングのメリットは何?どんな場面で有効?

コーチングは相手の自発性に重点を置くため、
「相手の考える力を育て、自発性や応用力、再現性を高める」
「相手の可能性を引き出す」
「相手の個性を活かす」
「相手の学習力自体を上げる」
ことができます。
ですから
「本人の中にしかない情報やリソースにアクセスしたいとき」
「答えを見つけるプロセスを学習させたいとき」
「目先の答えだけを与えたくないとき」
「自発的な行動を促したいとき」
にはティーチングよりもコーチングの方が有効だと言えます。

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【図1】コーチングのメリットと有効なシチュエーション

2. コーチングの実践

コーチングは非常に魅力的な指導法ですが、対応やマネジメントが複雑なため、一度に大勢を育成することは難しく、さらに成果が出るまでにある程度の時間がかかるため、根気が要る指導法です。しかし部下が自立してくれれば管理職のあなたも今よりずっと仕事がしやすくなるでしょう。ここから先はコーチングの実践編となります。  


コーチングの実践で理解すべき基礎的なスキル

コーチングの核となるのは、双方向的なコミュニケーションです。上司と部下の関係性だと、つい一方的な指示や指導になってしまいますが、コーチングは部下の話を聴くことから始まります。ここでは、コーチングの基礎となる信頼関係の構築、傾聴姿勢、相手を承認すること、アサーションについて専門家のお話を交えて説明していきたいと思います。


信頼関係の構築

信頼関係の構築は日常的な上司と部下のやり取りで構築されるものです。毎日の挨拶や、ちょっとした雑談といったコミュニケーションを通して部下を理解することが大切です。


傾聴姿勢

傾聴の姿勢とは、カウンセリングで用いられる基本姿勢です。普段、人の話を聞くときには、意図に沿った回答を引き出すために聞くことが多いですが、傾聴の場合は、話し手が話したいことを話せるようにすることを重視します。部下が何か困っている様子や、なかなか上手く話せない様子を見せた時には、答えを急かすのではなく、相手の話をじっくり聞く態度を示し、相手の思いや考えを受け止めましょう。こちらの別の記事では傾聴に関してより詳しく説明していますので、合わせて参考にしてみてください。


相手の承認

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【図2】部下に対する3つの承認(※2)

上司が部下を承認する行動は、部下の育成をよりスムーズに、より効果的に進めることができます。承認は、成果承認、行為承認、存在承認の3種類に分けることができます。成果が上がらない時にも、行為承認や存在承認を行うことによって部下が自信をもって業務に取り組めるように心がけましょう。


アサーション

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【図3】DESC法 アサーティブなコミュニケーションの方法(※3)

最後に紹介するのはアサーションというスキルです。自分も相手も尊重しつつ、自分の言いたいことをきちんと伝えるための技法です。先に挙げた承認、相手への要望を「私(アイ)」を主語にしてメッセージとして伝える「アイメッセージ」に加え、画像のようなDESC法などが挙げられます。


これはしちゃダメ、、、そんなときこそアンガーマネジメント!

いくら部下の為を思ってコーチングを続けていても、「これは許せない!」と怒りを感じて、思わず怒鳴りつけようとすることもあるかもしれません。しかし、部下を怒鳴りつけることは部下の指導にとって本当に意味がある事なのでしょうか。一時の我を失った感情に翻弄されないようにするためには、アンガーマネジメントが役立ちます。

怒りを抱いたときにやってはいけないことは、「根に持つ」「ため込む」「人のせいにする」「怒りに対して怒りで応酬する」ことです。では、怒りを感じたらどうすればよいのか。短期的・長期的それぞれの取り組みをご紹介します。

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【図4】一時の感情に翻弄されないようにするためのアンガーマネジメント(※4)


短期的な取り組み

怒りを感じた時には、タイムアウトという手法が有効です。怒りのピークは6秒間と言われています。その時間を上手くやり過ごすということです。例えば、一旦離席して外の空気を吸いに行く、コーヒーを一杯飲むなど、怒りを覚えた状況から物理的に距離を離すことが有効です。また、席を離れられないときには好きなものを思い出したり、心落ち着く風景の画像を見ることも役立ちます。


長期的な取り組み

長期的取り組みは、自分がどのような時に怒りを覚えるのか、その時にどのような反応をするのかを振り返り、対策を取る事です。この取り組みは「自分は仕事で怒らない」と思っている方にも実は必要な手法です。

例えば、部下が失敗をしたら多くの方が怒りを表さないようにご自身をコントロールするでしょう。しかし、少なからず不機嫌にはなるはずです。自分では上手く怒りをコントロールしているつもりでも、周囲からすればピリピリしていて嫌な状況という場合があります。

自分の怒りの傾向を知ることで、より自然に怒りをコントロールし、怒りを我慢するのではなく、怒りを昇華させて自然体でいられることを目指しましょう。

具体的な手法としては「アンガーログ」というものがあります。自分が怒りを覚えた時のことを記録するものです。日時や場所、なぜ怒ったのかという基本情報とともに、自分がその時何を考えていたのか、別の考え方もできたのではないか、ということも記しておきます。するとあとから見返したときに、自分がどんなことで怒りやすいのかがわかるので、自分に適した有効な対処法を講じることが出来ます。

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【図5】 自身の怒りの傾向を知るためのアンガーログ(※5)


3. こんな部下の場合は?

一生懸命部下の育成を行っていても、「こういう部下は苦手だな」「部下は自分の指導に不満を持っていないだろうか」と思うこともあります。部下の育成について、管理職の方々が抱えがちな悩みについて、コーチング経験の豊富なピースマインドのコンサルタントにその対処法を聞いてみました!


Q1. 人によっては、会社外の飲み会で関係性をより深いものにすることもあると思いますが、その時に気を付けるべき点はどのようなことでしょうか?

A. くだけた場での会話は、仕事の以外の趣味の話や部下の性格・好みを知るうえで非常に有効な場合も多いです。しかし、部下にとっては仕事外であっても上司との席であれば、仕事だと感じるものです。いくら無礼講といっても、最低限のマナーや倫理を守るようにしましょう。


Q2. 自分(上司)と部下の達成度の捉え方に差があります。部下は達成感を持っているようだけど、自分はもう少し上のレベルを期待していました。このような場合は指摘した方が良いですか?

A. 指摘をした方が良いと思われます。しかし頭ごなしに相手の成果を否定してはいけません。相手の達成感を受け止めた上で、自分はもう少し期待していたことをきちんと伝えましょう。そして結果に至るまでのプロセスを一緒に振り返ることで、何を改善すれば期待値に届くのかを確認し、折り合いを付けていくことが大切です。この時に有効なのがアイメッセージです。自分の考えを相手に押し付けない為には「私はこう思っている」という私の感じ方を伝えるようにしましょう。


Q3. 部下に話しかけると、部下が萎縮してしまい、質問をしても上手く言葉を引き出すことができません。どうやって質問すればいいですか?

A. まずは、ご自身を振り返ってみて、「当然わかってるよな」と言ったり、部下ができていないことをわかっていてわざとみんなの前で質問するなどの言動をしていないか確認してください。

仮にしていなかったとしても、みんなの前で話すのが不得意な部下にみんなの前で報告をさせると、上手く引き出せないことも在ります。そのような場合には、1on1で聞き取るなどの工夫をしてみましょう。

また、聞き取り方の工夫としては相手が答えやすい質問からすることや、例示して質問することが有効です。いきなり聞きたいことを聞くのではなく、スモールステップで本来聞きたかった答えを引き出すように意識してみてください。


Q4. 部下が自信満々で上司の問いかけに耳を傾けない場合はどうすればいいですか?

A. 業務面では、抜けてる部分がないか一緒に確認するという名目で抜け落ちている部分を自覚させます。やる気を削がない形で、指摘すべき場所は指摘するのが望ましいでしょう。一方、自信過剰が高じて言動面で問題がある場合には、仕事ができていることよりも、言動の問題がチームに悪影響を与えることをきちんと指摘する必要があります。


Q5. 部下自身がとても過小評価します。自分の言葉を負担に思ってないか心配です。

A. 最近できたことを具体的に指摘し、「あれできてたから、これもできるのではないかな」というように自信を持ってもらうようにしましょう。あとはプロセスの中で、スモールステップを重視し、進捗状況を細かく褒めていくことが大切です。


Q6. 年齢が上の部下に対してのコーチングを行うコツはありますか?

A. 年上であることのリスペクトと仕事上での関係性をきちんと切り離して捉え、バランスを上手く取ることが必要です。例えば、業務では出来ていない点をきちんと指摘するけれど、今までの経験値にフォーカスした要素を業務に組み入れるといった配慮です。

また、年上の部下が仕事を上手くこなして、指摘する部分がないような場合には、「ノウハウを教えてください」という期待を掛けると良いでしょう。上司と部下という立場はきちんと守ったうえで、上司としてノウハウの伝授を期待しているという姿勢で接することが重要です。

4. まとめ

世の中で謳われるコーチングには様々種類がありますが、今回は最も基礎となるスキルと細かなケーススタディをお伝えしました。

全てを手取り足取り教えるのではなく、あくまで部下本人が考えて行動することをサポートするコーチングの真髄は「同じ方向を向く」という姿勢にあります。部下が様々にトライ&エラーを繰り返す中で、それを支えるネットワーク作りや情報伝達を含めたサポートを指すコーチングはまさに管理職の職務そのものと言えるでしょう。ぜひ今回ご紹介したやり方を実践してみてください。

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「はたよく」では、組織行動・心理学・メンタルヘルスの専門家の切り口から、日々の仕事で役に立つような情報を発信しています。参考になりましたら、noteでのスキ・フォローや、同じ悩みを持っている方々に届くようシェアをお願いします!

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監修者プロフィール

吉野学
ピースマインド株式会社
事業推進室 室長 兼組織ソリューション部
EAPエグゼクティブコンサルタント・公認心理師・
臨床心理士・キャリアコンサルタント

大手不動産デベロッパーで長年経営企画業務を担当。ヘルスケア事業の立上げに携わったことを契機にメンタルヘルスケア業界に転身。従業員のメンタルヘルスケアや企業の職場改善、医療機関の経営再建に従事した後に、ピースマインド株式会社入社。営業部長を経て現職。100社を超える企業の職場改善を支援。


出典

※1:【即習】コーチングとは?歴史は?ティーチングとの違いで学ぶ、その意味と効果的な使い分け
※2: 部下に対する3つの承認:ピースマインド株式会社『マネージャーが部下を承認する3つの視点』
※3: DESC法 アサーティブなコミュニケーションの方法:ピースマインド株式会社『管理職向けオンラインセミナー部下とのコミュニケーションをより円滑にするために』
※4: 一時の感情に翻弄されないようにするためのアンガーマネジメント):ピースマインド株式会社『オンライン研修管理職のためのハラスメント防止研修』
※5:ピースマインド株式会社イベントレポート#2『管理職向け「上手な部下への伝え方・カチンときたときの処方箋」』


関連情報


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