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『27000冊ガーデン』(大崎梢/双葉社)

舞台は、神奈川県立戸代原高校の図書館。冒頭は、学校司書である星川駒子(ほしかわ•こまこ)と、駅前のユーカリ書店の男性店員の針谷敬斗(はりたに•けいと)のやり取りから始まる。

出入りの書店員である針谷から、駒子が注文した本を受け取る場面なのだが、伊吹有喜の『犬がいた季節』や青山美智子の『お探し物は図書室まで』といった、本好きにはおなじみのラインナップに、思わず笑みがほころんでしまう読者もいるだろう。

そこへ、よく図書館を利用する二年C組の生徒の今井聡史が、「先生、大変なんだ。このままだと俺、殺人犯にされてしまう」と突然訪れる。

よくよく話を聞いてみると、家には双子の弟がいて読書に集中できないため、静かに読める場所を探して古い工場に足を運んだところ、そこで悲鳴のような声を聞き走り去った際に「図書館の本を落としたらしい」ということだった。

恐る恐るニュースを検索すると、廃工場で無職の男性の転落死体が発見されたと報じられていた。本を落としたとしたらそこだろう、と聡史は言うのだ。そして、駒子は針谷とともに事件に関わっていく。そんな二人のもとに、図書館や本にまつわる謎が次々と持ち込まれていくのだ。

大崎梢といえば書店を舞台にした『配達赤ずきん』をはじめ、出版社や本にまつわる作品をいくつも発表している作家だが、図書館を舞台にしたこの『27000冊ガーデン』という物は、本や日常の謎を愛する人びとにとって、新たな愛すべき作品となるだろう。

登場するさまざまな本のタイトルや作家名に、心を踊らせながら読みふけった。そんな読者は、多いのではないだろうか。かつて何度も読み返した栗本薫の『優しい密室』(講談社文庫)が登場したときには、胸がいっぱいになった。

もちろん、楽しいだけではない。日常の中にひそむ謎を解き明かすがゆえの苦さもあるが、そういった部分も込めて「大切だ」と思えるのだ。ぜひシリーズ化してほしいし、一人でも多くの読者に手に取ってほしいと願ってやまない。



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