ショートドラマ「核のごみ~5万年後の君たちへ~」②

※この作品はフィクションです

―――2×××年 日本
     会議室の入口「総理直轄タスクフォース『核のごみ保存委員会』」と張り紙
     会議室の後方、隣に座る原田と幕内
原田「そもそもの話なんだけど」
幕内「どうした?」
原田「どうしてお前がいるんだ?」
幕内「!」
幕内「冷たいねえ、同じ東大卒の同期じゃないですか。俺じゃ力不足ですか。お前、出世コースに乗って変わっちまったよ」
原田「だから出世コースじゃないって。そうじゃなくて、なんで外務省のお前が、核のごみのチームに入っているんだって話だよ」
幕内「あー。そういうことね。よかった。俺たちこれからも友達だよな」
原田「質問に答えろよ」
幕内「まあまあ。俺もよくわからないけどさ、良くも悪くも世界中から注目されているらしいんだよね。日本がどうするのか」
原田「ああ……反対されても原発にこだわったからな」
幕内「そうそう。押し切ったからには、責任取れよ…ってね」
     会議室の前方、女性が入ってくる。壇上へ。
佐藤「きょうはお集まりいただき、ありがとうございます。担当の佐藤です」
幕内「若っ。俺らとあんまり変わらないんじゃね?」
原田「しっ」
佐藤「ご存じの通り、このチームは核のごみを長期間保存するためのチームで、さまざまな分野から官僚や専門家に集まってもらっています。釈迦に説法かと思いますが、念のため『核のごみ』の説明からさせていただきます」
     佐藤の隣に大きなスクリーンが降りてくる
佐藤「日本の電力を支えるエネルギー源の一つに、原子力発電があります。原発は核燃料を使って発電していますが、そのほとんどは再利用することができます」
     佐藤、スクリーンの図を指しながら
佐藤「使用済みの核燃料は再処理工場で処理され、ウラン・プルトニウムとして発電所へと戻されます。ただ、およそ5%は再処理ができません。この廃液をガラスで固めたのが、高レベル放射性廃棄物…『核のごみ』です」
     幕内、あくび
佐藤「廃液はヒトが十数秒浴びただけで死んでしまうほど危険なので、厳重に固めて放射能レベルが十分に下がるまで地中に埋めます。これが地層処分です。深さは、今のところ300メートル以上とされています。埋める場所も、生活環境から隔離されたところに埋めるので、将来世代への影響もないといって良いでしょう」
     原田、眉をひそめる
佐藤「地下深くの岩盤は地下水の動きが極めて遅いため、放射性物質の移動を遅らせます。仮に放射性物質が溶け出したとしても、生活圏に届くには極めて長い時間がかかります。およそ8,000年で天然ウランと同程度に、数万年から10万年で安全な線量に減ります」
     スクリーンが戻る
佐藤「このタスクフォースの使命は、地中に埋めた核のごみを、最低5万年安定的に保存することです」

     トイレで話す原田と幕内
幕内「5万年ってさ、どれくらいだろうな」
原田「5万年は5万年だろ」
幕内「そうだけどさ。想像できないよな。5万年前って何時代よ」
原田「もしかしたら、氷河期かもな」
幕内「氷期と間氷期か、数万年から10万年の周期なんだっけ」
原田「覚えてない」
     トイレを出る原田と幕内
幕内「それよりさ、さっき水川が会場にいたぜ」
原田「水川?同期の?」
幕内「大学では同期だったけど、院卒だから二期下だな」
原田「それは同期ってことでいいんじゃないの?」
     会議室に入る原田と幕内
幕内「ほら、あそこ」
     会議室の前方の端に座る女性を指さす幕内
原田「よく見えないな」
幕内「さっき振り返ったところ見たから間違いないって。こっち向かないかな……」
     佐藤、会議室に入ってくる
幕内「お前面識あるんだろ、後で話しかけにいこうぜ」
原田「話したことはあるけど、別に親しくはないからな?」
     会議室、全員が席に着く
佐藤「お待たせしました。これからは2つの班に分かれていただきます。一つは科学的な見地から保存方法について最終的な確認をしていただく『科学班』。もう一つは5万年後まで『核のごみ』について正しい情報を伝えていくための『記録班』です」
原田「記録班……」
幕内「俺らはそっちだな」

     円状に机を並べて2つの班に分かれる。それぞれ10人程度
幕内「じゃあ、自己紹介から始めましょうか」
     原田、見回す。若い男性が一人、残りは高齢の専門家風
幕内「外務省の幕内です。マークって呼ばれてます。最近まで内閣官房に出向していました」
     順番に自己紹介、語学・歴史の専門家が続く。若い男の番
青木「青木です。××(最大手の広告代理店)から出向で来ました。よろしくお願いします」
     全員の自己紹介が終わる
幕内「じゃあ、とりあえず過去の事例をさかのぼって、どう記録を残していたか見てみますか」
     幕内、ノートパソコンを立ち上げる
近藤「あの…」
     歴史の専門家と名乗っていた男性が小さく手を挙げる
近藤「ピラミッドはどうでしょうか」

②終わり

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