ショートドラマ「核のごみ~5万年後の君たちへ~」③

※この作品はフィクションです

―――2×××年 日本
     会議室、円状に並んだ机
近藤「ピラミッドはどうでしょうか」
     幕内、顔が引きつる
幕内「近藤さんとおっしゃいましたよね?どういう意味でしょう」
近藤「5万年後に日本は残っているのでしょうか。それなら、世界中の誰が見てもわかるシンボルを作る方がいいのではないでしょうか」
幕内「……面白いアイデアだとは思いますが、まずは文書と形を整えて……」
近藤「金田さん、5万年後も文字文化は残っているんでしょうか」
     近藤、隣に話を振る。語学の専門家と名乗っていた男性
金田「文字の文化は残っているかもしれませんが、現代の日本語がそのまま残っているとは思えませんね」
近藤「それなら象形文字も視野に入れなければ。遺跡にして、アンタッチャブルな地域にしましょう」
原田「なるほど、とにかく人から遠ざけて守る、ということに重きを置くわけですね」
幕内「真意が伝わらなければ意味がありません。ナスカの地上絵だって、意味も目的もいまだに分からないじゃないですか」
近藤「何万年も後に残っているのは、言葉ではなく“作品”ですよ」
幕内「言葉が変わっていくのも想定しなければいけませんが、その元となる文書が必要ですよね」
     金田、咳払い
金田「最初に作る文書も、すごく難しいです。核のごみは危険なものだと書けますか?」
幕内「それはそうですよ。だから埋めるんですよね?」
青木「いや、難しいんじゃないかな」
     腕を組む青木(広告代理店からの出向者)
青木「国は地域に対して安全を約束していますからね。危険だと明記すれば反対派の住民がまた騒ぎ出すでしょう」
幕内「それは……」
金田「“危険”と書くのか“取り扱い注意”と書くのかで印象はかなり変わります。ましてや、それが後世まで伝えられる言葉ならばごまかしは許されません」
原田「原発はどうしても賛否が分かれます。今回は国と知事が強引に押し切った形なので、首長を始めとする反対派の感情を逆なでしたくはありません」
青木「ですよねぇ」
近藤「ピラミッドなら地域の人もよろこぶんじゃないですか?」
幕内「墓荒らしが来るでしょうが!!!」

     食堂、原田と幕内がトレイを持って座る
幕内「バカしかいねえのか!」
原田「声大きいって」
幕内「お前もピラミッド野郎に賛成なんかしてんじゃねえよ」
原田「別に賛成はしてないだろ」
幕内「反対しろよ!学者のトンデモ意見だろうが」
原田「そうかなあ。それぞれの言っていることは間違っていない気がしたけど」
幕内「俺は全員気に食わない。特にあの広告マンだな」
原田「国に出向してくる広告代理店のやつは優秀なやつが多いって聞いてるぞ」
幕内「そこが気に食わないんだよ。顔が良くて優秀で、給料も俺たちよりいい」
原田「お前、昔から本当に民間嫌いだよな」
     幕内、食堂の水川を見つける
幕内「おい、原田。水川だ、行くぞ」
原田「いや、行くってなんだよ」
     幕内、原田の返事を聞かずに移動
幕内「水川さんですよね、お隣いいですか」
水川「……どうぞ」
原田「久しぶり」
水川「……どうも」
幕内「『科学班』の方はどうですか?揉めてませんか?」
水川「私たちの方は、特に」
原田「幕内の声、聞こえてたんじゃないの」
幕内「し、仕方ないだろ。みんな“今”の問題と“遠い未来”の問題がごっちゃになってるんだよ」
原田「あ、分析できてたんだ」
幕内「当たり前だろ。5万年って言ったって、一日一日の積み重ねなんだよ。まずは目の前の未来を守らないと」
     水川、黙々と食べ進める
幕内「水川さんは、東大で地層が専攻でしたよね?」
水川「よく知っているね」
幕内「美人がいるって有名でしたから」
     水川、黙々と食べ進める
原田「僕は文系だし、よくわからないんだけどさ」
     水川、箸を置き原田の方を向く
原田「本当に、5万年も安全に保管できるものなの」
水川「一般的には、リスクを最大限排除すれば理論上可能」
原田「でもさ、日本の地層は欧米よりも軟らかいんでしょ。地震とかもあるし……」
水川「それも正しい。理論上可能というのは、100%安全ということではない。限りなく100%に近いということ」
原田「水川さんは、どう思うの?」
水川「私個人の意見としては……どんなに頑張っても100%にはならないから、科学の力で少しでも、たとえ0.1%でもリスクを減らすだけ。それに……地層の問題よりも人災の方が可能性が高いんじゃないかと思う」
     水川、原田をじっと見る
水川「だから、原田くんの班の方が重要なのかもしれない」

     原田、幕内、食堂で二人コーヒーを飲む
幕内「水川さんってどんな人なの」
原田「お前の方がよく知っているんじゃないか」
幕内「俺が知っているのは、噂話だけ。美人で優秀で、口説こうとした男はみんな振られた。対等に話ができるのは、教授と原田だけだってな」
原田「へえ、知らなかった」
幕内「みんなお前を羨ましがっていたよ。知り合ったきっかけは何なのさ」
原田「きっかけって……」

     ……原田回想……
     東京大学・図書館。少し離れた距離で勉強する原田と水川
     荷物をまとめて帰る水川、原田の横を通り、ハンカチを落とす
原田「あの、落としましたよ」
水川「? ああ。ありがとうございます」
     勉強に戻る原田
水川「お名前は?」
     ……原田回想終わり……

幕内「お前さあ、もう友だちじゃないわ」
原田「なんでだよ」
     幕内、立ち上がる
幕内「さて、ピラミッドでも作りますか」

③終わり

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