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LGB「T」にまつわるちょっとした話(7)

・トランスジェンダーとは誰のことなの?

LGBTという言葉やレインボーという言葉を最近良く使っている人にこそ知ってほしい。トランスジェンダーとは何なのか? かなり間違った知識や、古くなった考え方、使っていませんか? トランスジェンダーという名前に込められた意味を是非覚えて下さい!

・知っていますかトランスジェンダーのことを

『トランスジェンダーとは、ジェンダーアイデンティティ(性同一性)および/またはジェンダーエキスパンション(性表現)が生まれた時に割り当てられた性と異なる人々のための包括的な用語です。』

LGBTという言葉が流行ったおかげで『トランスジェンダー』というカタカナは結構知られてきたと思います。しかし、『トランスジェンダーが指す人は誰なのか?』『トランスジェンダーって何なの?』さらには『何でLGBの後ろにトランスジェンダーが並んでいるの?』現実として『良くわからない』ままLGBTを使っている人が多いのでは?

良く聞く間違った例では『トランスジェンダー(性同一性障害)』とか『トランスジェンダー(手術を行ってない人)』とか『トランスジェンダー(心の性が体の性と違っている人)』とか…。

まず、単純に言えばトランスジェンダーは生まれた時に割り当てられた性(セックス)から、性別の枠をトランス(超えた)ジェンダー(社会的な性別)を選択する者、もしくは選択しようとする者の総称です。性社会・文化史研究者の三橋順子先生はこれに『性別越境』という訳を付けています。

・トランスジェンダーという言葉が作られるまで

別のトピックでトランスセクシャルという言葉が作られた背景を説明しましたが、ここでいうセクシャルとはホモセクシャルを受けて作られた言葉なので、性指向的意味合いとしての話です。ホモセクシャルが「同じ性へ」という意味合いとすると、トランスセクシャルは「超えた性へ」となるわけです。

まだ、ホルモン製剤も無い時代なので体を変えるという考え方事態が殆ど無い状況なので、同時に作られた2つの言葉トランスセクシャルとトランスヴェスタイトは、異性装をするホモセクシャル、異性装をするヘテロセクシャルという意味合いで作られた言葉だったわけです。

そして1965年に発行されるWHOの疾病マニュアルICD8にトランスセクシャリズム、トランスヴェスティズムという2つの疾患が性的逸脱というカテゴリーのCODE302に登場します。この項目からも判るようにイメージとしては「治さなければならない精神疾患」というポジションでの登場です。そして、この年にトランスセクシャリズムの代わりに、トランスジェンダリズム使おうと、精神科医ジョンFオリヴェンが自著で提唱します。

オリヴェンの話としては「トランスの話は性指向だけの話ではなく、その性別の在りようの話で、セクシャリティよりもジェンダーを当てる方が正しい意味合いとなる」といったところ…。こういう提案があったのですが…これ医学界ではまったく流行しなかったのです。

・トランスジェンダーは当事者が使い始める

トランスセクシャル・トランスヴェスタイトと言う言葉が上記したようにトランスにとっては悪意ある病理化が成されたことによって、微妙にこの言葉の使い方に変化がでてくるわけです。

歴史的な流れとして…当時のトランスのグループには大きく3つ

1:クリスティーン・ジョーゲンセンなどに代表される性科学医療に近かったグループ
2:ショーパブ・セックスワークなどゲイ産業界隈に近い場所にいたグループ
3:ヴァージニア・プリンスなどの素人女装というカテゴリーのグループ”

時代的なこともありますが、1は割とお金に余裕がある人達が多く、3が最もゲイ界隈と距離を置いていたなどそれぞれの関係性にも特徴があります。

ちなみに他者をトランスセクシャルと呼ぶ文化はこの病理化まで少なかったようで、たとえば1950年代からホルモンや手術などを行って一躍時の人となった、アメリカのクリスティーン・ジョーゲンセンなどがトランスセクシャルと敬称される記事を探すとこれがかなり少なかったそうで、後にそうよばれた時に「私はトランスセクシャルじゃなく、トランスジェンダーです」と、トランスジェンダーという言葉を選んでいます。

1950年代にトランジションしたジョーゲンセンにとって、自身の在りようが『精神疾患』であるという事も当然受け入れる気はなかったということです。つまり『性同一性障害』という疾病は、トランスジェンダーと呼ばれる多くの人が該当する可能性がありますが、トランスジェンダーはこれを拒否しているという意味で選択されてきたので、トランスジェンダー(性同一性障害)などと表記するのはおかしいという訳です。

誰がトランスジェンダーなの?

この記事を書いたのは今から4年前で、トランスジェンダーのアンブレラターム(トランスジェンダーの傘の中に誰がいるのか?)といった説明もしておこうとして書いたわけです。しかし、アンブレラタームをわざと誤読して『あいつらは酷いやつらだ!』と吹聴する人達が現れるなんて当時は全くかんがえていなかったのですが、とにかく改めて説明します。

トランスアンブレラ(トランスジェンダーの傘のしたにいる、いろいろな人達)を見てみると…

トランスジェンダー
前述のトランスジェンダーです。このアンブレラの様にTrans*と表記することもあります。

ツースピリッツ
アメリカ先住民などが言う『男性・女性2つの魂を持った者』といった言葉から来ている。女性と男性のジェンダーがミックスされている感じ。

トランスフェミニン
出生時に割り当てられた性が男性で、性自認が女性よりな人。基本的にトランス女性と同じですが、男女というステレオタイプな区分けをあまり好まない。

トランスマスカライン
出生時に割り当てられた性が女性で、性自認が男性よりな人。基本的にトランス男性と同じですが、男女というステレオタイプな区分けをあまり好まない。

マルチジェンダー
複数の性自認を内包している人。男性、女性、男性でも女性でもない、無性、どちらでもあるといった可変的な性自認。

トランス女性/トランス男性
文字どおり、トランスジェンダーの女性、トランスジェンダーの男性です。

ジェンダーフルード
性自認が一定の形に定まらない。時間の変化と共に性自認が色々な形に変化していく。変化があるのでキッチリと男性、女性などと区別が付けられない。

アジェンダー
性自認が無い。または性自認が既存の性で説明が付かない。

ジェンダークイア
自身の性自認が女性もしくは男性だとしても、一般的な性規範からずれている(もしくはそう感じている)性自認が社会的なその性とマッチしていない。

これらに加えて…以下のカテゴリーはトランスジェンダーの中に加わる人もいれば、そうでない人もいます。

クロスドレッサー
異性装者。必ずしも性自認が出生時の性と違っている訳ではないが、異性の衣服を好んで着たりる人。

ドラァグクイーン・ドラァグキング
ジェンダーを誇張した女装や男装でパフォーマンスなどをする人たち。

・いろいろと補足

さて、まずTERFやアンチトランスな方々がこれを見て、鬼の首を取ったかのようにまくし立てていますが、もの凄く故意的な誤読です。

昨年末から『トランス女性は女性です』といったハッシュタグなどが見られるようになりましたが、トランス女性とは上の図で言う「Trans Woman」の事です。判りますよね?

アンブレラタームという考え方はトランスジェンダー(これはTrans*という表記ですが)は誰か?という話をしているのであって、トランス女性の図ではありません。差別者の怖いところは、その中身など基本的確認もせずに『あいつらは○○だぁ!』と排除を煽るだけ煽るわけです。ビックリしたことに、この煽りにのって個人が所属している所に抗議の電話を入れるなどの迷惑行為が発生しているそうです。

まさに、余命3年時事日記の煽りに乗って弁護士の懲戒請求を出した人達と同じ状況が発生しているわけです。なのに『貴方のしている行為は差別ですよ!』と指摘すると『差別より、恐怖が優先されるべきだ!』と、KKKなどと同じ理論展開を始めます。

『私達のしていることは、か弱い女性を守るために必要なことで、その中でトランスなどと謎な集団を排除したとしてもそれは差別にはならない!正しい行いなのだ』といった差別の肯定展開をするわけです。

こういう行為をする人がいることも、また、何にも疑問をもたずに、その中身を確認もせずにリツイートをして、さらには抗議活動にまで参加する人がいることに強い恐怖を感じています。

さて、『トランス女性』と『トランス男性』という言葉もすこし補足しておきます。件のトランス排除な騒動が起きたことで、ずいぶん『トランス女性』『トランス男性』という言葉が広まりましたが、少し前の日本ではよく『MtF』とか『FtM』と表記する人が多かったのです。昔は海外もだいたいそうでしたが、近年はあまりMtFなどの書き方はされません。MtFやFtMは90年代のパソコン通信全盛のころに、短い言葉で在りようを説明するために作られた略語で「Male to Female」「Female to Male」の略です(通信速度が今とは比べものにならないほど遅い時代なので、略語の使用は必然だったのです。)

しかし、本来トランスジェンダーの女性、男性の性自認は『女性』もしくは『男性』であって…元女性とか、元男性なんて表現はおかしいといった考えもあり、それでもトランスである事を表記する必要がある場合に、トランス女性(Trans Woman)トランス男性(Trans Man)といった書き方がされるという訳です。

また、日本でよく使われているXジェンダーですが、海外ではこの言葉は使われていません。たぶんXジェンダーが指す意味は上のカテゴリーで言う『ツースピリッツ、トランスフェミニン、トランスマスカライン、マルチジェンダー、ジェンダーフルード、アジェンダー、ジェンダークイア』などを総称しているといった所でしょう。

・トランスジェンダー プライドとは?

色々な性自認(ジェンダーアイデンティティ)の人が居ますが、これらの在りようによって差別されない社会を目指して世界中のトランスジェンダーグループは活動しています。LGBTでダイバシティだ! と張り切って居る方々はもちろん、そんな差別はしませんよね?

トランスジェンダーの話は、何かと見た目とか医療とかの話にされがちですが、トランスジェンダーグループが掲げている言葉は『TransRights are Human Rights』…トランスの権利は人権です! と、トランスであることで何ら差別されずに、それぞれのアイデンティティが尊重された状況で生きられる社会を目指しているという訳です。

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