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LGB「T」にまつわるちょっとした話(1)

LGBTのTがトランスジェンダーであることは、さすがに近年知れ渡るようになりましたが、「トランス」が付いた言葉が複数あるために結構混乱している人や、また、間違った説明を書いている人がとても多いので、今回はそんな中の1つの言葉「トランスセクシャル」についてお話します。

・そもそもセクシャルって何?

この言葉が作られた背景からですが、まず19世紀末まではセクシャルマイノリティ全てはクイア的なものと捕らえられ、それぞれ個別に分けて考えられることがありませんでした。

1968年ドイツの人権活動家カールマリアケルトベニーが、同性愛活動家の先駆者と言われるカールハインリッヒウルリッヒに当てた手紙に、ギリシャ語の同じという意味を指す『ホモ(HOMO)』と、ラテン語の性(セックス)を意味する『セクシャル(SEXUAL)』をくっつけて、ホモセクシャルという言葉を使っています。

カールマリアケルトベニーは自身の友人がソドミーの罪に問われた事を切っ掛けに自死してしまい、誰かを好きになることが罪になるというのはオカシイだろう?という考えを持ってそれを同性愛活動家への手紙としてしたためたわけです。

この翌年にカールマリアケルトベニーは、匿名でソドミー法撤廃を求めるチラシを作り、その中にホモセクシャルと言う言葉が登場。これが公で使われた最初と言われています。

・性科学という分野が始まる。

19世紀末のドイツで世界初のセクシャルマイノリティ解放組織「科学人道委員会(Wissenschaftlich-humanitäres Komitee)」が組織され、このグループにも参加していたマグヌス ヒルシュフェルトが性を科学的な視点で考察する、性科学という分野を開拓します。

多くのセクシャルマイノリティに接するなかで、異性装や異性の行動を伴うホモセクシャルの人、また、異性装や異性の行動を伴うがホモセクシャルで無い人がいることを発見し、前者に「トランスセクシャル(TransSexual)」後者に「トランスヴェスタイト(TransVestite)」と言う名前を付けます。

勘違いされている方が多いのですが、この言葉が作られた時代はまだホルモン製剤の開発すらされていない時で、手術についても断種などが行われている程度な状況なのでトランスセクシャルという言葉に体の変化云々なイメージは無く、あくまで性指向がどちらを向いているかということでトランスセクシャルとトランスヴェスタイトは作られています。

・トランスセクシャルという言葉が使われることが減った背景

1950~60年代において、トランスジェンダーの当事者は色々な呼称をつかっていて、初期のSRS(性別再判定手術)を受けた有名なクリスティーン ジョーゲンセンは『私は女です』とこの時期はセクシャルマイノリティとしての呼称は使用してなく、女装雑誌発行者で大学教授として有名なヴァージニア プリンスはクロスドレス、トランスヴェスタイトを使い、そして、セックスワークを行っていたシルビア リベラはゲイとトランスヴェスタイトをマーシャPジョンソンは、ゲイとトランスヴェスタイト、ドラァグクイーンを使っています。

当時はトランスセクシャルを使う人もそれなりに居たのですが、ポピュラーという程でもなくと言った感じです。

大きく変化したのは1975年のWHOの疾病マニュアルICD9のコード302(性的逸脱)にTransSexualismが登場したことで(TransVestismはICD8で登場)精神疾患として使われたこの言葉を拒否する流れができたのです。

例えばこのTransSexualが精神疾患として使われたことで、クリスティーン ジョーゲンセンは『私はトランスセクシャルじゃないわ、トランスジェンダーなの』とインタビューで答えていたりします。

・TransSexualismが病理の言葉として広まる

1980年に発行されたアメリカの精神保健マニュアルDSMⅢで、TransSexualismが単独の精神疾患として分離されます。これは、ジョンホプキンス大学や、ハリーベンジャミンなどがジェンダークリニックに於いてホルモンセラピーや、手術を行ってきた流れを受けての疾病という訳で、これが1990年に発行されるICD10の性同一性障害(項目)における性転換症(TransSexualism)に繋がるわけです。

この流れが当時の多くの当事者には不評で、とくにゲイリブの流れに居たセックスワーカーやショーパブなどで働くトランスジェンダーにとって、精神科医がホルモンや手術のコントロールを行う事に強い拒否を示したのです。また、ゲイリブでは『非病理化』が1つの目標でもあることから、それに逆行するトランスセクシャルの病理としての使用が許せなかったという状況もあります。

一方で、日本における性同一性障害という言葉に依存している人達がいるように、海外でもすくなからず疾病として使われるようになったトランスセクシャルに依存している人達は若干いて、これらの人はトランスジェンダーという言葉を使うことを拒否していたりもします。

ただし、前記のタイプは本当に少数で、現在トランスセクシャルを使う人は、マグヌス ヒルシュフェルトが作ったまさに100年前から続くイメージとして、トランスジェンダーと併用している人がとても多く、そこには『疾病イメージ』としての意味合いはありません。

・だからトランスセクシャルの説明は難しい

いよいよ2022年にICD11が発行されることで、ついに病理として使われたトランスセクシャルの時代が終わります。トランスセクシャルという言葉の説明を見てみると、その多くはICD10に於ける、もしくはDSMⅢに於ける疾病イメージとして説明しています。

しかし、世界中の多くの人達が病理に寄らない昔から使われているイメージとしてトランスセクシャルを使っていて、その多くの人は、トランスセクシャルも、トランスジェンダーもほぼ同じイメージとして使っているのが実情です。

もうあと2年ちょっとで疾病としてのトランスセクシャルは無くなります。トランスジェンダーの言葉の変遷は結構ややこしく、複雑ではありますが、ホルモンや手術を望む望まないと、トランスセクシャルという言葉は、もともと関係無い、あくまでも医者が便宜上にそうう言葉を当ててみて、その時代が終わるということなのです。

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