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東京都が進める『都民農園』という新しい農コミュニティ

東京都小金井市に、東京都が進めている初の都民農園があります。
今回は、こちらの農園に訪問させていただきました。

もともとこちらの都民農園は、知り合いの農家さんや農業関係者などが関わっていることは知っていたのですが、私自身は今回、初訪問でした。
訪問のきっかけは、私の研修事業の研修生がこの都民農園のスタッフであったこと。
上司の方を紹介したいということで伺いました。
とてもありがたい縁です。
 
こちらの都民農園は武蔵小金井駅の目の前にあります。
駅から近すぎてビックリしました。
都心に近づくにつれて駅に近い農地はほとんど存在しないため、とても貴重な農地です。

わくわく都民農園小金井の概要

農園名は「わくわく都民農園小金井」です。
都民農園は3000㎡ほどでそこまで広いわけではないですがシニア向け体験農園、福祉農園、地域農園、子供農園など多機能な役割を果たしています。
都民農園の目的として、都市農地の保全、超高齢社会に向けた高齢者の活躍、多世代交流を併せて進めることができる地域モデルの確立を目指しています。

実際の現場の写真がこちらです。

シニア向け体験農園
福祉農園
こども農園

また畑に隣接してカフェや地場野菜の販売所があり、ここで地域交流やセミナーなどが行われています。

都民農園の事業スキーム

ここで運営をされている(一社)小金井市観光まちおこし協会の千葉さんとお話をさせていただきました。

(一社)小金井市観光まちおこし協会の千葉さん

都民農園という今までには無い形の成り立ちについて、いろいろとお話をしていただきました。
東京都、小金井市、地主、市民団体の4者の合意のもとで生まれたスキームになります。

まず、この事業主体が東京都の運営とあったので、東京都の所有の農地で行うかと思っていましたが、よく聞くと、ある小金井市民の農地であることを知りました。
 
そうなると農地は地主さんのものでありながら、カフェやコミュニティスペースである建物は、東京都のものであるという珍しい状態になります。
そしてその畑や施設の管理を委託されているのが、今回、お話をさせていただきました小金井市観光まちおこし協会の千葉さんになります。
また小金井市も当然、関わっており、各種細かな手続きを行っています。
さらに、いろんな立場の小金井市民が関わることによって、多くの関係者がいるコミュニティ農園となり、非常に興味深い例となります。
 
ここで一番気になったのは、農地を持つ地主さんの意向。
都市農業の課題として、地主さんが亡くなられた場合に巨額の相続税が発生し、相続税を支払うために農地を売って手放すリスクが存在します。
この場合、農家さんは相続をどうするのか気になってしまいました。
すでに農地の上に東京都の建物が立っているのに、相続の問題で農地を売りたいと言われたら、東京都の施設を取り崩す必要があります。
そんなリスクを負ってまで、東京都が今回のプロジェクトを遂行したことに疑問が残りました。
千葉さんの答えとしては、地主さんの相続があった場合も売らないことを合意ができていると言われていました。仮にそうでもあっても、地主さんはまだ40代ということもあり長期間貸してもらえる体制になっています。

この地主さん、よくよく聞くと、地元では有名な農家さんらしくJA東京むさし青壮年部の本部長さんもやっている方でした。ちなみに都民農園のとなりには、さらに大きな畑も所有しており、そこでサツマイモやジャガイモ掘りを2000人の園児の受入れているとのこと。
都民農園の設立の裏には、こういった理解や情熱のある地主さんがいて成り立っています。

都民農園の農コミュニティの特徴

都民農園には、さきほど話をしたとおり体験農園、福祉農園、地域農園、子供農園などがあり、多世代交流が活発に行われています。
畑の自然環境や農作業を通じて、世代が違ったとしてもコミュニケーションができる機会や雰囲気が生まれ、より身近に人のつながりを感じられるようになります。
人のつながりが軽視される東京砂漠において、人のつながりを感じられるオアシスとして都民農園が機能していると言えます。

ただ話していく中で、今後の課題を教えていただきました。
それはシニア農園を卒業された方達はどうするのかという課題。
シニア農園では、毎年応募者が殺到していることもあり、基本的に同じように農園を借りることができず、2年間で終了となります。
私たちが八王子で行っている体験農園のように沢山の農地があるわけではないので継続ができず、せっかく楽しく学んだ農業の経験を活かすことができなくなります。
 
そこで考えられたのが、小金井市の農家さんとつながっていくことで、引き続き農のある生活を続けられるというもの。
農園の卒園前に小金井市の農家さんを紹介しながら、農家さんの農作業を手伝うという、いわゆる援農をしてもらうことで、信頼関係を築き、卒園した後も農業に関わってもらえるようになります。
そうなることで、地元の農家さんの人手不足にもつながること、また卒園したOBOGが集まることで小金井市の農のネットワークが拡がっていくことも魅力的な所です。
最初は課題とおっしゃっていましたが、その課題の解決策を考えることで、かえってよりよい成果に結びつけることができたと語られました。
これは、他の農園にはない「わくわく都民農園小金井」の特徴だと思います。

東京都主導の農地保全の可能性

今回のお話を聞かせていただきながら、農地保全においては東京都の力が必要であると強く感じました。
本来、都市農地の活用については、各区や各市が考えることが多くなります。
農水省が出す「食糧・農業・農村基本計画」を受け、それを都道府県が農村振興計画を作成、そして、さらにそこから各区市町村の農業振興計画が作成され実施に至ります。
私が住む八王子でも八王子市の農業振興プランがあり、いろんな施策が進められています。
ただ東京都自体でも「東京都農業振興プラン」があり、その中に「農地の保全・活用」が入っており、都として農地保全を区や市とは別で進めています。
 
実は、東京都が持っている農地や山林がたくさんあります。
八王子で都の所有で有名なところとして、都立小宮公園があります。
森はとても整備されており、地元住民の憩いの場となっています。

八王子市のひよどり山にある小宮公園

近くには、東京都の管轄している「東京農業アカデミー」もあります。

このような形で、東京都が管理運営の委託をしている場所もありますが、まだ手付かずで保全がうまくできていない地域も多くあります。
そういった中で、東京都がより主導して、都民農園のように地域のNPOや一般社団法人などの公益団体と連携して、管理していく体制が増えていくのではと考えています。

私たちとしても八王子市にだけではなく、東京都に対しても働きかけ、東京都の農地の保全や活用を模索していきたいと思っています。
いずれ、東京都の農業を担当する部署にもかけあっていき、レポートしたいと思います。

農のコミュニティとネットワーク

千葉さんと都民農園の話や畑会の事業の話を、それぞれ話をしていく中で、僕らが目指しいているビジョンがとても似ているなと感じました。
それは、「農を通じたまちづくり」「コミュニティづくり」です。

これは、畑会の設立当初から決めていたことであり、現在も変わらずにあるビジョンでもあります。
それは千葉さんたちも同じで、小金井市で農のコミュニティづくりを見事に進めておられます。
千葉さんの想いとして、魅力的な都市農業の事例を集め、発信していきたいという気持ちがありました。私たちも同じ気持ちであるため、一緒になって情報共有、情報発信をしていこうと話が盛り上がりました。
こういった動きはとても大事だと感じています。
地域で農のコミュニティを築くのはとても大事なことなのですが、地域同士でネットワークとしてつながることで、よりお互いのコミュニティを高めることも大事になっていきます。
農のコミュニティ同士のネットワーク。
これが拡がることで、東京都全体の都市農業の認知が大幅に広がり、農地保全や農業経営の改善につながっていくと期待しています。

今回、研修生を通じて知り合った縁を大事にしながら、今後とも「わくわく都民農園小金井」さん達と連携していきたいと思います!
一緒に企画をすることがあれば、また情報発信させていただきます。

中央が千葉さん、左右の方々はスタッフのみなさん

【自己紹介】
非農家でありながら、東京の八王子で農業系サービス事業を展開。
専門分野は都市農業の経営、都市部での小さな農、コミュニティ農業、農のある生活、キャリア視点から見る農などで幅広く農業を語っています。
【研修事業のご案内】
東京キャリアファーム https://tokyo-c-farm.com/
年間を通じて募集中(おススメは春の時期)
ZOOMによる講座を中心として
東京八王子を中心に現場での農業体験も行っています。


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