賢者

わたしがこの1年頑張ってきたことが11月に無事終わった。12月のわたしは蛻の殻だった。

朝起きてもぼんやりしているし、授業中も先生の声なんて入ってこないし、そもそも授業に出ることすら面倒に思うことが増えた。
付き合っている人も好きな人もいなかったので、よし、遊んでみようと思って、いわゆるワンナイトというやつを経験した。
いや、正確に言うと、結局翌日もその人の家に泊まらせてもらったし、何ならその後も会ったりしているからワンナイトではないのかもしれない。とにかく、身体だけの関係というものを初めて経験した。今ではある程度彼の性格だとか好き嫌いだとかは分かるけれど、その時に知っているのは出身地と通っている大学と学年と名前くらい。
大学生のうちに1度はこういう“遊び”をしてみたいと思っていたので、ワンナイトしたこと自体は全く後悔していないし、むしろ「社会人になるまでにしたいことリスト」の項目を1つ達成したから満足している。相手も素敵な人だったので運が良かった。

その後もわたしの好奇心旺盛な探求心は止まることを知らず、2週間だけで4人と関係を持った。最初は、打ち込むものがないという寂しさを紛らわすための行為であったが、次第に「もっと上手くなりたい」という向上心を満たすための行為となった。

今日もホテルへ行った。しかし、前から薄々気付いていたことではあるが、1つ確信したことがある。
やはり好きな人とじゃないと気持ち良くなれない。

もちろんお互いに快楽を感じるところ同士を擦り合わせている訳だから、肉体的には気持ち良い。しかし精神的には全く気持ち良くない。今日だって、身体は興奮していたけれど頭はずっと賢者モードだった。ああ、自分何してるんだろう。ここのホテル代で欲しいトートバッグが買えたし、この時間で明日締切の課題を進めることができたのにな、とか。実際にホテルを出た後に一人で駅ビルで買い物をしたのだけれど、ちょうどホテル代として使った2000円分だけ足りなくて、欲しかったニットワンピースが買えなかった。最悪。

19時頃家へ帰ると母親が布団でうんうんと唸っていた。そういえば昨日3回目のワクチンを打ってくると言っていたっけな。母親が苦しんでいる時にわたしはホテルで好きでもない人と身体を重ねていて、なんて情けないんだろうと強く後悔した。親不孝な娘でごめんなさい。母親の背中をさすりながら、わたしは泣きそうになっていた。

親に言えないことはしてはいけないなと思って、もうこういう遊びはやめようと決めた。いや、でも実際に、いわゆるセフレがいることのメリットも感じているので、そういうことをするのは彼1人だけにしようと決めた。病気も怖いし、万が一妊娠でもしたら、誰の赤ちゃんかをはっきりさせたいというのもある。

そのような長い賢者タイムを経て、今はもう“遊ぶ”ことはしていない。春からの一人暮らしに向けてバイトでせっせとお金を貯めるのに忙しいことと、大学の期末レポートがじわじわと顔を出してきているからだ。

飽き性なわたしは12月の頭に初ワンナイトをしてから、わずか1カ月で遊びに飽きてしまった。やっぱり好きな人じゃないと気持ち良くない、という真実に気付けただけ、この期間に意味があったのかもしれない。

ま、後悔してないからいいけど!この1カ月刺激的で楽しかった!