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新型コロナウイルスワクチンと2021年の薬剤師

ここ数年、年末年始に、1年を振り返り新たな1年に思いを馳せるということを、ゆっくり出来たことがない。強いて言えば、治療中に仕事をセーブしていた年ぐらいだろう。あの頃も、これからの働き方を考えないといけないなと思っていた。けれど、フル勤務に戻ったら元の木阿弥。日常は淡々と過ぎていく。動画みたいに、一時停止ボタンもないから、立ち止まっても時間は過ぎていく。

昨年は、新型コロナウイルスワクチンとの関りが生活の一部を占めていた。

湯水のようにコロナに関する情報が流れていた。自分だって発症するかもしれない。薬局を営業できなくなったらどうしよう?そんな不安もあり、日々、見落としがないようにしていた。

1月の末、「希釈研修行ってくる」というツイートがタイムラインに流れてきた。おお!ついに薬局薬剤師が予防接種に関われるようになるんだ!というのがその時の感想。地元でも、自治体から医師会や薬剤師会に対して協力申請が届いていた。どうやら本当にやらなきゃいけないようだ。早速、医薬品卸の営業さんを通じて、早い時期に研修会を行っている地域の情報を、薬剤師会の要職にいる先生に伝えてもらった。

研修会に必要な物品を揃えるにあたり、かなり参考になる記事だったようだ。

4月、当地でも2回の研修会が開催された。注射器の扱いや、バイアル内の圧力のことなど、もう少し基礎的な内容の研修を期待していたが、必要な道具が配布され、「さあ、やってみましょう」と、後に行うワクチンの希釈と分注の真似事をするだけの研修会だった。前職の病院でも、注射薬の混注業務をやっていたわけではない。卒後〇十年を経過した薬剤師なのに、ほぼ初心者という状況。やってみましょうと言われてもできるはずがなかった。それでも、5月からのシフトに自分の名前が入っていた。研修会で使った物品は持ち帰り可能だったので、GW中に家で触ってみたが、今となってはあまり意味のないことだったように思う。

集団接種の初日、接種会場を覗きに行った。元来、不安を感じたら自分の目で確認して解消したい性質の人間だ。場の雰囲気をつかんで、自分の出務初日に臨んだ。

出務当日。その日は平日の午後で、90人分のワクチンを希釈・分注することになっていた。希釈は、ワクチン1本に生理食塩水を1.8mL注入して行う。そこから0.3mLずつシリンジに分注して、5ないし6人分のワクチンを用意する。かなり繊細な作業だ。看護師さんが勉強がてら手伝ってくれたこともあり、2時間程度で業務終了。思ったより楽だと感じた一方で、背中がバキバキにこっていた。その日の夕方と翌日の仕事に疲れを引きずってしまった。

次の出務はいよいよ日曜の朝。早起きが苦手なワタシが朝8時から仕事をちゃんとした。奇跡的だ。なにせ、役所の人たちや地域のお医者さん、看護師さん、消防士さん、ボランティアのみなさんが集まって行う仕事だ。手を抜くことはできなかった。日曜はさすがに接種人数が多く120人分だったが、運営側が慣れてくると、180人、200人と増えていった。これに合わせて、ワクチンを準備する作業のペースを上げる必要があった。

ところが。
次の週からシリンジが変わるらしいよという話が聞こえてきた。やっと慣れたのにな。不安なので、自分の出務日の前に接種会場に顔を出し、新しいシリンジを触らせてもらった。

・・・これはどうやって空気を抜くの?そもそもシリンジが硬くて操作しにくいんだけど?

また初心者の自分に戻った。振り出しに戻ったようなものだ。

時間を気にしつつ、正確な作業を求められるときには不安が邪魔をする。

幸い、ペアを組んだ薬剤師さんが上手で作業が速い人たちだったので、見よう見まねでコツをつかむことができた。不安が解消すれば、あとはスピードを上げるだけだ。

慣れたころのこのツイートがバズった。使いにくいシリンジで頑張っている人たち、悩んでいる人たちが沢山いた。Twitterでの情報交換は役に立ったし励まされた。

いろんな意味で話題になった2mLシリンジを使い切った後は、出務する度に違うシリンジが用意されていた。これはこれで神経を遣う。

集団接種用のシリンジは、厚労省から自治体に送付された。時期が来ると、どこのメーカーのどんなシリンジが発送されるのか、ホームページを通じて周知されていたものの、実際届いてみないとどんな道具が届くかわからない。どんな道具が届いても対応しなくてはならない。ああ、これは災害医療なんだなあと実感した。これまでの自然災害と異なり、コロナは地球規模の災害。今回は、自分も含め、みんなが当事者だ。そんな風に感じた。

5月から10月まで、集団接種に出務した。その間、6人の薬剤師さんとペアを組んだ。休みを潰して出務するのは楽ではなかったけど、普段、ゆっくり話をする機会がない人たちとの関りが新鮮で、楽しい時間だった。10月の出務が終わったとき、少し寂しいような気持ちになった。

明けて2022年。変異株が流行して、追加接種が始まった。ワタシも昨日3回目の接種を受けた。久しぶりに希釈・分注業務も行った。またまた初めて使うシリンジで、手探りの作業だった。

2022年もこの生活が続くのだろうか?

日記のような記録だが、自分のため、誰かのため、未来のためになるよう、ここに残しておきたい。



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