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増加するまちごとホテル(後編)

こんにちは、コーイチです。
今回は、前回の前編のつづきで、他のまちごとホテル2例を見ていきたいと思います。


1.HOTEL 講 大津百町

①商店街活性化のホテル計画

(出典:ACT BBC チャンネル youtubeより)

 滋賀県大津市にある「HOTEL 講 大津百町」は、※『ステイファンディング』がコンセプトの宿で、滋賀風情を感じる昔懐かしい商店街に溶け込み、暮らすようにゆったりと寛ぐ宿泊体験ができる施設となっています。
※「ステイファンディング」とは、滞在することで街の活性 
 化に貢献する新しい旅の形のこと。

 滋賀県は2019年来、朝ドラや大河ドラマの舞台ともなり、その県庁所在地である大津には「三井寺」や「石山寺」といった名刹があり、「比叡山延暦寺」の表玄関もあります。
 歴史を振り返ると、東海道五十三次最大の宿場町、大津宿には多くの人と物資が往来し、「大津百町」と呼ばれるほどに賑わいました。
 豊臣秀吉が坂本城を廃城としたのちに大津城が築かれ、現在の市街地を形成し、江戸時代に城下町から商業都市へと変わって、幕府の天領として発展しました。
 しかし現在、その面影はなく、中心部に約1500棟の町家が残るものの、その数は年々減少しています。
 築100年を超える住宅の多くが取り壊しの危機に直面し、同エリアに位置する丸屋町、菱屋町、長等の3商店街からなる「ナカマチ商店街」も、シャッター化が進んでいました。

 商店街では活気を取り戻すために新店舗を誘致したり、イベントを開催したりといくつかの取り組みを行ってきました。
 滋賀県竜王町の「株式会社木の家専門店谷口工務店」、代表の谷口氏も、大津支店を構えるために、自社の技を生かした町家再生を考えていましたが、「株式会社自遊人」の岩佐氏への相談をきっかけに町家再生、商店街活性化のホテル計画へと舵を切ることになりました。

②施設概要

(出典:YouTube「自遊人」より)

 商店街をひとつのホテルとして見立てた「HOTEL 講 大津百町」では、リノベーションした個々の町家は客室の一室で、商店街にある飲食店や喫茶店はホテルのレストランやカフェにあたり、地酒をそろえる酒屋、江戸時代創業の漬物店、琵琶湖の恵みである鮒ずし専門店など多彩な商店は、みやげものショップにあたります。
 ゲストは食事をするにも、物を買うにも、必然的に街に出て店舗を利用することになり、結果、商店街にお金が落ちる仕組みとなっています。
 ホテル名に入る「講」というのは、信頼関係を基盤とした相互扶助システムのことで、困った時に互いに手を差し伸べる、日本的な支え合いの精神がその核にあります。

 「HOTEL 講 大津百町」の建物自体は全部で7棟13室の客室があり、そのうち5棟は1棟貸しで、「ナカマチ商店街」を中心に点在しています。
 もとの町家の特徴を活かしながら現代的にアレンジした建物は、素材、技術を含めて本物にこだわったものとなっており、快適に過ごせる現代的で洗練された空間へと変貌を遂げました。
 古き良き日本家屋の雰囲気を保ち、誰もが一度は暮らしてみたい「家」になっているのがこのホテルの魅力で、心地良く過ごせる空間を追求しています。
 有名デザイナーの北欧家具や最高級の寝具、女性に嬉しいオーガニックアメニティなど、ラグジュアリーなワンランク上の滞在を体感できる施設となっています。
 レセプションがあるのは、「近江屋」棟で、まずはここでチェックインを行い、それぞれのお部屋まで向かいます。
 また、ホテルではコンシェルジュが案内する宿泊ゲスト向けの商店街ツアーを開催していて、チェックイン後の夕方1時間程度、商店街を散策し、主なスポットをガイドしてくれます。

2.hanare

①木造アパートを改装

(出典:ルトロン - おでかけ動画メディア youtubeより)

 東京の下町情緒が残るエリアとして人気の「谷根千」で根津・千駄木と並ぶひとつである「谷中」。
 古い建物が多く残っており、車が一台ギリギリで通れるくらいの細い路地、道路に影を落とす木々が並び、昭和の面影をそのまま残している街並みです。
 日中は多くの観光客が訪れ、谷中銀座商店街で食べ歩きを楽しんだり、近くの根津神社でお参りをしたりといった観光コースが人気の場所でもあります。
 そんな「谷中」の裏路地にひっそりと佇む「hanare」は、「ゲストに本当の谷中の魅力を感じてもらいたい」という思いのもと、木造アパートを改装し2015年11月にオープンしました。

 レセプションのある「HAGISO」が誕生したのは、「hanare」オープンの2年前の2013年で、当時築55年以上の木造アパートを改装し造られました。
 「HAGISO」の誕生は、2011年の東日本大震災がきっかけで、各地で古い空き家を壊す動きが盛んとなり、この谷中エリアに立つ「萩荘」も、その対象となりました。
 失われてしまう前にきちんと「萩荘」に別れを告げるセレモニーを行おうと、かつてここで学生時代を過ごした仲間たちが立ち上がり、建物全体を展示スペースにした展示会「ハギエンナーレ」を開催、地域住民含め多くの人が来場し、イベントは大盛況で終了しました。
 古びた木造アパートながら、若者の手によって多くの人が集い、かつての活気を見せた「萩荘」の様子を見た大家さんは、歴史を抱えた木造アパートのポテンシャルを目の当たりし、大家さんは「取り壊すのはなんだかもったいない」と話したところ、「萩荘」の元住民の「株式会社HAGI STUDIO」代表取締役 宮崎氏が「萩荘」のリノベーションを提案し、取り壊し寸前だった「萩荘」が「HAGISO」として新たに生まれ変わることとなりました。

②宿泊施設概要

(出典:hanare web movie youtubeより)

 チェックインは、JR日暮里駅から徒歩約5分の場所に立つ「HAGISO」という施設で行います。
 2階の部屋のひとつが、「hanare」のレセプションスペースになっており、そこにに入ると、「hanare」コンシェルジュがウェルカムドリンクと共にお出迎えがあり、名前を告げて、チェックインを済ませます。
 チェックイン時にコンシェルジュからもらう小さなファイルには、ご宿泊の心得、銭湯チケット、朝食チケット、そして「hanare」オリジナルの谷根千町歩きマップが入っています。
 このマップには、「千駄木 / 団子坂 / よみせ通り」「根津 / へび道」「谷中銀座商店街 / 日暮里」「さんさき坂 / 上野桜木」で区分した4エリアそれぞれの、コンシェルジュたちがおすすめするランチ、カフェ、ショップ、体験スポットなどの店舗を掲載し紹介しています。

 チェックインが完了したら、コンシェルジュの案内のもと「hanare」の宿泊棟へ移動します。
 「hanare」のロゴが上品に飾られた宿泊棟は、「丸越荘」という木造アパートを改装し、5部屋の宿泊棟へと生まれ変わった建物となります。
 梁や入り口からすぐの階段、窓ガラスなども当時のままで、古き良きものと新しいものが融合した空間が広がっています。
 部屋は全部で5つとなり、「YATSUDE」「KONOHA」「HIKARI」などと名付けられた宿泊部屋は、それぞれ窓の磨りガラスの模様から命名しているということです。
 宿泊部屋は窓枠に床の高さを揃え、視線が外へとスムーズに抜け開放感を感じられる設計となっており、天井は木造の躯体をそのままにしており、木の風合いを楽しめる仕上がりになっています。
 壁は白やグレーで統一することで、琉球風畳や柱の風合いと調和しており、「和」のテイストを程よく残した落ち着きのある室内となっています。

 「hanare」という宿泊施設は、あくまで寝泊まりをする場所であり、チェックインも朝ごはんも、お風呂も夕飯も、すべて谷根千の街に足を伸ばす必要があります。
 チェックインと朝ごはんは、宿から徒歩1分に場所に立つ「HAGISO」という施設で、お風呂は谷根千の銭湯を、夕飯は谷根千の夜のお店へ行くこととなります。
 「観光地」としてではなく、地元の人たちが生活を営む本来の谷根千の姿を垣間見ることができる宿泊施設となっています。

3.最後に

(出典:VMG Hotels & Unique Venues youtubeより)

 今回は、数多くある「まちごとホテル」から、3つの事例を見ていきました。
 ここ数年でこのような「まちごとホテル」は増加してきています。コロナ禍の苦しい時期を過ぎ、現在のインバウンド需要の回復を実感していることかと思われます。

 「まちごとホテル」では、「NIPPONIA」が開発するような古民家を利用した分散型ホテルがもっとも多いですが、中には雑居ビルの元スナックを宿泊施設にしている例やビルを改装し、全室スイートクラスの客室にしているようなホテルもあり、今後も色々なホテルが出来てくると思います。

(出典:Birupaku TV youtubeより)

 地方創生活動の中でも持続可能な事業として注目を集めているのがホテルです。
 ホテルには地元以外の人が集まるうえ、仕事や雇用の創設など、地域経済活性化につながる継続可能な施策となるからと言われています。

 ホテルがあることで地域以外の「県外」の人を呼ぶことができ、変わったコンセプトや内装、サービスが魅力的なホテルは、それだけで人をひきつけ、遠方や県外の人を呼び寄せることが可能になります。
 またホテルは、地域経済を活性化することができます。
ホテルは宿泊がメインになりますが、宿泊と合わせて食事、購買、レジャーなどの経済活動はほぼ確実に行われることになるため、単純に地域のお店を利用する人が増え、地元交通を利用し、飲食店などの利用が増え、お土産が売れるようになります。
 また、ホテルが出来ることで、仕事が生まれ、雇用が増え、ホテル関連の商取引が始まります。
 こうして良い循環が起こり、地域経済を活性化することになります。

 更に、ホテルは地域の魅力を発信する力があります。
ホテルのコンセプトやその土地ならではのおもてなし、地域の歴史や地域との関わりなど「ストーリー」を発信することで、多くの人々をひきつけ、長く愛されるようになります。  
 また、最初はホテルだけが注目されたとしても、地域の魅力を知るきっかけにもなります。
 このように、ホテルは地元で眠っていたローカル資源を活用することができます。

 地方で利用されていない建物を利用して、このような「まちごとホテル」を作り、地域一体で協力し、まちの魅力を伝えていくことで、今までは特に観光客が来ないような地域でも、魅力的な地域に変えていくことが出来るのではないかと思います。

 古い建物を残してリノベーションするのは、建替えよりも高くつくケースも多いですが、その地域ならではの「時間」を感じさせる施設の場合は、古いものを残すことは大切かと思います。
 これから「まちおこし」を考えている行政、民間の方も一度、地域の資源をよく見て、このような開発をしてみてはいかがでしょうか?

 今後もこのような施設が出来、元気な地域が多く出来ることを楽しみにしています。

今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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