WSET Diploma合格しました〜体験記②〜
こんにちは。前の記事では3つ同時受験を終えたところまで書いていました。
今回はその続きになります。試験の話と結果をまとめて記載しているため3つ同時受験の結果の時系列よりは前の話となります。
Diploma Candidatesとの出逢い
D2,4,5試験が終わった後、SNSで声をかけていただいていた方と会場の外でご挨拶させていただきました。
この時に出逢った方と一緒に勉強会を開いている先輩Diploma Candidateの方から勉強会に招待していただいたため数回参加させていただきました。
ここでのお二人には公私共に今も大変お世話になっております。
その他、別のDiploma Candidateの友人と毎月Diploma D3試験形式のテイスティング勉強会も行っていました。
元々自宅でソムリエの友人達を呼んでブラインドテイスティングを行ってはいましたが、Diploma試験に合わせたテイスティングディスカッションを行う機会がたくさんあったのはありがたかったです。
D6試験提出まで
僕の目標である最短合格のためにはD6試験は7月31日提出の課題で終わらしたいと思っていました。
この時の課題はSustainabilityについてです。
正直に言うと僕はこの課題はとても苦手でした。何故かと言うと日本の社会ではSDGsの言葉が独り歩きしていて、ごく一部、特に自然環境についてのSustainabilityにしかなかなか目が当てられていません。
かく言う僕自身もあまりSDGsについて概要は理解しているものの実際の労働環境だったり社会的なSDGsなどについては疎かったです。
実際、課題はワイナリー環境の問題や労働者の問題、消費者の問題など幅広く思考しなければいけないものでした。
どのようなアプローチで書くのか、文法などはこれであっているのか、時間は2週間程度しかなかったため、かなり切羽詰まっていました。
他のテーマならもっと手が動いたのでしょうが、さまざまなワイナリーの労働に関してのSustainabilityについて調べたり、そこからの課題について考えたり本当に苦手な分野のリサーチって大変ですね。
ただこの経験があったおかげでワインプロダクトそのものだけを見るのではなくワイン産業を俯瞰的に見ていけるようになりました。
結構頑張って書いたんですよね。さて結果は・・・
え・・・Passですか。そうですか。
まぁでも合格していればよい!どこかの産地の話みたいなクローズドの問題だったら簡単だったのに・・・とか思いながらもとりあえずさっさと片付けられたので一安心です。ちなみに50−60時間程度かかったみたいです。書いてた時間は10時間程度でそれ以外の時間はずっと何について書いたらいいのか、結論をどう持ってくるのかなどでずーっと悩んでました。
ネイティブイングリッシュの友人
D6試験は文法や構成などで15点分あります。日本人の書く論文とは構成も変わってくるので一度ネイティブの人に添削してもらった方が確実かなぁと思います。
僕はたまたまインポーターの友人に「見てあげるよ!」と言っていただけたのでお願いしました。
細かい言い回しなどもどうしても受験英語ばかりを齧らされていたので「こう書くんだ・・・」とか「あ、ここは省略していいんだ」とか思うことがありました。
そもそも日本人の書く答案自体もどこに結論があるかを探すのが大変だったり前置きが長すぎたりするので答案の作り方とかも一度ネイティブの人に聞いた方が吉です。
D3試験受験まで
D3試験を受けるかどうかの葛藤
6月の3つ同時受験から1ヶ月ほど無気力状態になり、軽く鬱っぽくなっていたせいでD6試験の開始が7月半ばと締切ギリギリ。
またその後、10月のD3試験を受けるのか、3つ同時受験で落ちているであろうD2試験を受けるのか、はたまた同時に受験するのか悩んでいたため勉強の開始は8月20日くらいからとなっています。
8月18日に3つ同時受験の結果をメールで旅行中にいただき、もうどうにでもなれ!えいや!ってD3試験の振込みをしました。
正直、3つ同時受験で失敗したかもしれない不安や試験に落ちることへの恐怖、二度と落ちたくない、落ちたら自分の価値なくなるかも、とか相当追い込み自己暗示をかけすぎていたので本当に悩みました。
悩みすぎて2,3回泣きました笑
特に申し込みを悩んだタイミングからは2ヶ月ちょっとしか勉強をする時間がなかったため、この時は最短合格記録更新とか考えずにひとまず最短の1年半で合格できればいいかとかかなり弱気になっていたような気がします。
D3試験の勉強計画
2ヶ月ちょっとしかないD3試験の勉強期間。最初にやることを全て厳密に決めました。
厳密にとか言いながらヤマを張るところをある程度決めただけです。
どうやって決めたかと言えばExaminers' Reportを全て確認して出題割合を調べたのとD3試験は試験後48時間経過すると情報が出回るのでそちらの情報調べて予測していきました。直前に出た産地は1回見ただけでそれ以上の勉強は無理にはやりませんでした。
ただし、もちろんヤマを張って当たっただけで受かる試験ではありませんので悪しからず。
そもそも全ての産地をある程度答えられることが前提です。
試験は次のような構成になります。
D3試験はTheoryとTastingの2日間で構成されており、1日目がTheory試験です。
1問当たり100markで午前4題から3題、午後3題から2題を選び回答していく試験でそれぞれに評価が与えられます。
ただし、最終的な合否は5問の合計点で決まります。
書くべき内容は設問で指示されますが、その問いに対しての回答を補足できるような知識であれば加点となります。例えば具体的な生産者だったりその生産者が作るワインのクオリティや価格、市場でどのように売れているかなどですね。
そのためある程度ワイン産地の知識が元から広くあるとなんだかんだ書くことができます。例えば、ロゼワインの問題が出たとして、普段から好み飲んでいれば多少勉強が甘くても「どんなスタイルなのか、どんな品種を使うのか、どんなクオリティなのか」などは想像がつきます。
さらに想像ついたものについて考えていくと、その産地の立地などから気候や土壌も想像することができるため、D1試験の知識を用いて基本的なことは書くことができます。
つまり
ヤマを張る→確実に高得点(Pass with Merit: 65%以上)が取れるくらい勉強する。
広く浅く勉強する→大体の気候や土壌、ワイン法、作られるスタイルがそこそこ把握できている、あるいは経験があるため想像できる。
というような形となります。
D3試験自体はかなり短い期間での勉強となってしまいましたが合格できたのはやはり、座学のみではワインは語れず!であり、日々飲むワインを常に理解することが試験合格に役に立つ!ということだったのかなと思います。
特に試験ではマーケットについて触れる問題も多く、「このワインはどのようなマーケットでどのような消費者に販売されるのか」なんかも日頃から考えておくと試験の時もスラスラ書けると思います。
恐らく座学じゃないとカバーできないのは「歴史」にまつわる問題かなと思います。
2日目がTasting試験で午前に①同一品種3アイテム②同一国3アイテム、午後に③同一地域3アイテム④全てのワイン3アイテムの構成となっています。
ワインの評価だけでなく、なぜその地域や品種だったのかやその他追加の設問がそれぞれにあります。
Tasting試験はここまで受験している人なら基本的に落ちることはなく、Level3でちゃんと合格できていればPassは超えるかと思います。
Tasting試験が難しいと感じる場合があるとすれば、そもそも一部の地域のワインしか経験していないことだったり、座学が全然足りていないことにいます。
教科書に出ている産地のワインは全て経験しておくべきです。
試験には原則があります。
品種のフライトであれば、少なくとも様々な産地で作られている品種や同じ地域でも糖度などにより異なるスタイルが作られているものになりますし、国や地域のフライトであれば、それを特定するための特徴的な品種だったりスタイルがあったりします。
つまり明らかな大多数の人が想像し得ない答えは出ません。
全てのワインのフライトは最近はよく1アイテムは土着品種が問われているように思います。
総じて「Diploma受験生はある程度以上の土着品種までは経験していて当たり前」というメッセージが想像できます。実際に、直近の2回ではベルデホやネロ・ダーヴォラ、クシノマヴロが問われています。その前ですとトカイアスーやハンターセミヨン、ピノタージュが問われたりもしていますが、2023年2回のD3試験から固有品種や市場で有名な品種ではないものの割合が高まったように感じます。
これは「高価格になり続けるワインだけでなく代替品種や代替産地に目を向けなさい。」というメッセージでもあるのかなと思いました。
高価格帯のワインばかりがもてはやされていては遠からずワイン産業は需要が減り一部の人間のみが楽しむものとして廃れていくでしょうしね。
僕が試験を終わってから後悔したのは品種を答える際に1つしか書かなかったことです。主要品種の割合が大きいですが、ブレンドのワインが問われることも多く、解答欄にも「Variety/Varietis」と書かれているのに書かなかったことは少しもったいなかったかなと思いました。
複数書いたから加点となるかはわかりませんが、そのワインのスタイルを明確にわかっていることを示す一つの手段だったかなと思います。
D3試験結果と当時の心境
D3試験は280時間の勉強時間でした。
さて結果は・・・
TheoryはPass with Meritが2つ、Failが2つ、Fail Unclassfiedが1つという歪な結果ですが総合57%でPassでした。
Tastingは品種: ピノグリが58%、国: チリが65%、地域: ローヌが69%、全て: 81%で総合68%でPass with Meritでした。
TheoryについてはFail 2つもあと1%でPassだったこととFail Unclassfied 38%の問題は得意な産地なのに時間がなくて60%分の問題にしか触れられなかったことを考えると歪ではあるものの書くべきことは比較的書けていたかなと思います。
自己採点が270-285点/500で275点という合格点の瀬戸際予想でしたが、285点だったようです。
Tastingについては品種・国・産地を全て当て、Flight4も81%取っているにも関わらずPass with Distinctionを取れず残念でした。
ピノグリでバンカーと呼ばれるキーになる産地を読み違えてしまったためクオリティアセスメントやピノグリを選んだ理由が大きく減点されてしまったことやチリでnormal カルメネールとプレミアムCSブレンドをnormal CSとプレミアムカルメネールと読んだことで選んだ理由が減点されてしまったことがPass with Distinctionを取れなかった敗因かと思います。
とても悔しいです。
しかし、まさか2ヶ月ちょっとでD3試験に合格できると思わなかったので驚きました。普段から率先して様々な産地のワインに触れてきた自分にもそういう機会を与えてくれていたソムリエの友人達にも感謝です。
結果を聞いたのは福岡の旅先で電話でした。
Tastingしか受かっていないと思ったのでどちらも合格を聞いた時はパニックになって薬院駅周辺という人の多い駅の近くの路地裏で一人で泣いてました笑
驚きすぎてしばらく動悸がおさまらず、うまく話すこともできなかったのもいい思い出です。
D2再試験受験まで
D3試験を受けてからは1月のD2試験まで勉強を再開しました。
今回は単独の受験なのでかなり気分が楽です。というよりもリラックスして最初の1ヶ月ある11月は旅行に行ったり自分の誕生日があるから東京で遊びまくったりしていました。
12月に入ってからは流石にまずいと思い、2023年1月の試験に向けて本腰を入れます。
D2試験は主に①ワインの値付けに関わるもの(栽培〜ボトリング〜輸送まで)②ワイナリー形態と販路について③マーケティング戦略・プロモーションについての3部構成です。この3つの構成から必ず1問ずつ以上出ます。
時間は60分ですが、恐らく全試験で日本人にとって1番時間が足りない試験になるのではないかと思います。個人的には内容よりも時間との勝負の試験でした。
①ワインの値付けに関わるもの
これは単純に畑取得・維持に関わるコストの話、醸造過程のコストの話、運送コストについてを考えていく問題が多いです。
ただしワインは世界中で販売されるものである以上為替の問題が生じてきます。
為替リスクをどのように回避ないし軽減するか、などを考えていかねばいけません
また値段というのは需要と供給が大きく関わってくるのでそれに関わる因子を正しく理解する必要があります。
経済的要因、社会的要因、政治・法律的要因なんかがありますが、この辺はそのまんま問われそうですね。
②ワイナリー形態と販路について
これについてはワイナリーがドメーヌなのかエステートなのかのみでなく、ブドウ栽培のみなのか、あるいはカスタムクラッシュのような施設なのか、バーチャルワイナリーなのかなどに加えて小売業で販売するのか接客業で販売するのか、そこに関わる中間職に対する正しい理解が必要となります。
また日本では馴染みがないThree-Tier-SystemやMonopoly Marketについてしっかりと正しく理解することも必要です。
③マーケティング戦略・プロモーションについて
ここについては、全てのプロモーションの手段を丸暗記するに限ると思います。
その上で安い大量生産のワインと高級で少量のワインにおいてどのプロモーションが有効なのか、それはなぜなのか、についてを考えていくようにすればいいと思います。
この時知識があれば具体的なワイナリー名を出して行っていることを述べることができるといいと思います。
D2試験で大切なこと
D2試験に限らずなのですが、特にD2試験で大切だと思うのでここに書くことにしました。
Diploma試験は今後、栽培・醸造や流通を知った上でワインビジネスにプロとして関わるためのコアとなる試験だと思います。そして、これは全ての人にわかるように説明できるようになる必要があるということになります。
というのも、特に流通に関わる相手というのはワインのプロだけではありません。
例えばスーパーマーケットにワインの提案をする際に、「大量に作れて安いワインを自社ラベルでやればいいよ。」といって通じるでしょうか。これに対して、例えばCharls Shaw wine's のtwo buck chackみたいなと具体例を挙げることがワインを詳しく知らないが流通に関わる人間にも伝えやすくする方法かと思います。
D2試験は実はこういった具体例を挙げていくことがとても重要です。
栽培醸造やワインそのものに関わる部分以上にワイン関係者以外の部門も関わってくる分野だからこそ何も知らない人にも伝わるような説明をしっかりできるようにするべきだと思います。
D2試験の結果
無事に合格していました。再試験の勉強時間は160時間でしたのでD2試験はトータル230時間ほど勉強したことになります。
終わった直後の予想得点はまさに63%だったのでどんぴしゃだったのですが、気持ち的にはあわよくば65%オーバーでPass with Merit取れてないかなぁと思ってました。
最後に
何はともあれ、これにて全ての試験をPassしWSET Diploma試験が終わりました。1年間突っ走り続けたので今は手持ち無沙汰な日々が続いております。
受験のペースはそれぞれですので、各々のペースで勉強すればいいと思います。
特にプロとして産業に関わるつもりがない場合は決して必須の試験ではないのでしんどくなったら諦めるでも構わないと思います。
日々好きなようにワインを楽しむことが1番の楽しみだと思います。
その一方で、やはり専門職として流通に関わる人間は履修してほしい課程だと思います。特に海外と関わることが多い方は尚更かと思います。
WSET Diplomaで勉強することは大変なことですがこれでも氷山の一角です。ただ、氷山の一角を学ばずにさらに多種多様なワイン産業を理解できるとは思えません。何事も基礎が大切。
僕自身もWSET Diploma試験が終わったからゴールではないと思っています。
ワイン産業に関わり、停滞している日本のワイン産業をどのように発展していく必要があるのかを考えていけるように更なる自己研鑽をする必要があると感じています。
WSET Diplomaはゴールではなくワイン産業にプロとして関わるためのスタート地点。
今後はMaster of Wineも目指したいと思いますが、知識や経験、語学力も不足しているためさらに成長していけるように日々努力していきます。
2部構成で長くなってしまいました。日本語が不適切な場面もあるかもしれません。厳しいことも言っていると思いますが、全て本音です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。