ダブルピーク!~JKがタクティカルシューターで日本一を目指す~ 08章43話「樹那と良瑠」
久々の樹那のルームは相変わらず簡素なままだった。
(相変わらずだなぁ。でも、受験中なんだからGATEはにログインもしてないんだろうな)
良瑠はそう思いつつ、目の前に立つ樹那のアバターを見る。
予想通り本人アバターだ。
何か大事な話がある、ということだったので良瑠も本人アバターで来たのだが、正解だった。
【Jyuna:急に呼び出して悪かったね。よく来てくれた】
本当のことを言うと、良瑠は迷った。
あんな態度を取ってしまって、どんな顔して合えばいいというのか。
しかし先輩から呼び出しを無視するわけにはいかなかった。
【Raru:いえ。昨日は申し訳ございませんでした】
良瑠は頭を下げた。
現実に頭を下げると、アバターもそのように動く。
この程度の動きは本人をカメラ撮影することで追従するようにできているからだ。
ダンスを踊ったり、手を降ったり、座ったりという大きな動きはエモートという機能を使うことで実現できる。
【Jyuna:いや、ウチも急に発表したのはよくなかったと思う。やっぱ良瑠には言っておくべきだったよね】
【Raru:先輩は悪くないです。ボクがわがまま言ってしまっただけです】
【Jyuna:良瑠の気持ちも分かるよ。一回抜けたくせに、未練たらしく戻ってきてさぁ。しかもリーダーって言われても、ね。もう真希波のリーダーでチームがまとまってきたところだろうし。それで決勝大会まで進出したんだもんね。あ、遅ればせながら、おめでとう】
樹那は手を叩くエモートで祝福してみせる。
【Raru:あの、ボクは別に先輩が嫌いとかではなく――】
【Jyuna:麗羅のことか?】
良瑠は胃が縮まったような心持ちになった。
チームが樹那派と麗羅派に分断してしまったとき、彼女は麗羅についてしまった。
その事を悔いているわけではない。
だが樹那からは敵対したと思われても仕方のないことだ。
【Raru:はい……。ボクはどちらかといえば麗羅先輩の指示が的確だと思っていました。今でもそうかもしれません】
【Jyuna:うん。それは分かる。ウチの指示は感覚的だもんね。ウチもきちんと根拠を説明したいんだけどさ、そういうの苦手だし、試合中はそんな時間もないし、伝わると思い込んでしまっていたところもある。そこは反省してるんだ。申し訳ない】
【Raru:そんな! 謝らないでください】
【Jyuna:ウチはやっぱ、口下手なんだよ。だから、今日も良瑠にはちゃんと説明しておかなきゃと思って。それで来てもらったんだ。まず、ウチがチームに戻るのは本当に予定外だったんだ。ウチが推薦に合格できたのもたまたまだし、真希波が勝手にエントリーしてたことも知らなかった】
【Raru:そうなんですね……】
【Jyuna:真希波から合格祝いのメッセージが来てさ。そんとき真希波から相談されたんだ。このままやっていく自信が無い、って】
【Raru:真希波先輩が?】
真希波はそんな素振りは一切見せなかった。
部活で会えば、いつも通りの明るい彼女だった。面白い話をして盛り上げてくれた。練習でよくないミスがあっても決して責めず、励ましてくれた。
そんな彼女を、新たなリーダーとして認め、尊敬していたし、憧れもあった。
一体何を悩んでいたのか、良瑠には見当もつかなかった。
【Raru:そんな感じしませんでしたけど、何にお悩みだったんです?】
【Jyuna:簡単に言えば、実力不足。ってことかな。一番弱い自分みたいなヤツがチームを引っ張っていけるはずが無い。そう言ってた】
【Raru:強さとリーダー・シップは関係ありません! 真希波先輩の指示は的確でした!】
【Jyuna:うん。ウチもそう思うし、言ったよ。真希波のデータ収集と分析、相手の行動予測はとんでもないし、誰も真似できないぞって。けど、納得いかないみたいだった】
【Raru:それに、負けている時でも盛り上げて、雰囲気をよくしてくれました】
【Jyuna:うんうん。それはぜひ、本人に言ってやってくれ】
良瑠の真っ直ぐな意見に、樹那は軽く笑った。
これが彼女の良いところでもあり、危ういところでもある。
彼女に認められれば、心強い味方になってくれるだろう。しかし、そうでなければ、反発を受けてしまう。
それが今まさに、樹那が乗り越えなければならない試練だった。
【Jyuna:それならお前が強くなればいい。そう言ったら、もう自分にはこれ以上の成長はない、だと。高校生で諦めるのは早いと思うんだけどね、でもあの真希波がそう言うんだから、根拠があるのかもしれない。それで、真希波から提案されたのが、自分はアナリストとしてチームのサポートに回ると、代わりにウチにリーダーをやって欲しいってことだったんだ】
【Raru:なるほど……】
【Jyuna:で、どうだろう。大会まではまだ時間がある。それまで真希波の言う通りやってみないか? もし良瑠がダメだと思うのなら、正直に言ってもらっていい。そしたらウチは降りるよ】
【Raru:そこまでおっしゃってくださるなんて……ボクなんかにそこまで気を使っていただかなくても……】
【Jyuna:良瑠も、声呼も、友愛も灑も、今やチームの主力。一人欠けてもここまではこれなかったはずだよ。みんなの意見を尊重するのは当然だよ】
【Raru:分かりました。一緒にがんばりましょう!】
良瑠は手を差し出し、樹那はそれを握った。握手のエモートだ。
ひとまず、新たなチームは始まった。だが、本当の試練はこれからだ。と、樹那は身が引き締まる思いだった。
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