ダブルピーク!~JKがタクティカルシューターで日本一を目指す~ 08章41話「初詣」

 年末年始は声呼のお気に入りの時期だ。
 学校は休み、テレビはつまらない、外も寒くて出る気にならない、だから退屈だ。というのが普通の感覚だろう。

 だがゲーマー声呼にとってそれは絶好のゲーム日和なのだ。
 それが正味一週間ほどある。

 親戚へのあいさつ回りは、正直に言えば面倒だ。だがお年玉を貰えると思えばそれも我慢できる。
 そのお金で新たなハードを買うか、高価なデバイスを買うか、考えるだけでワクワクする。
 そんなお年玉を狙い、ゲーム会社も大型ゲームをリリースしてくる。

 声呼もCE以外にやりたいシングル・ゲームがたくさんある。
 小出しにされる新作情報を眺め、ずっと楽しみにしてきたのだ。
 それがいよいよプレイできる。

 まさに天国だ。

 そんな日々を満喫していた大晦日の夜。
 スマホに友愛からメッセージが来ていた。

【Toa:ねぇねぇ、チームみんなで初詣に行かない?】

(初詣、か)
 初詣にあまり良いイメージは無い。
 混雑していて、寒い中長時間並ぶことになる。それに耐えられるほど信心深いわけでもない。
 家族イベントなので仕方なく付き合っているが、できれば家にいたい。
 声呼はベッドに寝転び、仰向けでメッセージを打った。

【Seiko:誰が来る?】
【Toa:まだ声呼にしか声かけてないよ。みんなにも聞いてみるね】

(もし一人でも欠けるようなら、わたしも適当なこと言って断ろっかな?)
 スマホを枕に投げ捨てるように置くと、パソコンの前に座った。
 電源を入れ起動まで数秒待つ。
 表示されたログイン画面に流れるようにパスワードを打ち込むと見慣れたデスクトップ画像が表示される。
 それからGATEを起動させる。それはいつもの儀式だった。

 が、GATEのアイコンをダブル・クリックしようとしたところで、再びスマホに通知があった。
 何事かと手にとって見る。

【Toa:みんな行くってよ。声呼も来るっしょ?】

(早っ! もう返事きたの?)
 まだ三分も経っていないだろうに、全員から返事が来たというのか。声呼はにわかには信じられなかった。

【Seiko:みんなって全員?】
【Toa:うん。真希波先輩も行くってさ】
【Seiko:えっ? 先輩も?】
【Toa:だからー。みんなって言ったじゃない】
【Seiko:にしても返事、早くない?】
【Toa:それは友愛も思ったw】

 リプライの早さは友愛も予想外だったらしい。
 となると、実は皆、かなり行く気満々なのではないか、そう声呼は予想した。
 これはもう、行かないとは言えない状況である。

【Seiko:分かった。いつ行く?】

※※※

 集合場所の駅改札にはすでに良瑠、友愛、灑の姿があった。
 どうやら遅刻らしい。声呼は「ごめん、待った?」と手を振りつつ近寄っていった。

(へー、普段着はこういう感じなんだ?)
 付き合いは八ヶ月ほどだが、よく考えてみればこれまでメンバーの私服を見たことがない。

「声呼、あけおめーことよろー」

 友愛は紫のショート丈のダウン・ジャケットを来ている。首周りは白いファーがあしらわれ、防寒性能も高そうだ。
 対象的にボトムは黒いショート・パンツで、足は黒い厚手のストッキングに包まれている。

「明けましておめでとう。声呼ちゃん。大丈夫。ボク達も今来たとこだよ」

 良瑠は黒い革のライダース・ジャケットで首や袖口からインナーの青いニットが少し顔をのぞかせている。
 下は濃いめのスキニー・ジーンズに白いスニーカーだ。

「声呼。あけおめ」

 灑は薄いピンク色のダッフル・コートに赤いチェックのマフラーを巻いている。
 そのマフラーと合わせたような赤いチェックのフリルスカートで、ムートン・ブーツを履いているが、足はなんと生足である。

「あけおめ! そっか。あとは真希波先輩だけね」

 声呼はいつもの部屋着であるスウェット上下に上から黒いベンチ・コートを羽織っただけ、というファッション・センスの欠片もない格好である。
 実際、彼女はファッションには興味がない。今日の服装も『寒かったから持っている中で最も温かい物を着ただけ』という有様だ。

 四人が輪になって、やれ今日行く神社はどこだとか、年末はどうしてたかだの話していると、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「おっすー! スマン遅れたか」

 茶色の、ロング丈ボア・コートに身を包んだ真希波だ。

「真希波先輩、明けまして――」

 声呼はそこまで言って言葉に詰まってしまった。
 真希波の隣に意外な人物がいたからである。

「みんな久しぶり。明けましておめでとう」

 なんと赤い着物をきた樹那だった。

「えっ! 樹那先輩!? なんでここに?」声呼は驚愕の声を上げた。
「えー! どうしたんですか?」友愛も目を丸くして驚いている。
「真希波に誘われたからさ。良い機会だしな」

 久々の樹那との邂逅。声呼と友愛は喜び、軽く跳ねながら樹那に飛びついた。
 だが、初対面の灑は所在無さげに立ちすくむ。

 そして良瑠は無言のまま、その顔に影を落とした。

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