ダブルピーク!~JKがタクティカルシューターで日本一を目指す~ 09章49話「転入学」
樹那はこの異常事態にあっても、事もなげに言った。
「おおかた名前を変えたんだろ」
GATEのアカウントは一人ひとつが原則だ。
だがプライバシーから本名以外の名前を表示名として登録できる。プレイヤー・ネームを使うのはゲーマーの文化でもある。
そして、その名前は後からでも変更可能なのである。
「名前を変えるって、なんでそんなことを?」声呼は疑問を素直に口にした。
「んー、正確には本人に聞かないとだけど、ウチらを驚かせたかったから?」
「驚かすって……」
そんなおちゃめなことをする二人には思えない。
だが、声呼はそれ以上考えても無駄と、今度は真希波に問いかけた。
「P高はさっきの二人と、あと誰がいるんです?」
「登録名には『Riley』、『RisuxRisu』、『Temp』とあるね」
そのどれも聞き覚えはなかった。
(『Riley』は麗羅からきてる? 『RisuxRisu』はアリスのリスから? 『Temp』は一時的につけた仮名?)
などと予想はしてみるが、どのみち間もなく明らかになるだろうと、考えるのをやめた。
「しっかし、今女を辞めたとは聞いてたけど、まさかP高に行ってたとはねぇ」
樹那は腕組みし、ウンウンとうなずいている。なにか合点がいった、という感じだ。
「でも、転校て可能なんですか?」
「転校じゃなくて転入学だよ」
声呼の質問に答えたのは、良瑠だった。
「へー? 良瑠、よく知ってるね」
「うん。別に隠すつもりはなかったんだけど、ボクはあの二人がP高に行くって聞いてたから」
「え! そうだったの?」
友愛が驚きのあまり、がっしと良瑠の肩をつかむ。
よほど力が入っていたのか、良瑠は顔を歪めた。
「う、うん。実はボクも誘われてたから」
「ええ! なんで断ったの?」
友愛はつかんだ肩を前後に激しく揺らした。
「なんでって、ボクはすっごいわがままいって今女に入ったから。いまさら辞めるだなんて、親に言えないよ」
「そうだったんだ。反対でもされてたの?」
「うん。別に行って欲しい学校があったみたい。だけど、ボクはeスポーツ部に入りたかったから」
「そうだったんだねー! 友愛も一緒だよ」
共通点があり嬉しかったのか、友愛は後ろから良瑠に抱きついた。
頬までこすりつけられ、良瑠は顔を赤く染めた。
「ちょ、ちょっと友愛ちゃん。やめてー!」
「ほらほら。そろそろ始まんぞ」樹那がディスプレイを顎でしゃくった。
ちょうどいいタイミングで、各校のプレイヤーが紹介されはじめた。
セッティング中の選手を一人ひとりカメラがぬき、下に大きくプレイヤー名が表示される。
共創が全員紹介されると、次はP高に切り替わった。
「お、コイツが『Comet』か、んでこっちが『DarkGuru』ね」
『Comet』は黒縁メガネをかけた、黒髪マッシュルームという風体。
『DarkGuru』は髪を赤く染めた、こちらもマッシュルーム・カットで、見た目には二人とも男性に見える。
(見た目だけで判断はできないけど……)
声呼はまじまじ見たが、顔だけでなく、身長、肩幅の広さや胸を見る限り、女性とは誰も思わないだろう。
この二人も気になるが、もっと声呼が知りたいのは別のことだ。
「お、麗羅が出たぞ。『Riley』だって」
(あ、やっぱり麗羅先輩が『Riley』か。てことは?)
声呼の予想は当たっていた。
「でアリスが『RisuxRisu』ね」
これで二人の名前は判明した。
それに真希波がつけたすように、調べた情報を語りだした。
「麗羅とアリス以外は以前から大会に出てたメンバーだね。てことは、二人は転入学してからあっちゅうまにレギュラーになったってことか。P高も相当、強いはずなんだけど」
「ま、それだけ二人の実力が高いということだ。ウチらとしても誇り高いねぇ」
「んなこと言ってる場合ッスか!」
「ま、こっちもあれから強力なメンバーが入ってるからな。なぁ?」
樹那は灑の方を見ながらいたずらっぽく笑った。
「はっ! あちしですか!? そ、そんな、恐れ多い」
「謙遜すんなってぇ。ランクは一番高いんだからさ」
「いやいやいや。まだまだです」
灑は顔をりんご色にして、うつむきながら両手を突き出し、広げた手を激しく振った。
「それに声呼、良瑠、友愛も腕を上げたからな。前より格段に強くなってるよ。アイツらに見せつけてやろうぜ」
メンバーは皆、はにかみながらも誇らしげにうなずきあった。
しかし、始まった試合は予想外の圧倒的な差を見せつけられるものとなった。
「うっそでしょ……。共創も全員、イン・ヒューマンだし、優勝候補って言われてたんだけどな」
真希波は頬に汗を一筋垂らした。
ランクはP高も同じはずだ。しかし、目の前で展開されているゲームは、まるでプロ選手と小学生の試合だった。
「麗羅のやつ、またエースか」
樹那の顔からも余裕の笑みが消えていた。
先程から特に活躍していたのは麗羅だ。
凄まじいエイムと反応速度で敵を圧倒している。
「アリス先輩も、いいカバーしてますよね」
良瑠は脅威を感じつつも、そのプレイに感心すらしていた。
アリスというカバーがいるからこそ、麗羅は時に大胆に動けているというのが分かる。
(わたしたち、このチームに勝てるの?)
声呼も思わず唸った。二人だけでなく、彼らのプレイは、これまで何度も見たプロの動画のようだった。
メンバーたちは疲れも忘れ、最後まで食い入るようにディスプレイを見つめていた。
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