ダブルピーク!~JKがタクティカルシューターで日本一を目指す~ 09章49話「圧勝と伏兵」

 初戦、ファースト・ラウンドがいつ始まったのか、声呼はもう覚えていない。
 最初の行動はいつのも通りだ。何も考えず、ライト・アーマーとエンマクを買う。
 クリアリングしつつアルファを目指す。事前の取り決め通りだ。
 角から敵が飛び出したのでダウンを取った。

 手が勝手に動いていた。

【Toa:声呼、ナイス!】

 突如、耳元で鳴り響く友愛の声で目が醒めた。

 決勝大会はオフラインで観客も入っている。そのため全員その場にいながらも、ノイズ・キャンセリング機能の付いたヘッド・セットを着用しながらのプレイとなっていた。

(あれ? わたし、ダウン取った?)
 これではマズイと、水に濡れた犬がするように、顔を激しく左右に振った。
 二度、両頬を平手で叩く。

【Seiko:っしゃぁ!】

 最後に気合の掛け声を発する。
 しかし、両手を離していたことがピンチを招いてしまった。
 敵の一人が、ダウンした味方の後ろから飛び出してきたのだ。

【Toa:声呼! 気をつけて!】

 それをサポートしてくれたのが友愛だった。
 声呼が大急ぎでマウスとキーボードに手を乗せた時には、すでにその敵はダウンしていた。

【Seiko:あぶなっ! 友愛、ありがと!】
【Toa:おっけー!】

 向かい合っての撃ち合いでは、友愛はまだ不安がある。
 エイム力、反射神経、動体視力はチーム内で一番下といっていい。

 その弱点は自分自身が一番理解していた。だからこそ、単独では動かず、常に誰かの後ろに付き、そのサポートに徹してきた。
 そのおかげで味方がどう動くか、どう動きたいのか、何を考えているのか、そういったことを観察する力が芽生えていた。
 特にいつも一緒にいる声呼に関しては、なんら合図がなくとも、何をすべきか分かっていた。

(声呼はスロー・スターターだから、このラウンドは気をつけないと)
 声呼は調子を上げるまで少し時間がかかる。本人すら意識していないそのことを、友愛だけは気づいていた。

 開始から3ラウンドを順調に勝利する。こうなると声呼もノッてきていた。
(こうなるともう手がつけられないんだよねー)
 友愛はアーティファクトを運ぶ役に徹し、倒すのは声呼に任せる。

 このレベルの相手では、正面切って声呼を止めることはできない。
 友愛は油断せず、声呼が取り逃した敵にだけ気をつければいい。

【Raru:ロング、クリアしました】

 こうなると良瑠も動きやすくなる。
 声呼に気を取られていると、裏に回った良瑠からやられてしまう。

 そういったことが続くと、思うように動けなくなっていく。
 常に、どこからともなく飛び出てくる敵に怯え続けることになるのだ。

 今女と古月の差はどんどん開いていた。
 12-0のストレートで攻守が切り替わったが、ここまでの力を見せられてしまうと、古月に逆転できるという希望はもはや残っていなかった。

※※※

「いやー、楽勝ー!」

 真希波はごきげんで、真っ先に控室に戻った。
 モニターの電源は入れっぱなしだ。間もなく二戦目、P高校『Souterminationサウターミネーション』対、広島共創高校『広島共創高校eスポーツ部』が始まろうとしている。

 疲れているであろう、チーム・メイトのためにお茶など入れてやろうとポットから急須へお湯を注いていると、皆が帰ってきたようだ。
 どやどやと騒がしい音が近づいてきていた。

「お疲れ様!」

 樹那を先頭に、ぞろぞろと室内に入ってくる。
 皆、一様に機嫌がいい。
 笑顔で和気あいあい。友愛はなぜか声呼の首を腕でロックしながら入ってきた。

「さてー。今日はもう試合は無いし、高みの見物といきますかぁ」

 樹那はモニター正面にどっかと陣取り、真希波の入れた茶をすすった。
 他のメンバーもパイプ椅子を持ってきて、その左右に並んだ。
 真希波はたったまま、樹那の背後から覗いている。

「P高と共創、どっちが勝ちそう?」樹那が首だけ振り向き、言った。
「どっちもかなり強いッスね。初戦から好カードッスよ。けどアタシの予想ではP高ッス」
「へぇ? 注目は誰?」
「P高の『DarkGuru』と『Comet』でしょうね。イン・ヒューマンですけど、ゴッド・ライクにもうすぐ届きそうっていう実力ッスよ」

 声呼はその名に聞き覚えがあった。あの女性限定大会で戦った相手だ。
 あの時初めて、手も足も出ないと思わされた対戦相手に出会ったのだ。忘れようもない。

「その二人、あの女性限定の時の相手ですよね?」
「ん? あれ? そうだっけ?」
「そうッスよ。先輩、忘れたんスか?」

 真希波は覚えているようだが、樹那はすっかり忘れてしまっているらしい。

「お、おい! ちょっと待て!」

 樹那が指差すのは会場の画面だ。
 両チーム選手たちが席につき、準備を始める様子が映し出されていた。
 樹那が大きな声を出した理由は、すぐに判明した。

「え!? 麗羅先輩に……アリス先輩?」

 声呼は驚き、困惑した。まさか『DarkGuru』と『Comet』はあの二人だったのか?
(いや、あのとき一緒に同じチームにいたんだから、そんなはずは、ない)
 即座にその可能性は否定する。

 だが、画面上で見る限りは、二人以外は全員男のように見える。

「おかしい。登録選手にあの二人の名前は無かったはず」

 真希波は手元のスマホに目を落とす。
 その手が小刻みに震えていることを、声呼は見てしまった。

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