ダブルピーク!~JKがタクティカルシューターで日本一を目指す~ 07章39話「現実」
後半戦も一つ取れば一つ取られるという展開が続く。4の差が縮まらない。
届きそうになると、離される。
こういったことが続くと、思ったより精神が疲弊していく。
『グラジオラス・ブーケ』は8ラウンド目を取ったが、その次に取り返され、『MIH』はそれで12ラウンド勝利。
マッチ・ポイントを迎えていた。
防御側『MIH』はアルファ内に二人、ミッドに一人、ベータ内部に一人を配置。『C++』一人だけベータからショートの前に出たところで待ち伏せていた。
『C++』はジュピターを構え、スコープを覗き、待機する。
攻撃側『グラジオラス・ブーケ』はベータのショートに声呼と友愛。ロングから真希波と灑が行くという、ベータ本命の作戦だ。
良瑠は一人でアルファへちょっかいをかける。
まずダウンされたのは友愛だった。
友愛も油断があったわけではない。少し段差があって高くなっているところに登り、ヘッド・ショットされないようにしつつ、ショートにピークした。
が、運悪く『C++』の持つジュピターは胴体でも一発ダウンを奪えるスナイパー・ライフルだった。
ほんの少し見えた体に、弾丸が撃ち込まれてしまう。
【Toa:ゲッ! ダウンしちゃった!】
報告を聞いた声呼はすぐにピークするが、そこにはスモークが焚かれている。
ダウンを奪った『C++』はすかさずスモークに隠れ、ベータへ戻っていった。
【Seiko:くっ、逃げられた!】
【Raru:声呼ちゃん、そっち行く!】
一人になった声呼をサポートすべく、ミッドにいた良瑠がベータへ向かう。
【Seiko:同時に行くぞ!】
声呼の合図でショートとロング、同時にエントリーする。ベータの守備を固められる前に、『グラジオラス・ブーケ』は勝負に出たのだ。
声呼はハッソウで飛び込む。真希波はそれに合わせて入り込んだが、すぐ後ろにスモークを焚かれ、灑と分断されてしまう。
孤立したところをベータ内部で待ち受けていた一人にダウンさせられる。
【Makina:灑、気をつけろ! ロング見られてる】
スモークで視界のない灑は入るに入れない。
一方、入り込んだ声呼は内部にある箱に身を隠した。
それはちょうどコントラクターと同じ高さの箱だったが、そこに隠れたことを『C++』に見られたのがいけなかった。
『C++』はフーマのウルト、シュリケンを使い、さらに上に飛び上がるスキル、タキノボリを使った。
高い位置からは声呼の頭が丸見えになる。そこに、シュリケンを叩き込んだ。
声呼に続きエントリーした良瑠は、ベータの応援に駆けつけた選手にやられ、ほぼ同時にスモークが消えたところで入り込んだ灑もダウン。
あっという間の出来事だった。
最後はパーフェクトを奪われ、『グラジオラス・ブーケ』は1ゲーム目、8-13で敗北となってしまったのだった。
次のゲームまで、五分間の休憩が与えられた。
真希波は手を叩きつつ、鼓舞するように言った。
「オッケー! 8ラウンドも取ったぞ!」
だが、それに返事を返す者はいない。
最後の負け方があまりに良くなかった。
あそこまで圧倒されるとは、誰も思わなかったのだ。
「次は相手の攻撃から始まるぞ。ここを凌げばチャンスはあるからな」
真希波は言うが、自分でもそれは厳しいを思っていた。
これまでの試合では、マップはコイン・フリップによってどちらかの希望マップが選択されていた。
だが、決勝はまずお互いに希望したマップで2ゲーム行う。それぞれが1勝した場合、最後のマップはコイン・フリップによって決まる、というルールだ。
そして次のマップは相手の選択した、『MIH』の得意とするマップだった。
確かに8ラウンドは取った。だがそれは自分たちが選択したマップだからである。
得意マップで負けた。その事実は重い。
そのことを、全員がよく理解していたのだ。
あの友愛ですら、口を一文字に結んだままだ。
(何を……何て言えば良い?)
真希波は脳をフル回転させ考えた。
だが妙案はそう都合よく思いつくものではない。
「さ、気合入れて行こう!」
口から出るのは気休めのセリフだ。
だが真希波は手を叩き、声を出し続けた。
自分だけは絶対に折れてはいけない。そのことだけは本を読まずとも分かりきっていることだったからだ。
時間は平等に流れ、容赦なく次のゲームが開始された。
重要な最初のピストル・ラウンド。
【Rei:ダウン……】
開始数秒で、灑からの、力のない報告があった。
普段ならそう簡単にやられる彼女ではないはずだ。
(ダメだ。自信を無くしちまってる!)
真希波にも彼女の気持ちは痛いほど分かる。
同程度の武器、装備で撃ち負けるということは、自尊心を削り取る。
次に良瑠もダウンを奪われると、『MIH』はアルファを制圧。
ロケット設置に成功する。
『グラジオラス・ブーケ』もアルファをリテイクすべく、声呼を先頭に集結するが、三対五の数的不利はそう簡単に覆るものではなかった。
次々にダウンを奪われ、またもパーフェクトでラウンドを落としてしまったのである。
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