ダブルピーク!~JKがタクティカルシューターで日本一を目指す~ 09章47話「再会」
電車の混雑具合に辟易としていた声呼だったが、まさかそのほとんどが、同じ駅で降りるとは思いもしなかった。
「これ、まさか全員、全国高校eスポーツ大会の観客ですかね?」
人混みに押されながら、前を歩く樹那に向かって恐る恐る聞く。
「ここで降りる目的っていったらそれくらいだろうね。去年もすごかったけど、さらに増えた感じ」
「そんなに大きい大会なんですか……」
知っていたつもりだったが、実際にこの人混みを目にすると、なんだか場違いなところに来てしまったようで、落ち着かない。
なにせ自分たちは客ではなく選手なのだ。これほど多くの人の前に立つなど、今までに経験がない。
自意識過剰かもしれないが、歩いていると、なんだか視線を感じてしまう。
「いやー、さすがアタシら目立ってるッスねぇ」
「ま、この制服だからな」
見られているのは気のせいではなかったのだ。真希波と樹那のやり取りを聞いて合点がいった。
この制服はあまりに目立つ。
デザインもさることながら、今女は今や、高校eスポーツ界では知らぬ者のいない学校なのだ。
改めて見ると、こちらを見ている人々は何か自分たちの噂話をしているように見えてくる。
「今女の皆さん、おはようございます!」
(ゲッ! 話しかけてきた!)
遠目に見ているだけならともかく、絡んでくる者まで出てくるとは。しかも若い男だ。同じ高校生だろうか。
声呼は怯え、樹那の背中にくっつき、身を隠した。
「あ! おはようございます! 今日はよろしくお願いします」
(あれ? 樹那先輩のお知り合いかな?)
親しげに返す樹那の様子から、興味が湧いた声呼は肩越しに顔を半分だけ出して覗き込んだ。
黒地に所狭しと多数の企業ロゴが入った派手なTシャツを着ている細身の男だ。
着ているのはユニフォームのようだ。同じく出場するどこかの高校の生徒だろうか。
「よかったー。今日はちゃんと会話してくれて。予選の時みたいに怒鳴られたらどうしようかと思いましたよ」
黒髪を真ん中から分けた男は安心したのか、涼やかに笑っている。よく見れば、スッキリとした塩顔のイケメンだ。
どこかの男性アイドルグループのメンバーだと言われてても違和感はないくらいだ。
「怒鳴られたって? 真希波、どういうこと?」
「へ? 何のことやら……あっ! あー! ひょっとして、あんときの!?」
(あ! オンライン予選で話しかけてきた人か!)
真希波の反応を見て、声呼も思い出した。この人だったとは。
あの時はミュートにしていたから、ナンパだと思いこんでいた。別の用事だったのだろうか。
樹那は軽く、真希波の頭にゲンコツを落とした。
イタッと言って頭を押さえる真希波。
「これはウチの者が失礼しました」
「いえいえ! いきなり話しかけたこっちが悪いんです。叱らないであげてください」
「ほれ、真希波も謝んな」
「その節は、失礼いたしました。ところで、どちら様で?」
「馬鹿! ユニフォーム見たら分かるだろ! 松原情報高専の方だよ」
(松原!? 『MIH』の人だったの?)
声呼はすべて理解した。やはりあのときも試合前の挨拶をしてくれたのだ。
それなのにあんな対応をしてしまったのは、なんと失礼なことだったか。
これからは対戦相手のユニフォームもちゃんとチェックしようと心に誓った。
「いえ、ちゃんと自己紹介してない僕が悪いんです。皆さん、はじめまして僕は松原情報高専、一年の『C++』って言います。当たるとしたら決勝ですね。お互い頑張りましょう!」
「おお! 君が真希波が言ってた松原のエース、『C++』選手だったのか! よろしく。ウチは今女三年の樹那。こっちが真希波で声呼、友愛、良瑠、灑だよ」
「同じ一年の友愛でーす! よろしくぅ」
友愛はそんな軽い調子で歩み寄り、右手を差し出した。
握手を求められているのだと察した『C++』は、苦笑いを浮かべ困惑しつつ、その手を握った。
(友愛のコミュ力、どうなってんだよ……)
声呼は呆れつつも、どこかでそれを羨ましく思った。とても自分には真似できそうもない。
「あなたが声呼さんなんですね」
「え?」
突如『C++』が声呼に声をかけてきた。
(なんでわたしに?)
樹那の背後に隠れる自分にわざわざ声をかけた理由が分からず、困惑した。
「僕もフーマ使いなんで、勝手に意識してたんです。また戦いたいですね」
「あ……は、はい。そうですね」
意図が分かりホッとしつつ、気の利いた返答もできない自分にがっかりしてしまう。
恥ずかしくなり、樹那の背中に顔を埋めた。
「な、何してんだ、声呼」樹那が呆れて言う。
「すみません。僕が驚かせてしまったみたいで」
「いや、こちらこそ無礼ばかりで申し訳ない」
「とんでもないです! では、皆さん、決勝でお会いしましょう!」
「うん。他のメンバーの方々にもよろしく」
「はい。伝えておきます」
『C++』は素早く一礼し、踵を返すと人混みの中に消えていった。
「ふーん、なかなか爽やかなイケメンじゃないの。声呼、気に入られてんじゃない?」
「ひゃ?! ちょ、変なこと言わないでください!」
奇声を上げ、顔を桜餅のように染める声呼。
他校の生徒など、プレイ以外のことはまったく興味を持たなかったが、これからは彼のことを意識してしまいそうだ。
しかしそれは恋愛みたいな浮ついたものではなく、単に同じフーマ使いのライバルとしてだ。そう声呼は自らに言い聞かせるように内心で何度も思った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?