ダブルピーク!~JKがタクティカルシューターで日本一を目指す~ 07章38話「暗雲」

 攻めの制限時間のわずか十秒前だった。『C++』を先頭に、『MIH』は次々とアルファになだれ込んできた。

【Makina:やられた! ロング、ロング!】

 真希波がまず倒れた。最後に見たものを報告する。

 ポイントに至るまでの道のうち、長い通路をロング、短い通路をショートと言う。
 『MIH』は全員がまとまってロングからエントリーしてきたのだ。

 それは下手をすれば全滅するリスクもあった。
 だが彼女たちが撃つよりも先に、スキルによる邪魔が入った。

【Seiko:スモーク! 見えない!】
【Toa:ダウン! 入ってきてる!】

 声呼の視界が塞がれる間に、友愛もダウンを奪われる。

 三対五。

 報告を聞き、ベータを守っていた灑とミッドにいた良瑠はベータへ向かう。

 しかし良瑠の行く先はは緑の何かで埋め尽くされた。
 ウンゲツィーファーのスキル、ギフト・ヴァンドだ。視界を遮るだけでなく、触ればダメージを受ける毒の壁を展開する。

 近道から行くのは危険と判断し、裏道で灑と合流する。
 声呼も人数不利とみて、一度裏へ引いた。
 三人揃ったところでアルファのリテイクを狙う。

 『MIH』はその時間でロケットを設置した。

(行くしか無い、か)
 こちらの動きは読まれている。このまま裏道から入っていくのは危険が多い。
 だが、遠回りしている時間もない。
 刻一刻とロケット発射の時間は経過していく。

 不利を承知で声呼はハッソウを使って飛び込んだ。
 目に入った敵を撃つ。

 見事頭を捉えダウンを奪うが、横ら弾が飛んでくる。十字砲火だ。
 声呼はそちらを向く暇もなくダウン。
 しかし、声呼に気を取られていた敵を、良瑠が撃ち抜き二つ目のダウンを奪う。

 これで二対三。

 だが反撃はここまでだった。
 残る三人に囲まれた灑が為す術なくダウンすると、さらに良瑠にも襲いかかってくる。
 良瑠は解除を諦め、アルファから離れる判断をした。
 敵にキルをされないためだ。

 だがロケットの噴射に巻き込まれてダウンしなければ、防御側の生き残り敗北のペナルティで1,000キャッシュしか入らない。
 そのためあまり遠くに行くこともできない。

 曲がり角で身を潜め、出てくる敵を撃つべく構える良瑠。
 敵もどこかに潜んでいることは分かっている。三人がカバーしあい、クリアリングしてゆく。
 ついに見つかった良瑠は撃った。が、相手の射撃スピードが上回っていた。
 先頭を歩いていた『C++』による射撃であった。

 メンバーたちの間には重苦しい空気が淀んでいた。
 初戦前半を4-8のビハインドで折り返していたからだ。

 最初こそ『MIH』が取れば『グラジオラス・ブーケ』が取り返すと一進一退の攻防を見せ、4-4と接戦を演じていた。
 しかしそこから一気に4ラウンドを取られ、悪い流れになってしまった。

 その雰囲気を打ち消すべく、真希波は普段から大きめな声をさらに張った。

「次から攻撃だ。相手の苦手とする防御だからな。こっから取り返すぞ!」
「すみません。わたしが活躍できないせいで……」

 そんな真希波の気も知らず、声呼はうつむいたまま消え入りそうな小声で言った。

「おいおい。声呼は良くやってるよ。気にすんな!」
「そうだよ。最後はボクが悪かった。もっとサポートしなきゃいけないのに」

 落ち込みは良瑠にも伝染していたらしい。
 そしてそれは、悪いことに灑も同様だった。

「いんや! みんなは悪くねーっす! あたちが下手だったんです!」

(待て待て。今そんな話するんじゃない!)
 真希波は焦った。
 反省するのは悪いことではない。だが試合中においては絶対にやってはいけないのだ。
 これはeスポーツに限らず、あらゆるスポーツで言われていることだった。

 真希波はリーダーを任命されたとき、あらゆるリーダー論の本を読み漁ったのだ。
 そのほとんどに、そのような内容が書かれていた。

「いやでもさぁ、前から比べたらマシじゃないっすかぁ?」

 どうにかして会話の流れを変えなければ、と思った矢先。
 そんなことを軽い声で言い放ったのは友愛だった。

「いやー、灑は知らないと思うけどさ。前の『MIH』との試合なんて、ボロ負けだったよ。ねぇ、声呼?」
「うん。2ゲームで4ラウンドしか取れなかった」
「そうそう。今なんて、1ゲームの途中なのに、もう4ラウンド取ってるし。前回と並んだよ! 友愛達、強くなってるよ!」
「おう! そうだそうだ! 全然、イケてんぞ!」

 乗るしか無い、このビッグン・ウェーブに。真希波は立ち上がり、拳を握って言った。
(友愛、ナイス!)
 友愛に目線を送り、うなずいてみせた。
 だが友愛は意味が分かっていないようで、まばたきを何度もしている。

「そっか。そうだよね。こっちなんて、前の主力メンバーほとんど抜けてるんだから」

 良瑠も大きく首肯した。

「そうそう! 向こうは三年がいるんだからな! それを考えたら十分、戦えてるよ。さ、こっから気持ち切り替えんぞ!」
「おー!」

 全員が右手を挙げ、再び士気を上げた。

 だが、現実は彼女たちの前に容赦なく立ちはだかった。

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