ダブルピーク!~JKがタクティカルシューターで日本一を目指す~ 08章42話「報告」

 一月三日の神社はやはり混み合っていた。
 前後左右、全てが人の壁で囲まれ、自分がどこにいるのかも分からない。
 少しずつ、前には進んでいるようだ。
 樹那、真希波、声呼の三人が先に並び、後ろに友愛、良瑠、灑がいた。

「樹那先輩はやっぱり、合格祈願ですか?」

 友愛が背中越しに樹那に問いかける。
 樹那は首だけ振り返り、答えた。

「そんな神頼み、するわけないだろー。世界平和だよ、世界平和」
「嘘くさー!」
「ホントだって。そういう友愛は何をお願いすんだ?」
「友愛たちはもちろん、大会優勝祈願ですよ!」
「コラコラ。そんなんじゃダメだぞー。実力で勝負しなきゃ」

(わたしも別に、願いなんかないなー。家内安全とか?)
 大会に勝ちたいのはもちろんだが、それを願うのは、樹那の言う通り、違う気がした。
 樹那はそのまま今度は灑に話しかけた。

「灑ちゃんっていったっけ? はじめましてだね」
「あ、はい! 佐藤灑っていいます。以後お見知りおきを」
「あはは。これはどうもご丁寧に。ウチは谷口樹那だよ。元チーム・リーダー」
「はい、お噂はかねがね」
「噂ぁ? おい、真希波。変なこと言ってないだろうなぁ?」

 言いながら真希波の頭頂部をはたいた。

「ったぁ! 言ってないッスよ! なぁ?」
「はい! 真希波先輩はいつも褒めてました!」
「ホントかぁ? どうなんだ、声呼」
「えっ! ほ、本当ですよ。わたしも褒めてましたから!」
「そっか。ま、信じてやるとしよう」

 樹那は灑から良瑠に目を移す。
 だが彼女はうつむいたまま、目を合わせようとしない。
 樹那は鼻から大きく息を吐き、前を向いた。

 楽しく喋っていると、時の流れが早く感じるものだ。
 気がつけば、声呼の目の前に賽銭箱があった。柱に『二礼二拍手一礼』と書かれているので、鈴を鳴らしてからそれに従う。

「疲れたし、どっかの店で休もうよ」

 樹那の提案で、駅の側にあったチェーン店のカフェに入る。
 テーブル席に座って、近況など報告しあうなどし、楽しい時間を過ごす。

 そこで真希波が口に拳を当て、コホンと咳払いを一つした。

「さて、ここでちょっと、みんなに言わなきゃいけないことがある」

 真希波が急に改まったので、一同は喋るのを止め、彼女に注目した。

「実はな、今日樹那先輩をお呼びしたのは他でもない……先輩にチームに復帰してもらえることになった、という報告がしたかったんだ」
「ええ?!」

 声呼と友愛は驚愕し、店内に響くほど大声を上げた。
 良瑠は何も言わず、胸の前で両手をきつく握った。

「こら。あんま大声出すな。ご迷惑になるからな」
「すみません。でも、本当ですか? 受験はどうするんです?」と声呼。
「それなんだけどな、ウチは推薦でもう合格が決まったんだ」
「えっ、推薦!? すげー! 先輩、頭いいって本当だったんだ」友愛は尊敬の眼差しを送った。
「疑ってたのかぁ? ま。それはいいとして……で、真希波から誘われたってワケ」
「でもでも、もうエントリーは済んでますよ? 今から追加メンバーってアリなんでしたっけ?」

 声呼の記憶では、エントリー時点で補欠も含め全てのメンバーを登録しなければならない、とあったはずだ。
 とはいえ、事故や病気など不慮の事態で参加できないということはありえる。ならば、そのための救済措置があっても不思議ではない。

「それそれ。ウチもそれ言ったんだけどさ。なんとビックリ。エントリーにウチの名前も入れてたらしいんだよ。信じられるか?」
「いやいや。用意周到と言って欲しいッスなぁ。なんせ、アタシらカツカツなんで。こんなこともあろうかと先輩も入れておいたんスよ」
「どんな事態を想定してたんだよ……」
「まぁまぁ。結果オーライじゃないッスか。つうことで、決勝は樹那先輩がアタシの代わりにIGLになっていただく」
「そうなると、誰が外れるんです?」

 友愛は眉をハの字にして不安そうに聞いた。樹那が入るとなると、実力的に一番危ないのは自分だったからだ。

「抜けるのはアタシだ」
「ちょっと待ってください!」

 これまで黙って聞いていた良瑠がテーブルに強く手を付き、立ち上がった。
 普段、大人しい彼女が見せたことのない剣幕だった。
 隣に座っていた灑は、飲んでいたドリンクを吹き出しそうになったほどだ。

「そんな大事なこと、相談も無しに決めないでください! せっかく真希波先輩がリーダーになって、チームがまとまってきてたじゃないですか!」

 真希波はそんな良瑠の目を、じっと見つめた。

「こないだの予選決勝をやって痛感したんだよ。このチームの足を引っ張ってるのはアタシだ、ってね」
「そんな……!」
「ま、プレイしないからって参加しないわけじゃないぞ? アタシは今後はアナリストとして参加することになる。名目上はコーチだけどね」
「うん。真希波のデータはすごいからな。ウチもいいアイデアだと思う」樹那は腕組みし、大きくうなずく。
「ボクは納得できません!」

 そう言い放つと、良瑠は通路側に座っていた友愛を押し出し、店から駆け出て行ってしまった。
 周囲の客たちは、何の騒ぎだと、去っていく良瑠と残った樹那たちを交互に見た。
 彼女たちは小さくなって、残ったドリンク類を急いで啜った。

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