ダブルピーク!~JKがタクティカルシューターで日本一を目指す~ 07章40話「チームの弱点」

 今女はそのまま2ラウンド、3ラウンドと立て続けに負けてしまう。
 ここを落とせば流れを取り返すのは難しくなるという、重要な4ラウンド目。

【Makina:良瑠だけベータへ。あとはアルファだ】
【Raru:それ、危なくないですか?】

 この勝負どころでそこまで偏った守りで良いのかと、良瑠は疑問を投げかけた。
 だが、真希波は決して勝負を捨てたわけではない。

【Makina:大丈夫。このパターンはこっちだ!】

 先輩がそこまで言い切るのなら何か根拠があるのだろう、と良瑠も納得し、従った。
 それに真希波の声は力強さを感じさせた。目にも光が宿っている。

【Rei:ロング、二人!】灑が敵を見つけた。
【Seiko:ショートも来てる!】

 声呼も報告するが、同時にダウンも奪われてしまう。
 ヒヤリとしたが、すぐに友愛がフォローに入り、その敵をダウンさせた。
 これで一人づつダウンを奪い合った。

【Seiko:ナイス!】

 声呼は親指を立てた。が、友愛は画面に集中しているので見てはいない。

 続けて幸運が起きた。
 ロングから飛び出た敵がちょうど重なっており、真希波の射撃がその二人を貫通したのである。

【Makina:良し! 二人やった!】

 ベータへは来ないと判断し、アルファのロングを裏から襲おうと忍び寄っていた良瑠は、その真希波の報告を聞き足早にアルファへ向かった。
 念のため、クリアリングはしているが、やはりこちらは掃討してしまったようだ。

【Raru:ロング、敵なし】
【Makina:ショート、二人いるぞ! 友愛、灑】
【Rei:了解。一人やりました】

 ちょうどショートからピークしてきた敵を灑が倒したところだった。
 残る一人も慌てて飛び出してきたが、灑はすぐに身を隠し、今度は反対側から友愛の弾丸が飛んでくる。
 
【Makina:ナーイス!】

(やっぱり、真希波先輩はすごい)
 良瑠は改めて、真希波のデータと、それを基にした予測の正確さを心の内で称賛した。

 こればかりはそう簡単に真似できるものではない。『グラジオラス・ブーケ』の大きな力であり、決勝大会でもきっと通用すると確信を持った。
 だがこれでやっとスコアは1-4。首の皮一枚つながった、というところだった。

 この時だけでなく、真希波の作戦は決して大きく外すことはなかった。
 しかし、相手はそれをことごとく力で跳ね返してくる。

(エイムが、いや、立ち回りが……いや、全てが足りない!)
 真希波は歯噛みした。
 自分の力不足は疑いようもない。
 掴みかけた細い糸が、指先からするりと抜けていった気がした。

 スコアは1-11で攻守が切り替わる。
 またピストル・ラウンドから仕切り直しだ。

 チームを立て直す最後のチャンス。しかしこのとき、すでに今女『グラジオラス・ブーケ』は敗戦を予感してしまっていた。
 もはや何をしても無駄であろう。
 相手の裏をかいても、動きを読み切っていても、たまに意表をついてみても、全て跳ね返された。
 1ゲーム目で8ラウンドも取れたのは一体、何だったのか。
 相手の強さを認めるだけでなく、自分たちの力すら疑いを抱いてしまった。

 もはや真希波も、一言も発することができない。
 ゲームが始まっても、全員が最低限の報告をするだけだった。

「お疲れ様」

 試合終了と共に真希波は力なく言った。
 文字通り、本当に疲れてしまった。
 両腕をだらりと下にたらした。
 すぐに反省会、という気にもなれなかった。
 それに、反省点はすでに自分が痛いほど分かっている。
(このチーム、一番の問題は……アタシだ)

(まだ。まだ遠い、か)
 声呼は天井を見上げた。
 関東最強のチームに、少しは近づいた。
 1ゲーム目はそう思えたが、2ゲーム目で再び突き放された。
 背中に手が届きかけたように見えた。しかしその背は、また小さくなっていく。
 しかし、声呼は諦めたわけではなかった。
 決勝大会までまだ日にちはある。その間に自分が、チームがどれだけ成長できるか。
 そう考えると、すぐにでも練習したくなり、視線をディスプレイへと戻した。

 良瑠は、大会初参加にして初めての敗北を噛みしめていた。
(強かったなぁ)
 感想は、素直な相手に対する賞賛だ。
 不思議と悔しいとは思わなかった。

 灑の頭の中にはこれまでゲームの映像がリプレイされている。
(あの時、こう動くべきだったよね)
 自分の動き、相手の動き、ミニマップでの味方の動き、全て正確に記憶している。
 脳内で何度でもそれを再現できた。
 それが彼女の強さの秘密だったが、彼女自信はそのことを認識していない。
 誰もが当然にできるものと思っていた。
 大会から結果の報告があり、真希波から解散の令が下されるまで、灑はイメージ・トレーニングをやり続けた。

「お疲れっしたぁ!」

 解散の合図と同時に、友愛は飛ぶように立ち上がり、元気よく言った。
 いつまでもくよくよしていてもしょうがない。
 負けは負け。それにまだ終わったわけではない。
 すぐに気持ちを次戦へ向けるべきである。
 友愛は経験からそうしたほうが良いと判断した。
 そして敗戦のことよりも空腹に頭を支配され、この後何を食べようか、などということに思考を割いていたのである。

 こうして彼女たちの全国高校eスポーツ大会、関東予選は幕を閉じたのだった。

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