ダブルピーク!~JKがタクティカルシューターで日本一を目指す~ 07章37話「一年のエース」

 そのプレイヤーの名前は『C++』というらしい。
 ランクの動きを表すグラフはほとんど下がることなく、右へ行くに連れ上昇していく。それだけ負けが少ないということだ。

「これが例の、新加入した一年なんだ」

(これが一年……)
 声呼が改めてグラフをよく見ると、確かに開始時点は今年の四月からのようだ。
 自分と同時期に始めた、ということになる。

 にも関わらず、『C++』のランクはイン・ヒューマン。自分はプラチナだ。
 この差はどこで生まれたか、考えるまでもなくグラフから読み取れた。

(わたしはテスト期間中はゲームは控えてるから、どうしてもその時期はランクが停滞してしまう。でも『C++』にはそれがない)
 学生は学業が本分である以上、声呼でなくともそういう傾向は少なからずある。だが『C++』は常にやり続けている。
 それだけ学業も優秀なのだろう。

 次に注目したのは使用コントラクターだ。
 割合にして八割以上。ほぼ一つのコントラクターに集中している。
 それは声呼と同じくフーマだった。
(わたしと同じか……)

「声呼と同じ、フーマ使いだな。K/Dを見て欲しい」

 K/DとはKillをDeathで割ったもの、キル・デス比と言われるものだ。
 平均して一人で何人の敵を倒せるかを表している。つまり、これが1を超えれば、ダウンを奪う方が上回っている、ということだ。
 CEでは倫理上、キルやデスという言葉は使わずダウンと言うのだが、こればかりは分かりやすくするために他のFPSと同様の書き方をしている。

「これだけゲーム数をこなしていくと、トップ・プレイヤーでも大体1.2から1.3くらいになるんだけどな。コイツはなんと、1.42だ」

 ランクが上がっていけば相手も強くなるのは必然。
 どれだけ上手かろうが、K/Dは1.2から1.3程度になるものなのだ。
 たかが0.1の差、というほど楽観視できない数字だ。

「その秘密はここにありそうだな」

 真希波が指さしたのは「Accuracy」と書かれたところだ。
 人の形をしたアイコンが表示されており、上から「Head」、「Body」、「Legs」と3つの部位に分かれている。

 これは銃弾が相手のどこに命中したかを表すものだ。

 「Body」の部分がグリーンで表示されて、他は白く表示されている。これは「Body」に最も命中していることを示す。
 的が最も大きいのが「Body」なのだから、そうなるのが普通だ。
 そして、各部位の名前の横には比率が書かれている。

「このヘッド・ショット率。これは凄いぞ」

 的が小さい分、「Head」のダメージは他の部位より高くなっている。
 如何に頭に当てるかが撃ち合いを制する肝なのだ。
 30パーセントを超えれば上手いと言って良いだろう。

 だが『C++』は43パーセントもの数値を叩き出している。

「『C++』以外も全員チェックしたけど、コイツがエースと見て間違いなさそうだな」

(わたしは31パーセントくらいだったかな?)
 ゲーム総数で負けているのに割合でも負けている。
 あくまで数字上の話ではあるが、自分より格上と見て良さそうだ。

 声呼は思わず身震いした。だがその目は光を失っていない。口角もわずかに上がっている。
 強敵との対戦が待ちきれないのだ。

「さすが一年にしてレギュラーを勝ち取っただけのことはある。言うまでもないけど、優先して狙うのはコイツだぞ。分かったな?」
「はい!」

 真希波は全員の顔を見て、満足気にうなずいた。
 このデータを見ても、誰も心は折れていないようだ。

 他の選手のデータは、見せるのを控えることにした。
 あまり多くのことを一度に見せられても、人は処理しきれないからだ。
 それよりもシンプルに、一番の脅威を分かってもらえるだけで良い。

 スコアボードには『Java』、『Ruby』、『Python』、『Haskell』そして『C++』。相手高校のプレイヤー名がズラッと並んでいる。
 今女は少し遅れたようだ。しばらくして今女のメンバーも全員揃った。
 そして静かに、決勝戦のファースト・ラウンドが開始された。

 まずはまったくの同条件から始まるピストル・ラウンドである。

 ここを勝つことが重要である、ということはデータによって示されている。
 勝ったほうが多くのキャッシュを獲得できるのだから当然とも言える。

 それにしても、ファースト・ラウンドを勝ったチームの勝率は実に六割を超えるのだ。

 これはキャッシュだけで説明できるものではない。
 仮説はいろいろあるが、決して数値化できない「流れ」のようなものがあるのだ、という意見が一般的である。

 それだけに、両チームとも緊張感が垣間見えた。
 まずは攻撃側となった松原情報高専だが、攻撃が得意な彼らにしては慎重であった。
 時間は過ぎれば過ぎるほど、防御側には有利になる。今女はただ待てば良い。

 どこから来ても良いように、ポイントの各入り口に視線を巡らせ続ける。
 意識を集中し、小さな音も聞き逃さぬよう、耳を済ませる。
 今女の緊張の糸は決して切れることはなかった。

 だが、押し寄せる力の波は、それを超えるものだった。

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