ダブルピーク!~JKがタクティカルシューターで日本一を目指す~ 08章46話「決戦前夜」

 全国高校eスポーツの決勝大会は東京のお台場ハイパーアリーナにて行われることになっていた。

 今女『グラジオラス・ブーケ』は当日、直接会場入りすることになっているが、地方チームは前日に現地近くのホテルに宿泊している。
 まだ寒さの厳しい、二月のことである。

 彼女たちはオンラインで最後のミーティングを行っていた。

【Makina:じゃ、まずは決勝大会に残ったチームをもう一度おさらいしよう】

 真希波はそう言うと、樹那のルームの壁に画像を表示させた。それはすでに発表済みのトーナメント表だった。
 この壁にはプロジェクターのような機能が組み込まれているのだ。

 『グラジオラス・ブーケ』は一回戦、第一試合、いきなりの登場となっていた。
 相手は北海道ブロック代表、札幌古月高校『InsaneLovingインセーンラビング』。

 勝ち上がった場合、二回戦目の対戦相手は、中部ブロック代表、本田西高校『Newbiesニュービーズ』と関西ブロック代表、バロック大阪高等学校『Burningバーニング』のどちらかとなる。

 反対の山の初戦は九州・沖縄ブロック代表、P高校『Souterminationサウターミネーション』対、中国・四国ブロック代表、広島共創高校『広島共創高校eスポーツ部』。
 もう一つは東北ブロック代表、仙台育成高校『SIKエスアイケー』対、松原情報高専『MIH』となっていた。

【Toa:松原とは決勝まで当たらなくてラッキーだね!】
【Seiko:これってくじ引きかなんかで決まったのかな? 運いいねぇ】
【Jyuna:いや、多分チームの強さを勘案して決めてると思う】
【Makina:くじ引きとかルーレットとか一切やってないッスからねぇ。多分、そうでしょう。ま、盛り上げるようにってことでいいんじゃないッスかね】
【Raru:ですね。それに、地方予選を勝ち抜いて決勝まで上がってきたチームなんですから、どこと当っても楽勝というわけにはいかないと思います】
【Jyuna:良瑠の言う通り。ウチらは一つひとつ、全力であたっていくだけだ。ということで、初戦の相手の情報はあるか?】

 真希波は何やら操作すると、画像を変えた。
 そこには初戦の相手、札幌古月高校『InsaneLoving』の情報が書かれていた。

【Makina:初戦、『InsaneLoving』ですが……ぶっちゃけ、勝てると思うッス】
【Jyuna:おいおい、今の話、聞いてたか?】
【Makina:いや、その通りなんスけどねぇ。なんせここは全員ゴールド帯で、配信を見てもアタシらが負ける要素が無いんスよ。どうも北海道ブロックはあまりレベルが高くなかったようで】
【Jyuna:そんな油断して、足元すくわれるなんてことになんないだろうねぇ?】
【Rei:いえ、それに関しては真希波先輩のおっしゃる通りかと思います】
【Toa:そっか。灑って北海道出身だもんね。その辺のことは詳しいんだ?】
【Rei:うん。eスポーツ部はあってもCEに取り組んでいる高校はまだまだ少なくて。やっぱり関東、大阪みたいな首都圏と比べたら劣ると思いますよ】
【Makina:灑の言う通り、他の部門はともかく、CEの予選はたった八校しかエントリーしてなかったそうッス】
【Jyuna:ふーん。そこまで言うなら信じるか。で、何か作戦はあるの?】

 真希波は画像を次の物へ変えた。
 そこには一言「平常心」と書かれていた。

【Makina:大会の雰囲気に飲まれて焦らないこと。いつも通りやれば十分勝てる相手と思うッス】
【Jyuna:そりゃ作戦とは言わないんじゃ……。ま、でも、大会に慣れるという意味では重要な一戦かもしれないね】

 その意見には全員がうなずいた。
 いつもと違うマシンに観客まで入る予定だ。
 そういう状況の中、いつも通りやる、というのはそれほど容易ではないのだ。

【Makina:で、二回戦の相手は、おそらくバロック大阪高等学校『Burning』になるかと。こっちは強いッスよ?】
【Jyuna:関西代表だからね。かなりの強敵だろうね】
【Makina:全員が二年生。イン・ヒューマンが三人、ダイヤが二人のチームッス】
【Seiko:ランクで言えば、わたし達のが上ですね】

 大会前に、彼女たちは全員のランクをイン・ヒューマンにまで上げていた。

【Raru:でもランクが全てじゃないですからね。チームとしての完成度が問題だと思います】
【Jyuna:その通り。油断は禁物だ】
【Makina:それに関して、こちらをご覧いただきたいッス】

 真希波は、今度は画像ではなく映像を壁面に映し出した。
 それはとある試合の一部分を切り取ったもの、いわゆるクリップだった。
 その映像には、見事なエイムで相手を次々と倒し、エースを獲得する様子が録画されていた。

【Makina:この選手がエースと思われるッス。見ての通り、かなりのエイム力があるッス。それと注意すべきは……】

 こうして大会前日の夜は作戦会議に費やされた。
 寝不足にならぬよう、あまり遅くならないうちに解散となったが、その日すぐに眠れた者は誰一人としていなかった。

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