お客様の切手を舐めたのは私です。
知らないって最強。そして、恐ろしい。
私は、切手の貼り方を知らないまま育ってしまった。
「切手をはがきや封筒に貼りたいときは、ペロリンチョと舐めるしかない」
本気でそう思っていました。17歳まで。
水でぬらすとか、糊でつけるとか。他にも方法はあるのに、なぜ?
どうして、舐めなきゃくっつかないと思った?
知らないって怖い。
当時17歳だった私は、セブンイレブンでアルバイトをしてました。
たくさんの食べ物に囲まれて過ごせるし、店長もスタッフもお客さんも、いい人ばかり。本当に恵まれた職場でした。
「今日は何を買って帰ろうかな~」「これおいしそう」なんて考えながらレジを打つ。
そんなある日、髪を黄色に染めた男性のお客様が、同じく黄色に染めた髪の彼女と一緒に来店。常連のお客様です。
「こんにちは!」
愛想のよさをウリにしていた私、ハジケルような笑顔でごあいさつ。
男性のお客様はその日、切手を一枚だけ買った。
そして、私に封筒を差し出し、こう言った。
「その切手、コレに貼ってくれる?」
私「あ、いいですよ。」
男性から封筒をうけとった私は、切手を見つめます。
そして
ペロリンチョとなめて封筒にペタッ!!!
私「はい、どうぞ!」
男性「!!!!」
封筒を受け取った男性の、ギョッとしたような顔が今でも忘れられません。
えっ?なになに?どうしたの?なんかダメなことした?
心の中であわてる私。
あきらかに、男性は私に「ドン引き」している。男性の彼女もまた、引いている。
ドン引きされたのは表情で分かるけど、原因がわからない。
しばらく考えて、出した結論。
「お客様の切手を舐めたのはイカンよな」
その後、黄色い髪の男性がセブンイレブンに来店することはありませんでした。
少なくとも、私がいる時間帯は。
あの男性に申し訳ないことをしました。
他人が舐めた切手を封筒に貼られて、気持ち悪かっただろうに。
私が舐めた切手を貼った封筒、ちゃんと投函できたかな。捨てちゃってたりして。
そして今、私はあの男性に手紙を出したい。
「お客様の切手を舐めて封筒に貼った。」
この経験、ふとした時に思い出しては、恥ずかしさと情けなさでいっぱいになるんです。
どうして気づかなかったのか、考えが及ばなかったのか。
そして今日もまた、胸が苦しくなってしまうのです。
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