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森保ジャパンのシステム変遷と、3-4-2-1導入の可能性

今からおよそ4年前、森保ジャパンが発足した。皆が想像するサッカー日本代表。年齢制限のない"フル代表"である。

森保一という監督は、サンフレッチェ広島を3度のJリーグ制覇に導き、当時は年齢制限のある日本代表(東京五輪世代)の監督も務めていた。

そしてそのどちらでも、彼は3-4-2-1というシステムを採用していた。

(3-4-2-1)

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    ● (キーパー)

そのため、発足当初は「フル代表でも3-4-2-1で戦うのではないか」との予想が多く見られた。

しかし、蓋を開けてみるとそうではなかった。

4-2-3-1

森保ジャパンが採用したのは、サッカー界で最もメジャーなシステムの一つ、4-2-3-1であった。

(4-2-3-1)
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                ● (キーパー)

この意外な現象の理由として最も有力視されたのが、「選手の良さを活かすため」という推測だった。
すなわち、監督の十八番システム(3-4-2-1)に選手を当てはめるのではなく、自ら選んだ選手たちの特徴を見極め、彼らに最も向いているシステムを選んだというわけだ。

思えばザックジャパンも西野ジャパンも4-2-3-1だったし、日本人選手たちに最も向いている形なのかもしれない。いや、そもそもサッカー界屈指のメジャーなシステムなので、日本に限らずどの国でも使いやすいのだろう。

そんなわけで森保ジャパンは4-2-3-1で戦い続けた。状況に合わせて自在に動くトップ下を中心に、2列目の3人の攻撃力は高く、当初は飛ぶ鳥を落とす勢いで結果を出していた。「やっぱり日本人監督だと選手がやりやすいんだろうね!」なんて絶賛されていた。(冒頭の写真は当時のもの。4-3で勝利したウルグアイ戦)

しかし、その後の2つの大きな大会(すなわちアジアカップと東京オリンピック)の両方で、森保ジャパンは掲げていた目標を達成できなかった。

アジアカップでは帰化選手+クラブチーム化*という奥の手を使ったカタールに、東京五輪ではスペインとメキシコという強豪に、それぞれ道を阻まれた。正直、相手が悪かった感は否めない。ボロクソに批判される筋合いはないと思う。だが、目標に届かなかったのは事実だ。

*クラブチーム化… 代表チームは本来ほとんど練習時間を取れないのだが、特定の1〜2クラブに代表選手を集結させることで練習時間を大幅に増やし、クラブチーム並みの戦術完成度に到達する手段


そこに追い打ちをかけたのがW杯アジア最終予選である。6大会連続(当時)で突破している予選だが、毎回苦労させられてきた難所でもある。最終予選経験のある選手たちが口をそろえてその過酷さを語ることからも、我々の想像以上にハードな実情が推し測られる。

ここで森保ジャパンは史上最大の危機に陥った。皆さんもご存知の通り、開幕3戦で2敗を喫したのだ。トップ下で攻撃を牽引するはずの鎌田大地の不調や、守備に難のあるボランチ柴崎の重用で、攻守共にクオリティが大幅に落ちてしまった。
これは予選敗退コース。さすがにダメだ。とりあえずコーチの内部昇格でいいから、今すぐ監督を交代するべき。誰もがそう思っただろう。


4-3-3

しかし特に交代はなされず、そのまま森保ジャパンは維持された。

3試合を終えて1勝2敗。今後はひたすら勝ち続けるしかない。(噂によると一度でも勝利を逃せば監督解任だったらしい)
そんな崖っぷちに追い込まれた森保一は、第3戦と第4戦の合間の4日間で大きな決断をする。
慣れ親しんだ4-2-3-1を捨て、"強豪向きのシステム"とされる4-3-3に変更したのだ。

(4-3-3) ※ 本来ならば中盤は逆三角形になるのだが、日本代表は横一列に並ぶ形だった。

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               ● (キーパー)

変更されたのは中盤(ミッドフィルダー)の構成。トップ下で機能不全に陥っていた鎌田大地と、ミスを連発していた司令塔・柴崎岳をスタメンから外し、トップ下も司令塔も置かない代わりに攻守にハードワークできる3人(守田、遠藤、田中)を配置した。

そして、このシステム変更が功を奏す。守備力が高くボールも簡単に失わないミッドフィルダーで中盤を固めたこのシステムは、チームに別格の安定感をもたらした。
導入初戦で生まれ変わったかのような戦いぶりを披露。難敵オーストラリアを破り、第1戦で敗れたオマーンとサウジアラビアも撃破。破竹の6連勝で一気にW杯出場を決めた。

この快進撃を支えたのが右ウイングと伊東純也と左ウイングの三笘薫だったが、彼らがスムーズに活躍できたのも4-3-3システムの恩恵と考えられる。
前述した通り、4-3-3では中盤に守備的ミッドフィルダーが3人おり、彼らが守備を担ってくれるため、前線のアタッカーたちは比較的攻撃に専念しやすい。日本代表でも守田、遠藤、田中の3人が巧みな連携で中盤をガッチリ固め、ディフェンダー陣をも的確にサポートしていたため、アジアレベルではチート級の攻撃力を誇るサイドアタッカーたちが攻撃に重心を置けたというわけ。

もっとも、中盤に守備力を武器にする選手を3人並べたことで、攻撃のアイデア不足やパス精度の低さが露呈することもあったが、守備の安定感はそれを補って余りあるものだった。なんだかんだケチをつけられても、最終予選で6連勝してW杯出場を決めたのだから、4-3-3の導入が大成功だったことは間違いないと思う。

思えば、森保ジャパン発足時に4-2-3-1が導入された理由として「選手の特徴を活かすため」という推測が挙がっていたが、月日が流れ代表メンバーが入れ替わった結果、W杯最終予選における「選手たちの特徴を最も活かせるシステム」は4-3-3に変化したのだろう

また、4-3-3は強豪チームが好んで採用するシステムだが、アジアにおける日本代表は"強豪"であるため、この形は理にかなっていたと思う。

そのことに気づいたのが森保一だったのか選手たちだったのか、はたまたチーム全体で話し合ってたどり着いたのかはさておき、このシステム変更は非常に合理的で効果的だった。


3-4-2-1 (?)

ここからは今後の日本代表について考えてみる。

ここまで読んでくれた人の中には「4-3-3ってW杯で使えなくない?」と思った人もいるだろう。W杯における日本代表は決して強豪ではないので、4-3-3は適していないのではないかと。

僕もそう思う。W杯で4-3-3を使えるのはスペイン代表やブラジル代表あたりの名だたる強豪。日本代表には厳しい。そしておそらく代表選手、監督、スタッフたちもそう考えていると思う。
実際、久保建英はこんな発言をしている。

そもそも4-3-3でプレーするチームって世界でも限られている。変な話、圧倒的にボールを保持して、ポゼッションに絶対的な自信を持ってというチームしか僕は見たことない。それを経験している選手もいまの代表でもどれだけいるかわからない。すごく難しいフォーメーションだと思っている
https://www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=104418?mobileapp=1

※この部分だけ読むと久保が4-3-3に不満を持っているように見えるが、元記事を読めばわかる通り特に4-3-3に否定的な立場はとっていない。誤解なきよう。


では、どのシステムにするのか。予想は2つに分かれている。「強弱問わずどのチームでも使いやすい4-2-3-1に戻す」か、「森保一の十八番である3-4-2-1を新規採用する」か。

今の時点でどちらかに絞ることはないと思うし、どちらでもない可能性もある (強気で4-3-3を維持する可能性だってある) が、僕は「メインになるのは3-4-2-1」と予想する

その理由は3つ。

1、3-4-2-1は森保一の広島時代からの十八番である (これ言うの何度目?)

2、森保一が3バックの導入を示唆するような発言をしている

3、3-4-2-1は格上に強いシステムである

この3が非常に重要だ。3バック自体が多くの場合「格上と戦う際に愛用される形」なのだが、なかでも特に3-4-2-1は「格上に強い、弱者の味方」とのイメージが強い。
実際にヨーロッパの試合を観ていると、"弱者"とされるチームが3-4-2-1を使って番狂わせを起こすケースが度々見られる。

たとえば先月、ヨーロッパリーグで鎌田大地と長谷部誠の所属するフランクフルトがバルセロナに勝利して世界を騒がせたが、この時フランクフルトが採用していたのが3-4-2-1だった。

※なお森保一はこの試合を現地で視察しており、試合後に鎌田を称賛するとともに「フランクフルトの戦い方はとても参考になった」的な話をしていた。

W杯“死の組”入りの日本、森保監督が明かす強敵攻略プラン ヒントは2年前のバイエルン「目指すべき戦い方」 [Football ZONE WEB] https://www.football-zone.net/archives/376876


E・フランクフルト鎌田大地はスペイン撃破のキーマンか 森保監督がバルサ戦のプレーを絶賛https://www.excite.co.jp/news/article/TokyoSports_4159952/


また、つい最近には遠藤航と伊藤洋輝が所属するシュトゥットガルトが、ドイツ代表とメンバー構成の近い強豪バイエルン・ミュンヘンと引き分けたのだが、この試合で採用していたのも3-4-2-1だった

※ちなみに、センターバックでありながら左足を武器に攻撃面で違いを見せる伊藤洋輝は、「6月の日本代表の強化試合に招集されるのでは」と噂されている。


お分かりいただけただろうか。"仮想スペイン"と"仮想ドイツ"相手に、日本人選手たちの所属する2チームが、3-4-2-1を使って上出来といえる結果を残したのである。


これ自体が事実として参考になるだけでなく、鎌田、長谷部、遠藤、伊藤に話を聞くことで、2チームが仮想スペインや仮想ドイツに3-4-2-1で挑む際、どのような指示を受けていたか、どこに注意していたか、何に強みを感じたか、逆に何に弱みを感じたかなど、W杯本戦で役立つ情報もふんだんに手に入る。これは大きい。

※もっとも、どのシステムを採用しようと森保一は彼らに話を聞くと思われる。ネーションズリーグという欧州身内大会のせいで日本代表が欧州勢と強化試合を行えない以上、仮想スペイン、仮想ドイツと対戦した4人の意見はとてつもなく貴重だからだ。

そんなわけで、6月の強化試合から3-4-2-1が採用される可能性は高いと思う。しかし一方で、個人的に懸念していることが2つある。

1、大きな方針転換の可能性
「システムに選手を当てはめるのではなく、選手たちの特徴を活かすシステムを使う」という発足当初からの森保ジャパンの方針が、3-4-2-1の導入で180度転換される可能性がある。

3-4-2-1はあまりメジャーなシステムとは言えず、この形でこそ特徴が出るという選手はあまりいないだろう。鎌田や遠藤、伊藤のような、3-4-2-1に慣れ親しみ活躍している選手もいるが、彼らは少数派だ。他の代表選手たちは自然とシステムに当てはめられることになるだろう。彼らはこれまでと異なりシステムに適応することを強く求められるかもしれない。
そうなれば「最終予選で結果を出した4-3-3の方が良いのに…」「もっと自分の良さを出せるシステムがあるのに…」と不満を持つ選手も出てくるだろう。
そこで監督がどう振る舞うか。4-3-3や4-2-3-1に戻すのは簡単だが、W杯を見据えてあくまでも3-4-2-1を熟成させるのであれば、「W杯で格上と対戦する際はこのシステムがベストなのだ」と根気強く説得できるかどうかが肝になる。できなければチームが崩壊しかねない。このあたりのマネジメントは非常に重要になってくると思う。

2、3-4-2-1をモノにするのは決して容易ではない4-2-3-1や4-3-3と違い、3-4-2-1はメジャーでもスタンダードでもない。前述した通り、慣れている選手の方が少ないだろう。導入して即フィットさせられる保証はない。
おそらく忍耐が求められるし、場合によっては諦める勇気も必要だ。そしてもちろん、そのどちらを選ぶかの判断も重要になる

そもそも3バック自体、パッと導入して即使いこなせるものではない。日本代表の3バックというと思い浮かぶのはトルシエジャパンのフラット3とザックジャパンの3-4-3だが、前者はかなり時間をかけて成熟させていたし、後者は何度試みても上手くいかずに諦めている。

森保ジャパンが6月の強化試合から3バックを採用したとして、W杯までに間に合うかどうか。期間は半年あるが、皆で集まれる機会はせいぜい2〜3度。カタールW杯の変則的な日程のせいで直前強化合宿もほぼ実施できないそうで、条件はかなり厳しい。


それでも希望はある。実は森保ジャパンは2年前、欧州遠征の際に3-4-2-1を試したことがある。相手はパナマとカメルーンだっただろうか。その時は可もなく不可もなく、突如導入した割には上手くいっていた印象を受けた。真剣勝負で使えるレベルかはさておき。(当時「使えない」と判断されたから最終予選で採用されなかったのかもしれない)

所詮は強化試合。しかも2年前の欧州遠征。ゆえに、それに基づき3-4-2-1導入の可否を判断するのはナンセンスだと思う。
しかしながら、10月に対戦したカメルーン代表は決して格下ではなく、試合内容も良質なものだった。4-2-3-1がハマらず途中から3-4-2-1に切り替えたという経緯もあり、両システムの比較に使うこともできた。
そのため、あの試合は「W杯までに3-4-2-1を浸透させられるか」を検討する上で多少なりとも参考になるものだったと思われる。

個人的には、2年前に即席であのクオリティを示せたのだから、W杯までに成熟させることは十分可能ではないかと考えている。
全くの更地にシステムを植え付けるわけではないのだ。また、3-4-2-1に深い理解のある選手が当時よりも増えていることも大きい
。選手間でも連携の熟成に向けて協力し合えるのではないだろうか。

昔から"格上に強い"森保一が、日本代表監督としてその真価を証明するべき時が着実に近づいている。まずはW杯まで半年を切った6月の強化試合でどのような道筋を示すか、とりあえず様子を見てみよう。僕としては、彼が愛用してきた3-4-2-1を満を辞して召喚することを期待している。


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