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いいオトコ、いいオトコ、ホントは近くにいるオトコ

夏の終わり、風の強い夜だった。この風が秋を運んでくるのだろうか。そんなことを考えつつ、私はいつものスタンディングバーにいた。ピアスをもてあそんだり、マスターと今日見た夢の話をしたり。美味しいカクテルと一人の時間。マスターの葉巻の香りが心地よい。ひっそりとした時間が流れている。

少しすると一人、また一人と客が増えていった。気が付くと6人になり、こじんまりとした店では肩を寄せ合うようになっていた。それゆえ隣の会話もしっかりと聞こえてくる。

私の左側にはご夫婦。饒舌に賑やかに酔いを楽しんでいる。私の右側には知人が来て、その奥には男女二人組が飲んでいる。

その二人組、会社の先輩と後輩らしい。私はこっそり聞き耳を立てる。どうやら恋バナをしているらしい。恋バナ?いや、正確には先輩の男性が後輩の女性を慰めているようだった。後輩の女性、とある人に片思いをしているらしい。だがしかし、自体は複雑なようだ。諦められない彼女。だって好きなんです、と。

好きな人にはやはり自分のことを好きになって欲しい。特別な人の特別な人になりたい。捧げるだけでは足りない。恋愛はボランティアではない。

盗み聞きをする限り、彼女が好きな相手は誰がどう考えたっていいオトコではない。私はいいオトコなら隣りにいるのになぁとぼんやりと考える。深夜3軒目まで付き合ってくれる先輩、そんな人どこにいるだろう。

ほろ酔いを通り越してくだを巻き始めた彼女。先輩は介抱しつつ、「ではお先に、おやすみなさい」と礼儀正しく帰っていった。

いいオトコ、いいオトコ。ホントは近くにいるのかもしれない。

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