草原の道 <どろんこ七転八起編>
今回のモンゴルツアー参加者はボクたち夫婦のほかに3人。初心者の女性Tさん、経験者の男性YさんとHさん。昔同じ会社にいたというバイク仲間。Yさんはかなりオフロード好きで日本ではWR450含めて3台持っているそうで上級者だ。
うちの奥さんと合わせて2人初心者がいるので、ダートに入るとガイド兄弟もかなり慎重に走ってくれた。弟氏のYAMAHA WR450が先頭で、お兄さんのKTMが最後を走る。最後を走るのは、ツーリングの隊列の中で何かあったらすぐに駆け寄って対応する「しんがり」の役割。
「自分だけ先にばーっと行っちゃうのはナシだからね」と奥さんから釘を刺されていたボクは、オフロードが初めての彼女の前後を走るようにした。結局インカムは用意してこなかったので、走りながらアドバイスすることはできないのだけど、まあ「なま暖かく」見守ることはできるw
今回の草原に至るダート道、砂利のダートではなくて、ほとんどが土のダートである。四駆がなんとなく毎回、走りやすいところを通っていたらそれが道になってしまったような道。赤めの土だから粘土質なのだろうか、固く踏み固められた土。大きめの岩もけっこう転がっている。そして、わだちが深いうえに、雨で水たまりになっている。今年は7月に入って雨が多いそうで、昨夜の雷雨も影響しているせいか水たまりの箇所も多い。
おそらく、晴れてドライだったらそんなに難易度も高くなかっただろう。土煙があがるような道だろうけど、初心者でも簡単に走れる道だと思う。わだちにハンドルをとられるかもしれないが、土だからコケてもそんなに痛くはない。
ダートに入って30分、雨がまた強くなりだした。
草原の中の道を走っているのだが、道全体が深い水たまりになっていたりすると、道を外れて草原の中を走らないといけない。草原の中は意外なところがぬかるんでいて深くもぐる。いきなりハンドルをとられてびっくりしたりする。
雨も強くなり、赤土の道の上を水が流れるようになってきた。
セローのトレールタイヤ(しかもけっこう減ってる)ではとにかくツルツル滑る。逆バンクみたいになっているところでTさんがコケる、わだちでHさんがコケる、あー足がバイクに挟まって痛そうだなー大丈夫かな。うちの奥さんも坂道で停まった時にバイクを支えられなくてコケる。その度に「しんがり」のKTMお兄さんが後ろから駆けつけてバイクを起こして……を繰り返した。
カッパを着ているとはいえ、みんな泥だらけだ。その後も10分ごとに誰かがコケるかんじで、なかなか先に進まない。ボクも小川を渡った後に、横たわっていた丸太に激突して転倒、ミラーが折れたw
とにかく、みんなよくコケた。山の上の開けた場所でひと休みする。
山の上、見晴らしのいい峠にはたいてい石積みがある。オボ(オボー?)と呼ばれるもので、神が宿るとされている石積みだ。モンゴルに来る前に見たドキュメンタリー映画でもよく出てきた。
コケても「たのしー!」を連発している元気いっぱいなTさん(女性)がオボのまわりをぐるぐるまわっている。
「お祈りのためには、これのまわりを3回、回らないといけないんですよ」
旅人が旅の安全祈願をするために3回まわるのが習わしなんだという。
ここまで、あんまり周りの景色を見る余裕がなかったけれども、ひたすら草原の広がる丘陵地を通り、森を抜け、こんもりした山をいくつも越えてきた。草原しかないところもあれば、ゲルが点在しているところもある。
晴れていればもう少し景色を堪能する余裕もあるんだけど、午前中はそんな余裕はなかった。
牛がいたり馬が横切ったりするのだけど、馬はあまり「飼われている」かんじではなく、野生の馬っぽく勝手に好きな場所で群れている。
「やっぱ草原に来るとアイコスじゃなくて紙煙草が一番ですね」
ガイドの兄弟は、しょっちゅう朝6時にさっきのゲートで待ち合わせ、このダート道をひとっ走りし、行った先の町でコーヒーを飲んでからまたダート道を引き返して仕事場に出勤するんだそうだ。そりゃ上手くなるわなw
「いつも9時には仕事場に着くから、片道1時間ぐらいですかね」
どんだけ飛ばしたら1時間なのかwww
「あと山を3つ越えたらお昼ですよ、みなさん頑張ってくださいね」
山3つかー。遠いな。
道は、あまり蛇行はしていなくて、丘に対してまっすぐに(直角に?垂直に?)伸びている場合が多い。だからけっこう傾斜も急だったりする。バイクからの目線だからそう見えるのかもしれないけど、アルプスの少女ハイジがペーターの家に降りていく坂のように急なかんじに見えた。
初心者2人もだんだん慣れてきたようで、コケる回数も減り、登り・下り・コーナリングのバイクの制御も心得てきている。見るからに心配ない状態になってきたところでお昼。
午後は、午前中より道が平坦になってきたのだけど、何箇所か川渡りの場所があった。川渡りは、このコースのイベント的なものでもあって、参加者に川渡り体験をさせるというのが本来の目的であることはわかるんだけど、予想外に増水しているらしい。最初の1、2本は初心者2人も含めた我々に渡らせてくれた。
「このへんを通れば浅いですからね。アクセルは途中で緩めたらダメですよ」
果敢に挑戦するTさん(女性)が川を渡るのを後ろから見ていたら、
「あ!」
と思っている間に止まってしまい、バイクが川の中で倒れた。
大きめの石に前輪がひっかかったのかもしれない。意外と水深はあって、バイクが川に埋もれている。ガイドお兄さんがTさんとバイクを救出する。水没してからエンジンを止めるまでに少し間があったので、水が入ってしまったかもしれない。
この時、伴走するランクル+タコマが先に行ってしまっていたので、工具もオイルもガソリンもない。あるのはバイクについている貧相な車載工具だけ。そんな中でガイド兄弟が水没したセロー250の対応をする。まずプラグを抜いてバイクを逆さにして水を抜く。え!ホントにバイク逆さにするんだ!!!w 水がけっこう出てくるし……そうだよね。エンジンオイルにも水が混じってるから、ドレンを少し緩めて比重の重い水の部分だけ抜いてすぐ閉める、そうだよね……。水浸しのエアクリーナーは、絞ったあと他の車両の排気熱で乾かす、それしかないしね……。
35年ほどバイクに乗ってきて、行った先々でいろんな場面に遭遇した。ツーリング中にヒューズが切れてスペアヒューズがなくてどうしようか?と思ってたら、居合わせた先輩が「ガムの包み紙も銀紙なんだからこれでいいじゃん」と言って噛んでたガムの包み紙をくれて、それをヒューズ代わりにしたこととか(しかもちゃんと直った)。北海道にキャンプツーリングに行ってジンギスカンを焼く網がない、さてどうしようかと思って、YAMAHA R1-Zのラジエーターカバーをジンギスカンの網にしてみたら美味しく焼けた……とか。シルクロードツーリングの中国で乗ったCRF450、いつのまにかスプロケットのボルトが緩んで(普通は緩まない)、ボルトの頭がスイングアームを弧を描くように削ってしまっている!スイングアームの断面が半分ぐらいになっている!のに、現地ガイドが夜の間奔走してくれたのだろう、翌朝にはアルミが盛られて一応走れる状態になっていた……、とか。いろいろ、本当にいろいろ経験してきたけど、水没の対応というのは初めて見た。
ランクル+タコマが駆けつけて、対応が終わるまで小一時間。Tさんは「ほんとゴメンナサイ」と、とても恐縮してしょんぼりしながら、近くの木の下に横たわる丸太に座り込んでいる。でも、そういうのはいいんです、ガイドの人たちにとってみれば仕事なわけだし、同行のボクらにとっても「お互いさま」なのだ。ボクだって初心者の頃、たくさん人に迷惑かけてきたし。
その横を、はだか馬に乗った7〜8歳ぐらいの女の子がスマホを眺めながら通り過ぎていく……。
「あのー、みなさん。今日はキャンプの予定だったんですけど、今日はかなり遅れてるし、ちょっと無理そうなんで、明日から宿泊する予定のゲルキャンプに直接行っちゃいませんか?」
でた!シルクロードの時もそんな理由でキャンプ泊がキャンセルされたんだけど、今回もかー。まあ、仕方ないか。
4本目ぐらいに遭遇した川は、さすがに我々の目から見てもかなり増水しているのがわかった。
「兄さん、これヤバくね?」
モンゴル語はわからないけど、ガイド兄弟+サポートカーチームでそんな会話をしているようだ。流れもわりと急である。道の途中にいきなり川があるのを想像してもらうといいんだけど、我々がどうやって渡ろうかと話し合ってる横を乗用車と四駆が通りかかって止まった。
つるんでる2台だと思うのだが、川を前にすると乗用車の運転手がトランクからワイヤーを取り出し、前の四駆にひっかけて牽引の状態を作った。と思ったら、四駆が引っ張り乗用車がそれに引っ張られる形で川を渡り始めた。非常に手際がいい、というかとても慣れている。日本でいうと、台風の後の大雨か洪水で強引に走ってしまって、廃車になるような深さまで乗用車は水に浸かっている。
ここで気づいたんだけれども、モンゴルを走るRV車にはだいたいシュノーケルがつけられている。こういうことが日常茶飯事だからなんだなあと思った。
結局我々は、屈強なガイド兄弟2人が川の中を押してセローを運んでくれて、川渡りに慣れていない運転手5人は四駆のタコマで運んでもらった。
最後の川を渡ると雨も小降りになってきた。
今日泊まるゲルキャンプへの道はとても平坦でフラットだった。初心者2人も、スタンディングを覚え、オフロード乗りが板につてきている。
隊列のスピードも午前中とは比べ物にならないほど速くなっていた。
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