古着屋gestaltzerfall
『古着屋gestaltzerfall』
同じ文字を書き続けていると
その文字の形が分からなくなることがある。
つい最近も「は」を書き続けていたら
「は」ってこんな形だったっけ?と分からなくなった。
伊藤大輝
僕は地元が嫌いだ。
何もない。
田舎と言うには程遠く、マンションは建っているし、田畑もまちまち。
都会と言うにも程遠く、高層ビルは建っていないし、人も多くない。
そんな微妙な立ち位置が気に食わない。
どうせ都会じゃないなら、もっと田舎感満載の信号は交通ルールの勉強の為に設置された一基だけみたいなところが良かった。
どうせ田舎じゃないなら、もっと高えビルが建っていてお洒落なショップも立ち並ぶところが良かった。
なんせ中途半端だ。
ある日、友人が地元に服屋できたらしいよ。と話してきた。
うちの地元に服屋?
一度見に行くかとお店に向かうと大型スーパーの一角に位置する服屋だった。
期待した僕がバカだった。
大学生になって急に服に気を使い始めた僕を弄んだだけだった。
帰ろうかと思うと、ヘッドホンが繋がらない。
最近、接続が悪いとは思っていたが壊れたか?
はあ、ついてない。
普段ならヘッドホンで音楽を聴きながら伏し目がちに素通りする最寄り駅付近の道で1つの建物に目を取られる。
よく見るとレトロで可愛くもありカッコよくもある建物だ。いわゆる古民家というやつか?
ただの家かと思えば、小さな看板が壁に立て掛けてあった。
“古着屋Gestaltzerfall”
なんて読むんだ?げすた、ると、ぜあ、ふぉーる?
店名を読むことはできなかったが、
地元に古着屋なんてあったのかと少し嬉しくなり、
僕はその古着屋に入ってみることにした。
店内には多くの古着が暖かな光の照明に照らされていた。
こんにちは~。店主と思われる人が挨拶してくれた。
あ、こんにちは。初めて来たんですけどー。
そうなんですね、嬉しいなー。はじめまして!
…
店主の方は、樋口さんと言うらしい。
樋口さんはとてもフレンドリーで初対面にも関わらず話が弾んだ。
新品の服の方がお洒落で古着は中古服でしょ?と古着の良さを知らなかった僕は、2つの疑問を投げかけた。
「どうして古着屋を始めたんですか?」
そしてもう1つは「どうしてこの場所で店を構えたんですか?」
地元が嫌いな僕にはこの場所でお店を始めたことが不思議で仕方なかった。
樋口さんは言った。
「かつて流通した服たちが忘れられないように後世に繋いでいきたい。だから僕は古着を扱う」
もう1つの質問には、
「この場所で店を構えたのは、簡単だよ。いいところだったから。この町は魅力に溢れているよ」
うちの地元が魅力的?衝撃的だった。
あまりの衝撃に古着を扱う理由はなんかカッコいいこと言ってたなという印象しか残らなかった。
持ち合わせもなかったので、あまり古着を見ることなくその日は話だけして帰った。
僕はgestaltzerfallに通うようになった。
ちなみに店の名前の正しい発音は未だによく分かっていない。樋口さんの発音をよく聞くと“ゲシュタルツァファル”みたいな感じ。
居合わせた常連らしきミリタリーのパジャマセットアップを着た男性がGestalt(ゲシュタルト)と呼んでいたので僕もGestaltと認識するようになった。
レギュラー古着、軍物、
など多くの古着が並べられていた。
服に気を使い始めた僕はすっかり古着の虜となった。
と言うよりかはGestaltの虜に。
さらに言えば樋口さんの話の虜になっていた。
樋口さんはいつも
このブランドの服は1970年頃にアメリカで大量生産されたんだよ。
大量生産故に価格も安価で人気になったが、すぐにダサいの象徴みたいな扱いを受けてブランドも衰退したんだ。それでみんな売りに出したり捨てたり。
仕入れで縁あってそのブランドが持ってた倉庫の跡地に行ったら大量の在庫があってさ。
とか。
このパンツ。よく見てみて。右ポケットに少し傷があるだろ?前所有者は右利きだったと推測してるんだけどどう思う?あと裾に絵の具らしき汚れがあるんだよ。これは絵描きだったに違いないよ!どんな絵を描いてたんだろうね。風景画かな。人物画かな。
とか。
この軍物はね、フランス軍のホスピタルのベストでね。
実際に軍の医療現場で使われていたんだよ。
あ、そのコートはUSnavy(アメリカ海軍)のステンカラーコート。オールウェザーコートなんて呼ばれたりもするんだよ。カッコいい名前だよねー。
とか。
その古着に纏わる話を聞かせてくれる。
服としてお洒落。
それでも悪くはないけれど、
この子たち(古着)にはそれぞれ歩んできた歴史があって、さらには前所有者の生活が記されて、当初作られた目的は別にあったり、一つひとつにストーリーがある。
僕は猛烈に感動していた。
服なんてダサいかカッコいいか。可愛いか可愛くないかでしかないと思っていた。
同じ種類の服にもシワのつき方や汚れ方が違ってそれぞれの人生を歩んできたのかと思うと1つのアート作品にすら感じてきた。
気づけば週に1回は通っていた。
でも普通の大学生である僕にお金はそうない。だから買うのは月に1,2回程度。
もはや、僕は樋口さんの古着に纏わる物語を聞きに行っていた。
それでも樋口さんは嫌な顔せず、それどころか楽しそうに話をしてくれた。
いつものようにGestaltへ入ると否や
80〜90年代頃のユニクロが入荷したよと教えてくれた。
古着は人と被らないことも魅力の一つであると思っていた。
なんでユニクロ?ユニクロってあのユニクロ?
そんな事を思っていると
「ユニクロいいよね」
「ああ、そうですね…」
「いいと思ってないでしょ?笑」
「すみません」
すぐにバレた。
樋口さんの古着話がはじまった。
ユニクロは今でこそみんな着ていて街を歩けばユニクロの服に当たる。そんな世の中だ。
まさにLife Wear
ユニクロの本当の名前知ってる?
ユニクロって略称なんだよ。
unique clothing werehouse
ユニーク 服 倉庫
古着好きにとって最高の響きだと思わない?
この前OLD GAPのシャツ買ってくれたよね?
GAPの*紺タグみたいにユニクロにも紺タグがあってタグで年代判別できたりするんだよ。
話は尽きなかった。
陳列された大量のOLD UNIQLOを*ディグる。
他にもタグの種類はあって、
デザインは今みたいにベーシックで間違いのないデザインばかりではなく、
正直ダサいデザインやアメカジを意識し過ぎたような服など実にユニーク。
でも悪いダサさじゃない。回り回ってカッコ良かったり可愛くも見えてきた。
あんなに見慣れたユニクロが、
新しく見えてきて
楽しくて楽しくて仕方がなかった。
つまらないと決めつけず、
視点を変えるだけで、
面白い。
革命的な出来事であった。
僕は90sユニクロのフリースを買った。
その帰り道。
高架下の汚れがとてつもなくアートに見えた。
今の僕には樋口さんの「この町は魅力に溢れているよ」という言葉の意味が少し分かったような気がする。
*紺タグ(GAP):1988〜1990年代のGAPは紺色のタグが用いられており、その通称として呼ばれる言葉
紺タグ(ユニクロ):90年代半ば〜2004年頃に用いられた。
*ディグる:dig(掘る)古着屋にて沢山ある古着の中から自分の欲しい古着を探し当てる用語
著:橋野航
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Literature×Localより『古着屋gestaltzerfall』
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