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コイントス

「君は常人か、狂人か。」

うめき声をあげている囚人に問いかける。
しかし、口はふさがれ何も言うことができない。
椅子から離れないように手足も縛られている。

「何もしゃべらないのなら、コイントスで決めよう。」

取り出したコインの両面を見せつけながら、仕掛けがないことを証明して見せた。

「オモテなら常人、ウラなら狂人だ。異論はないね?」

囚人は、必死に首を振る。

「よろしい。では、始めよう。」

動作など全く気にせず、右手で作った発射台にコインを置く。
そして、カウントダウンをせずに親指ですぐはじいた。

宙に舞うコインは、光を反射しながら弧を描く。
囚人は、目を見開きながら追いかけていった。

私は3秒ほど宙に浮いていることを確認したのち、上から手を叩く。
しかし、手とのずれが生じ、右方向へ落ちてしまったようだ。

「やはり、コインを掴むことは難しいものだ。少し待っていなさい。」

聞こえた方向へ手あたり次第に探す。
この部屋はよく反響するから、探しやすくていい。
すると、床の少し出っ張った部分を見つけ、表面をひっくり返さないようにつまんだ。

「おおよかった。みつかったよ。」

私は、囚人のいる方向へ歩き、座っている椅子に足が当たるまで近づくと、左手を横からまわして肩を掴んだ。

「では、結果を見てみようか。」

つまんだコインを指で撫でまわすかのようにふちを描いて、囚人に表になっていた面を見せた。

「...これは、ウラだね。君は狂人みたいだ。」

囚人は泣き叫ぶ。首を振り、体を揺らし、何かに抵抗するように。

「そんなに暴れないでくれ。もしかして、狂い始めたか?」

ずっと震えていた体は、時間が経つにつれ動かなくなっていった。

「...はぁ、いつ毒を飲ませたんだ。もう少し騒がせてもよかっただろう。」

この刑務所の娯楽はこれだけなのに、仕事が早いやつらめ。
まぁ、いいか。今日は失敗もしてしまったから、その罰として受けよう。
意識を取り戻したらきっと、ゾンビのようなうめき声をあげることだろう。

さて、早くコイントスになれないとな。
タイミングさえ合えば、不格好な姿を見せなくて済む。

少なくとも、常人として生活できるようにならないとな。

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