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【#週刊少年マガジン原作大賞】骨皮筋衛門と蚊ーニバル:第2話

第1話はこちら。

骨皮筋衛門が潜入捜査に入った後、太山デイブとボン・ラジは「カサブランカ」で旧交を温めあっていた。

「江藤さんと越前さんがいれば喜んだだろうに」
砂沼さんがコーヒーを出しながら残念そうに言う。

ボン・ラジさんは「笑顔デスカ♪」と共に仕事をすることも多く、2人とは大変仲が良い。

「まあまあ、2人とはいつでも会えますよ」
とニコニコしながら幸田さんが砂沼さんにおいでおいでをした。デイブとボン・ラジから秘密の打合せの匂いをかぎ取ったのだ。

「あら、ごめんなさい」
「そんなことないですよ。砂沼さんがそばにおられると僕はうれしくて仕方ないんです」
デイブが砂沼さんに微笑んだが、その時には砂沼さんは幸田さんの方へ顔を向けていた。デイブはたまに間が悪い時があるなぁと、笑いを抑えながらボン・ラジが質問をした。

「デイブさんと筋衛門さんは、いつからのお付き合いなのですか?」
人気のすごさは同一(やや筋衛門が上回る気がするが)であるものの、2人の共通項があまり見られないからだ。

「奴とは生まれた時からの仲だ」
「幼馴染みですか」
「そうだ。親の仲が良くてな」
「ああ、お2人の父上も警察の方ですよね」
「高校まで共に学んだ。大学も一緒だと思っていたんだが」

苦い思い出をかみつぶすかのようなデイブの表情にボン・ラジは思わず、
「録音してもいいですか!」と前のめりになる。

「いや、これはオフレコで」
残念そうな顔をしたが、これから聞くことはしっかり記憶するだけにしようと思い直し、レコーダーはバッグの奥深くにしまう。

「俺が生徒会長、奴が副会長だった時、蚊ーニバルにっ!」
ボン・ラジがゴクリと喉を鳴らす。

帰り道にデイブは蚊ーニバルに襲われたそうだ。
「え?そんな昔から活動をしていたんですか?」
「ああ。父親達は情報を掴んでいて俺達に注意を促していたんだがな。俺は高校史上最高の生徒会長になろうとして、視野が狭くなっている時期でもあって」

実は最初、生徒会長は骨皮筋衛門が推薦されており、デイブは副会長として補佐するよう先代の会長から言われていたそうだ。眉目秀麗が服を着て歩いているようなデイブは高い評価を得ていたが、ふくよかボディの筋衛門は人気も実力も周囲からの期待もそれ以上に高かった。

「悔しいとは思うものの、筋衛門の気質や才能に男として惚れていた俺は、それも仕方ないと……」
「えー!デイブさん!えー!」
「ち、違う!私は男として惚れていただけで!それに彼は僕の妹の婚約者だ!」
「キャーッ!!!」

否定した時のデイブの声が大きかったせいか、筋衛門がデイブの妹の婚約者である、という部分だけが店内に響いてしまったらしい。砂沼さんを含め、数人の女性が悲鳴をあげ倒れてしまった。幸田さんが、介抱はこちらでするから話を続けて、と目配せをする。咳払いして仕切り直しをするデイブとボン・ラジ。

「私は副会長として彼を支えると決意した。最高の生徒会長を作り上げる、と。それなのに」
「それなのに?」
「奴は俺を生徒会長にと言いやがった」

自分はデイブを支える方が性に合っている。眉目秀麗なデイブが前に出てこそ、求心力が高まると。潜入捜査が得意な筋衛門らしいなぁとボン・ラジがつぶやく。

「そういう理由で生徒会長になったことから俺の心にしこりが残った。筋衛門のことが好きなのは変わらなかったが……」
「す、好きぃ!」
水を注ぎにきた砂沼さんが思わず反応。
周囲の女性陣も耳が大きくなっている。

「ん!んー!」と幸田さんにたしなめられ、ペロリと舌を出す砂沼さん。周囲の女性も一緒にペロリ。

「意固地になってしまったんだろうなぁ。秋の文化祭を自分の力で成功させようと躍起になってしまった。もうすぐ文化祭だという頃、筋衛門が」

「蚊」と騒ぐ団体が高校の文化祭を狙っているから注意が必要だと言いだしたのだという。

「視界が狭くなっていた俺は「蚊」で騒ぐ?意味ねーって笑って取り合わなかった。でも、普通そう思うだろう?全ての「か」や「カ」を「蚊」にだなんてなんの意味もないと思うよな」
ボン・ラジも苦笑しながらうなずく。

「心配する筋衛門を生徒会室に残し、さっさと帰宅したんだが。帰り道に黒い服を着た美しい女性に声をかけられた」
俺と筋衛門の人気で客が殺到することが予想されたため、文化祭はチケットがないと入場できないことにしていたので、俺のファンが声をかけたと思った。そこでデイブは、「チケットをお分けしましょうか?」とほほ笑んだという。

「フードで口元しか見えなかったが白い肌と赤い唇が印象的な美しい女性だったんだ」
ウットリしながらいうデイブ。

デイブが声をかけた瞬間、
「文化祭の「化」を「蚊」にしてくださぁぁぁい!」
と叫びながら女がデイブに襲いかかったのだ。

「女と思っていた相手のフードが取れると男だとわかった」
「男だったんすか!」
ボン・ラジがのけぞると共に店内の女性が色めきたつ。
こういうところが眉目秀麗でも可愛らしく感じちゃうんだよ、と苦笑いするボン・ラジ。

「そのショックに加え、意味不明なセリフと手に持った細長い棒で刺されそうな状況に、俺は腰を抜かしてしまった」
「その時はイヤーカフではなく細長い棒だったんですか?」
「ああ。当時、蚊ーニバルは細長い棒で謎の液体を注入して仲間を集めていたんだ」
「では、デイブさんは液体を注入……?」
ボン・ラジが少し後ずさった。
「いや、されなかった」
「されなかった?」
「ああ、骨皮筋衛門が救ってくれたんだ」

あとは、ヒラリ・クルリ・プルン・ボスンで蚊ーニバルを退治し駆けつけた警官に引き渡したそうだ。

筋衛門が助けてくれたのは嬉しかった、でも自分自身が情けなくなってしまい、変わりたいという気持も大きくなった。

だから……。

「俺は母親の故郷であるアメリカで新たな捜査方法学ぼうと、大学から筋衛門と違う道を歩むことになった。そして今に至る!」
「なんだかいい話ですね」
と涙ぐむボン・ラジ、そして店内の全ての人々。
「ところで、捕まった蚊ーニバルの人はどうなったんですか?」
涙を拭いながらボン・ラジがたずねると、苦々し気に、
「逃げられた。仲間が警官を長い棒で刺してな」
とデイブが答えた。
刑事が到着した時には、警官が狂ったように「蚊ぁぁぁ!」と叫んでいる状態だったそうだ。液体の効果が薄れ、正気に戻った警官から、デイブを襲った犯人の名前を聞いた。刺される前に名前だけは聞き出していたのだそうだ。

「俺が女と間違えた奴の名前は……蚊山ゆうぞう。刺した仲間は多分、蚊取しんご」
「ええ!」


「イヤー蚊フの存在がバレてしまったようですねぇ、蚊っ蚊」
「…ああ。バレるのは時間の問題だと思ってはいたが」
「あの時、デイブと筋衛門を刺しておけば」
と嫌味な目で蚊山ゆうぞうを見るのは蚊取しんご。
「あの時、お前が俺を助けに入れば良かったのに。なんで出て来ないんだよぉ!」
「だってぇ、筋衛門の攻撃を見ちゃった蚊ら。それに最後は警蚊んから助けてやっただろうっ。蚊蚊っ!」
「笑うなぁ!蚊ぁーッと頭に血が上るだろ!」

今にもつかみ合いになりそうな2人をデーモン蚊っ蚊は
「ケン蚊はやめなさい!蚊ぁー!」
とたしなめる。口をすぼめる2人。

「まあまあ、バレたら次の方法を考がえればいいんですよ」
とニヤニヤしているのは、イービルフラワーの生き残り、円城寺奏多。
イービルフラワーも以前、骨皮筋衛門の潜入捜査により壊滅した悪の組織である。SNSの炎上を罪のない市民に行わせ……この話はいつかすることになると思うので、ここでやめておく。

「円城寺殿、色々と助けてもらい申し訳ない」
とデーモン蚊っ蚊が礼を言う。
「しかし、骨皮筋衛門にやられたとはいえ、どうして我々にここまで親切にしてくれるの蚊?」
「ふふふ。イービルフラワーの恨みを晴らしたいんですよ。イービルフラワーを再立ち上げして骨皮筋衛門をギャフンと言わせてやりたいんですよぉ…」
「そう蚊……。君も悲しい蚊去を背負っていたんだぁ」
と、涙ぐみつつデーモン蚊っ蚊が
「ここまで親切にしてくれるのなら、ついでに名前を「円城寺蚊な多」にしない蚊?」
「いや、結構」
秒で断る円城寺を恨めし気に見るデーモン蚊っ蚊。
「ところでデーモンさん、」
「デーモン蚊っ蚊とぉ呼べぇ…っ」
と文句を言う蚊取しんごと蚊ぁーとした表情の蚊山ゆうぞう。
よせ、とデーモン蚊っ蚊が制止する。
「し、失礼。ところで蚊っ蚊、あなた達はなぜ「蚊」にこだわりを持っているのです……蚊?」

話せば長いのだが、とためらいつつもデーモン蚊っ蚊が、蚊ーニバル誕生の話をし始めた。

第3話につづく。


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