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【#週刊少年マガジン原作大賞】骨皮筋衛門と蚊ーニバル:第1話

今年は猛暑日が続いたせいで蚊の活動が少ないため、刺される人は少ないのだが……現在、それとは異なる蚊が街に不安をもたらしている。

「寒天を「蚊んてん」にしてくださぁぁぁい!」
「手持ちのカードを「蚊ード」にしてくださぁぁぁい!」
「文化祭を「文蚊祭」にしてくださぁぁぁい!」

全身を黒服に身を包み、手に光るものを持った怪しい人々が騒ぎを起こしている、そう報告があったのは、秋の気配がほのかに感じ始めた頃だった。

「「蚊」だと……?」
そう答えるのは我らがヒーロー骨皮筋衛門ほねかわすじえもん
「筋衛門、気づいたか?」
と返すのは筋衛門の幼馴染であり、ライバルでもある太山ふとやまデイブ。

名前とは異なり、骨皮筋衛門はふくよかなボディラインで、デイブは高身長にスラリとした体躯。見た目同様、彼らの任務も正反対でデイブが表で捜査を、裏で筋衛門が潜入捜査で解決する。2人が組むことで、あらゆる事件が早々に解決するのだ。

警察になくてはならない黄金のコンビ、骨皮筋衛門と太山デイブ。組織上、デイブが筋衛門の上司となっているが、それは筋衛門が潜入捜査をするために必要な配慮としてとられているものだ。

「蚊ーニバルのヤツらだ」
苦々しくつぶやくデイブに、
「高校の頃からの付き合いだな」
と筋衛門がつぶやく。
「そ、その話は今はいいっ」
慌てて言葉を遮るデイブ。どうやら過去にデイブ・筋衛門・蚊ーニバルはなにやらかかわりがあったようだ。

「そうだな、過去よりも今の事件に目を向けるべきだった」と笑う筋衛門の顔を見ながら顔を赤らめるデイブ。

最初は意味不明な言葉を叫ぶ奴らと市民も相手にしていなかったのだが、とここまで話したデイブはため息をついた。

「最近は、黒服でない市民も「か」を「蚊」にと叫ぶらしいんだ」
「な、なに?」
「黒服でもなんでもない人が突如「蚊ぁぁぁ!」と叫ぶらしい」

最初は気味悪いなどと、と言っていた人達がある日突然豹変する事例が後を絶たないのだそうだ。

「聞き込みを行っているのだが、まだ謎は解明されない。筋衛門、潜ってくれるか?」
「デイブ、もちろんだよ」
にっこりとほほ笑むと筋衛門の姿は次の瞬間、スッと消えた。
「キャー!筋衛門様が潜られたぁ」
若い女性警官から黄色い声が上がる。
少々ムッとしながらデイブが声のした方に目をむける。
「キャー!デイブ様と目があった」
そこでようやくデイブの顔に笑みが戻る。

骨皮筋衛門、今回もよろしく頼むぞ、そう思いながらデイブは記者会見でつけるネクタイの色について考えながらランチへと向かうのだった。


「今年の夏は暑かったですねぇ」

趣のある喫茶店「カサブランカ」でアイスカフェオレを挟み、向かい合う男女はローカル局でありながら絶大な人気を誇るラジオ番組「笑顔デスカ♪」のパーソナリティの江藤えとうさんと越前こしまえさんだ。

市民参加型の「笑顔デスカ♪」は魅力ある企画が大人気のラジオ番組だ。2人は冬の企画に向けて打合せをしているところだった。

「去年のカラットグランプリはレベル高かったよねぇ」
「次はもっと内容を充実していきたいですよね」

打合せをしているところに砂沼さぬまさんが新作のジンジャークッキーを運びながら話に加わる。

「私もすごく楽しみなんです」
「砂沼さんも参加してくださいね」
「いいんですか?」
「はい。砂沼さんの温かい作品を読めるの、一同楽しみにしているんですよ」
「僕も挑戦しようかな?」

カウンターでコーヒーを入れながら幸田こうたさんが言う。

「いいですね!いっそのことカサブランカで授賞式やっちゃいましょうか!」

と笑顔で話していると、少し離れた席にいた客が江藤さんと越前さんのテーブルに近づいてきた。

「あ、うるさかったですか?申し訳ありません」
江藤さんがすぐに謝る。他の3人も続いて謝罪。
しかし、その客は黙ったままだった。

「あの……?」と砂沼さんが声をかけた時、
「カサブランカを「蚊サブラン蚊」にしてくださぁぁぁい!」
と叫び、砂沼さんに襲いかかってきた。

「きゃぁぁぁ!」
江藤さんが「危ない!」と叫んだその瞬間、カァァンと間抜けな音がした。

砂沼さんが手に持っていた銀色のお盆が危険人物の頭に当たったのだ。おっとりしている佐沼さんはたまに見事な動きで危機を回避する。

襲いかかった人物は白目をむき「蚊ぁぁ……」と倒れた。
「でた!砂沼さんの無欲の攻撃……」と目を丸くする江藤さん。
「これ、最近流行っている「か」を「蚊」にって奴じゃないっすか?」
と越前さんが言った時、周囲の人々が立ち上がった。

「アイスカフェオレをアイス蚊フェオレにしてくださぁぁぁい!」
「笑顔デスカ♪を笑顔デス蚊♪にしてくださぁぁぁい!」
「カラットグランプリを蚊ラットグランプリにしてくださぁぁぁい!」

「カサブランカ」にいた他の客が豹変した。目は見開きどこを見ているのかわからない。ただ、4人に近づいてくることだけは確かだ。

「こっちこっち!」
と幸田さんが叫ぶので3人が振り返るとカウンターの裏口を開けてみんなが来るのを待っている。3人は慌てて裏口から逃げだした。素早くドアを閉める幸田さん。閉められた裏口は「蚊ぁぁぁ!」と叫びながらドンドンと叩く客達でグラグラし始める。

このままでは、あの人達が外に出てしまう!

「だ、誰か警察に電話を……」
「そ、そうだね」

とスマホを操作しようとした時、
「大丈夫だ!」
との声が聞こえ、店内でヒラリ・クルリ・プルン・ボスンと音がした。

「も、もしかして……」
そっと江藤さんがドアを開ける。
「危ないですってば」と言いつつ共にのぞく越前さん。2人の取材魂に火が付いたようだ。
「気をつけてくださいよう」

裏口のドアを開けてみると、店内には白目をむいて倒れている客達とふくよかボディがいた。

「ほ、骨皮筋衛門さん!キャー!」と砂沼さんが歓喜の声を上げた。

「大変でしたね、大丈夫でしたか?」
と肩に被疑者を乗せながら骨皮筋衛門が4人を気遣う。

「いったいどうしちゃったんでしょう?」
といぶかしがる江藤さんに、
「蚊ーニバルの仕業です」
と筋衛門が重々しく答える。
「蚊-ニバルだって!筋衛門さん!それ、うちの局でも今追っているんですよ!詳しく話を!」
と前のめりに話す越前さんにニコリとほほ笑み、
「砂沼さんに後で警察から感謝状が届きますから、そちらを「笑顔デスカ♪」で取り上げてください」
と言いながら「カサブランカ」のドアを開け外に出た。

「待ってください!」と追いかけたが、その時には骨皮筋衛門の姿はなかった。

「もうちょっとで骨皮筋衛門の秘密に迫れたのに」
「潜入捜査が得意って本当なんすね」
「蚊-ニバルの真相に迫りたかったなぁ」
「骨皮筋衛門……ステキ……」

砂沼さんののんびりとした声が皆を現実に引き戻した。思わず笑う4人。店内からは「あれ?どうして倒れてるの?」「やべっ仕事!」などの声が聞こえてきた。蚊に脳を支配されたのは一時的なものだったらしい。

「みなさん、大丈夫ですか?今カサブランカブレンドをサービスしますから」

幸田さんの明るい声に「よくわからないけど、やった」と呼応する声が聞こえ、「カサブランカ」に落ち着きが戻った。


「官僚を蚊んりょうにしてくださぁぁぁい!」

と取調室で吠える被疑者。

「ずっとあの状態か?」
とデイブ。
「起きてからずっとだ」
と答えながら筋衛門が被疑者に近づいた。
「危ないぞ」
というデイブの言葉を無視し近づく筋衛門に「蚊ぁぁぁ!」と被疑者が飛びかかる。ヒラリ・クルリ・プルン・ボスン、また失神。

会話が成立しない、と筋衛門でさえあきらめかけた時、ふと、耳に輝くイヤーカフに気づいた。素早く外して観察してみると。

蚊山かやまゆうぞうぉ、蚊取かとりしんごぉ、デーモン蚊っ蚊かっかぁ……
人の名前のようなものが微かに聞こえてくる。一瞬めまいを起こしかけた筋衛門は危機を察知したのか、イヤーカフを遠ざける。これは、と考えていると容疑者が目を覚ました。

「蚊山ゆうぞう、蚊取しんご、デーモン蚊っ蚊」
と骨皮筋衛門が口にすると被疑者は、

「蚊ぁぁぁ!」と叫び、また倒れた。
「デイブ!病院だっ」
「筋衛門、既に手配済みだぜ」
2人の阿吽の呼吸に周囲のものは思わず感嘆の声をもらした。

「しかし、なんなんだ?あれは?」
とイヤーカフを耳に近づけるデイブ。
「デイブ!気をつけろ!」と筋衛門が叫ぶ、が遅かった。

その瞬間、デイブの目はトロンとし「蚊ぁ……?」となった。慌ててデイブの手からイヤーカフを叩き落とす。その瞬間、ハッと我に返るデイブ。

「うっ!痛いじゃないか。でも……あれはなんだったんだ?」
「デイブ、僕らは期せずして蚊ーニバルの秘密に近づいたようだぞ」
と筋衛門が笑った。

筋衛門以外が捕まえた被疑者達も改めて取り調べを行うと「蚊ぁぁぁ!」と騒ぐ者と騒がない者にわかれた。

「デイブ、この違いがわかるか?」
「イヤーカフか?」

被疑者ひとりひとりを観察してみると、「蚊」と騒ぐ者はイヤーカフが付いたまま、騒がない者はイヤーカフがなかった。

取り押さえた時にイヤーカフが外れた者は、逮捕後の取り調べで自分は「蚊」など言ってない、なにもしていないと主張するのだ。

「蚊」に関連して事件を起こしていた人達はみな同じイヤーカフをつけていたらしい。単なる流行りと見落としていたらしいが、それが蚊ーニバルの事件を解くカギだったとは。

「蚊」と騒ぐ人達からもイヤーカフを外すと、みなガラリと性格が変わり善良な市民へと戻る。

イヤーカフを分解してみると骨伝導で音を伝える仕組みになっていた。イヤーカフから微かに流れていた「蚊山ゆうぞうぉ、蚊取しんごぉ、デーモン蚊っ蚊ぁ……」を聞くと意識が遠のき「蚊」に支配される。デイブも耳に近づけたことで一瞬「蚊」に支配されそうになっていたが、筋衛門の好判断で事なきを得ていた。

「善良な市民になんてことを……」
筋衛門とデイブは静かな怒りに燃えた。

正気を取り戻した者にイヤーカフについて尋ねてみた。

「それ、サークルの会員証です」

最近、正しいSNSとの付き合い方についてみんなで考えようと立ち上がったサークルの会員証として入会時に渡されたのだそうだ。

「男女に関係なく使えるデザインだったしつけたんですが……」

つけている間の記憶がないのだそうだ。

サークル活動をしていると思ったら、警察にいたというのが、捕まった被疑者達の共通の意見だった。

「でもサークルに入っていない市民はどうやってイヤーカフを?」
とデイブが不思議がると、
「イヤーカフで操られた人が見ず知らずの人を襲ってイヤーカフをつけるんだよ、カサブランカの時のように」

そこまでいうと骨皮筋衛門の体が怒りの炎に包まれた。

「許せない」

「俺、蚊山ゆうぞうぉ、蚊取しんごぉ、デーモン蚊っ蚊ぁについて、情報を持っていますよ」

と部屋の隅から急に声が聞こえ2人が振り向く。

「ボン・ラジ……ボン・ラジじゃないか!」

デイブが走り寄りボン・ラジと呼ばれた男をハグする。

「久しぶりだな、ボン・ラジ」とほほ笑む筋衛門。

とある難事件を通してボン・ラジは太山デイブと骨皮筋衛門に出会った。ボン・ラジは人気雑誌の編集長なのだが、悪を許さない熱い男だった。

彼からの有益な情報でいくつの事件が解決へと導かれたであろう。熱い抱擁が済むとボン・ラジが事件について説明をし始めた。

「蚊山ゆうぞう・蚊取しんご・デーモン蚊っ蚊は、蚊ーニバルの幹部の名前です」
そこまで言うとボン・ラジは口を閉じた。自らが掴んだ情報に少し戸惑っているかのようだ。

「蚊山ゆうぞうと蚊取しんごは知っていた」と骨皮筋衛門。
「下校の時のやつらか?」と悔しそうなデイブ。

お2人共、ご存じだったのですか?と、驚きつつもボン・ラジは説明を続けた。

蚊ーニバルの幹部は黒服を着用して、細長い棒のようなもので、襲った人に「蚊」を欲するなにかを注入していたのだが、それだけでは活動にも限界があったらしい。

「そこでイヤーカフに似せた骨伝導イヤフォンで手下を作ることを思いついたそうなんです」

最近はイヤーカフの効果で雪だるま式に蚊ーニバルの会員は増えていったそうだ。知らないうちにイヤーカフをつけられた人は、その瞬間から蚊ーニバルのために働き出す。最近の事件増加はそれが背景にあったらしい。

「ひとつ気になるんだが。カサブランカに残した客のイヤーカフはどうした?イヤーカフが付いている限り「蚊」に支配された状態なんだろ?」
とデイブが疑問を呈した。

「カサブランカの他の客はイヤーカフをつけていなかったんです」
とボン・ラジが答える。

「なに?」
「ここがややこしいのですが」

イヤーカフを付けられない場合は、少しボリュームを上げると、近くにいる人間は一時的に蚊ーニバルに支配され、部下のように動いてしまうのだそうだ。

「でも、江藤さんや越前さん、砂沼さん、幸田さんは、かからなかったじゃないか」
「江藤さんと越前さん、砂沼さんは話に夢中であったこと、幸田さんは少し離れたカウンターにいたため音が聞き取れなかったようなんです」
「たまたま幸運だったということか」
「そうです。たまたま、でした」

ボン・ラジの説明が済むと骨皮筋衛門は静かに地下へと潜っていった。

第2話につづく。


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