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【#創作大賞2024】骨皮筋衛門「第二章:美ボディの女からの挑戦(2714字)
第二章「美ボディの女からの挑戦」
名前転売鬼の計画が失敗に終わりイービル・フラワーのボスの機嫌は非常に悪い。それに反比例するかのように我らが骨皮筋衛門の人気は高まり、帳面町の平和は今日も守られている。
「俺は……俺は悪の華を咲かせたい!」
「ボス、帳面町以外で華を咲かせればいいのでは?」
下っ端の部下がボスに恐る恐る提案をした。帳面町ばかりが日本ではない、他の邪魔の入らないところでしっかりと根を下ろして悪の華を咲かせばいいのではないか。冷静に考えれば、その方が正しいだろう。しかし、しかしだ。
「おだまり!お前はなんて馬鹿なんだい!」
ピシャリ!するどいムチの音と共にボスの側近中の側近フィッティーが現れる。
「も、申し訳ありません」
部下は持ち場へと戻るが、心中は穏やかでない。穏やかでないというより不安でいっぱいだ。この組織、間抜けすぎないか?
俺、コンナ組織ニイテイイノダロウカ……?
「ワタクシ、いいことを思いつきましたの」
ムチをピシリピシリとしならせながらフィッティーがボスに近づく。
「な、なんだね?」
フィッティーのムチ音を耳障りと思いつつも、
怖くて止められないボスが尋ねる。
「骨皮筋衛門っていつも潜入捜査してばかりですわよね」
「そ、そうだな」
ボスの同意を受け嬉しくなるフィッティー。ピシリ!
「は、早く話を続けろ」
「申し訳ありません」
哀しくなりピシャリ!
嬉しくても哀しくてもムチを鳴らしてしまうのか。諦めたボスは無言でフィッティーの次の言葉を待つ。
「我々は痛い目に遭ってばかりです」
「うむ」
「それなのに我々は筋衛門の姿を知りません」
「うむ」
「知った時は既に捕まった状態です」
「そうなのだ!」
怒りがこみ上げ、ボスは思わず大声を出した。フィッティーも我が意を得たとばかりピシリピシャリと激しくムチを打つ。何人かの部下が犠牲になった。
ヤハリココハヤメタホウガイイカモシレナイ。
ムチから逃れた下っ端の部下はダークな気持ちでいっぱいになった。
「そこでワタクシ、姿がわからないことを利用した作戦を思いつきましたの」
「な、なんと!」
「常に潜入捜査中なら町民も筋衛門を見たことがないのではないかしら?ならば偽の骨皮筋衛門を大量に生み出し、帳面町で悪事を多発させちゃう、どうです?」
「グーアイディィアァァ!」
ピシリ!痛い!ピシリ!痛い!
見事な作戦に喜んだ二人はムチを大縄跳びのように使い踊り狂った。周囲の部下の迷惑も省みずに。
インストラクター「フィッティー」の新プログラムのモニター大募集!ポッチャリな男性求む!
この広告がSNSに流れ始めると男性はザワついた。フィッティーはSNSを中心とした人気のフィットネスのインストラクターなのだ。完璧な美ボディによるフィットネスは男性の心を鷲掴みにした。一部ではAI画像と囁かれもしたが「フィッティー様はダイナマイトボディだ」と一部の狂信的な信者が騒ぐのでいつの間にか「フィッティー=美ボディ」が浸透した。
ほぼ人前に出ないフィッティー自らが小太りの男性を指導する、しかも高額なモニター代も出す。自堕落な生活による小太り化を招いた男達がワラワラと集まった。
「皆様ぁ〜。ようこそ」
イービル・フラワーのアジトとも知らず集められた小太りの男達の前にフィッティーが躍り出た。
「……!」
フィッティーは噂通りのダイナマイトボディだった。うっとりと見惚れる男達、ああ、美ボディは本当だったんだ。
「さあ、レッスンを開始しますわよ!」
フィッティーがピシャンとムチを鳴らす。ムチの音まで美しい、とウットリとしていると急にフィッティーの体が揺れた。
「フィッティー様?」
男達が不思議そうに見つめていると、フィッティーはグラグラと揺れ出し倒れた。
ガシャーン!
倒れたのは巨大スクリーン。その後ろから全てがパツンパツンのダイナマイトボディの女が現れた。男達が見ていたのはAI画像のフィッティーだったのだ。
「あ、あら?ムチがスクリーンに引っ掛かって」
もう、フィッティーさん、ムチはダメだってといいながら下っ端どもが倒れたスクリーンを片付ける。
黙りこくる男どもに向かい、フィッティーが
「ホホホ、ここからが本当のレッスンよ!」
と言い放つのだが、
「ちっ!なにがダイナマイトボディだよ!」
「そっちのダイナマイトボディは要らねえよ」
すっかり興味をなくし帰ろうとし始めた。
「そう簡単に帰れると思ったの?」
ニヤリと笑うフィッティーが壁のボタンを押した。
床に大きな穴が開き、男達は奈落の底へと転落。
その日から、奈落の底で鋼のポッチャリボディへと変身させる地獄の特訓が開始された……。
「ヒィィィ!」
「ウギィィィ!」
逃げ道を閉ざされた空間で行われる想像を絶した訓練に男達は悲鳴を上げる。イービル・フラワーは偽骨皮筋衛門作りのため過酷な特訓を日夜行い続けた。
数週間が過ぎた頃、彼らの体形に変化が起こったとボスに報告が入る。嬉々として視察に向かうと……ボスが見たのは立派な体格の男達の集団だった。過酷な特訓が彼らを鋼の肉体に変えたはしたが、無駄な贅肉もなくしてしまったのだ。
「イービル・フラワーさんのおかげです」
「体が軽いです」
「マッチョになって自信が持てました」
目を輝かせアジトから帰っていく男達にボスはガッカリっとしかかったが、ふと隅に小太りの男性が立っていることに気づいた。
「フィッティー!1人だけ成功したんだな!」
「はい!」
2人が大喜びで唯一の成功者に駆け寄ろうとしたその時。
「私が本当の骨皮筋衛門だ!」
との叫び声が響き、男がシュッと飛び上がる。ヒラリ・クルリ・プルン・ボスンの秘技に下っ端どもが次々と倒されていく。
イービル・フラワーの悪だくみを聞きつけ、筋衛門はポッチャリさん達に紛れ込み潜入捜査を行っていたのだ。骨皮筋衛門こそ鋼のポッチャリボディの持ち主。イービル・フラワーの訓練など屁でもなかった。かえって鋼の強度が高まったぐらいだ。
ヒラリ・クルリ・プルン・ボスン!
無数の敵をなぎ倒し、確実にボスとフィッティーの元へと近寄ってくる骨皮筋衛門。あともう少しで、必殺技という時に、
「ボス!逃げて!」
フィッティーがダイナマイトボディでボスを弾き飛ばした。遠くへ飛ばされるボス。フィッティーの忠義心に思わず涙ぐむ心優しい骨皮筋衛門。
「お嬢さん、もう抵抗はやめなさい」
「な、なによ!紳士ぶって!」
フィッティーがムチで筋衛門を仕留めようとした瞬間、
「無理だよお嬢さん……」
軽く飛びあがり優しく「ヒラリ・クルリ・プルン・ボスン」をお見舞いした。
「す……筋……衛門様……キュン♪」
フィッティーは秘技ではなく骨皮筋衛門の魅力にしてやられた。
偽骨皮筋衛門計画は、彼の潜入捜査により失敗に終わったのである。
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