【#創作大賞2024】骨皮筋衛門「第三章:帳面町の宝を守れ!」(2118字)
第三章「帳面町の宝を守れ!」
帳面町には不思議な湖があった。通常、湖といえば真水のはず。しかし、帳面町の湖は塩湖なのだ。塩湖の底は深く、正しい水深を測るのは不可能だった。そのため、海とつながっているという噂や異世界と繋がっているとの話も伝わっている。
不思議な湖から骨皮家が帳面地方へと渡って来たとの言い伝えを信じる人もいるほど塩湖伝説は帳面町に広まっていた。少し考えればおかしいと思える話を、真実のように感じさせる魅力が塩湖にはあるのだ。
飲料水に使えないならば他に活用の道はないか、骨皮家の財力を注ぎ研究を重ねると良質の塩が採れることがわかった。以来、塩湖で取れる塩は帳面町の名産となり財政を潤わせている。骨皮家は塩の品質をよりよくするために専門家に研究を依頼、帳面町の塩は今では日本一と言われるほどに成長した。
プレミアムな塩として世に広く知られたのはノーベル賞も間近と噂される塩招喜博士が研究に携わるようになってからだ。平和な帳面町と骨皮家の面々にすっかり魅了された塩招喜博士は帳面町に定住。帳面町の名産品である塩をさらによくするべく研究を続けている。
塩味のなかのかすかな甘み
上質な塩に必ず贈られる称賛の言葉のひとつであるが、帳面町の塩はそれになにかプラスαの要素が入っていた。それを言葉にすることは難しい。「たとえるなら骨皮筋衛門的なまろやかさ?」と呟いた人物がいたが、呟きの謎っぷりに誰もが引いてしまいイイネが全くつかず埋もれている。ただ、その比喩がしっくりと心に響くと思っている帳面町の住人は数多い。
そのうち塩招喜博士の功績が国から認められ勲章が授けられることになった。博士が叙勲となれば帳面町の塩の価値は当然上がるだろう。帳面町は更に「日本で一番幸福な町」となるに違いない。そうなると面白くないのがイービル・フラワーだ。
美ボディの部下「フィッティー」の働きにより捕まらずに済んだイービル・フラワーのボスは塩招喜博士の叙勲をなんとか阻止したいと考えた。
「なんとかならんものか」
ギリギリと歯ぎしりをしながら苛立つボス。ボスは部下達よりも数メートル高い舞台のような場所に置かれた椅子に座っているが、下にいる部下達の耳にも歯ぎしり音は響く。嫌な感じの歯ぎしり音に鼓膜の限界が近づきつつあったその時、
「叙勲阻止に向け、活動の真っ最中でございやす」
と1人の男がゆらりと現れた。
側近中の側近「エン・ガイ」である。
「エン・ガイ、それは本当か?」
「はい。さきほど塩招喜博士の娘を誘拐いたしやした。塩招喜博士には「娘を助けたくば迎えの車に大人しく乗れ」と手紙を残してやす。もうすぐワッシが用意した車に乗りここに到着するでやんしょ」
「叙勲阻止に娘の誘拐は必要か?」
キョトンとするボスをエン・ガイが微笑ましげに見つめる。
「もう!ボスったらお茶目さんっす!娘をダシに帳面町の製塩で培った技術をイービル・フラワーのために使わせるでやんすよっ。イービル・フラワーの活動資金のた・め・にっ!」
「はっ!そうか!エン・ガイ、でかした!」
この会話を間近で聞いていた下っ端の部下は不安になる。
コノヒトタチニツイテイッテモ大丈夫ダロウカ?
そう思いはするが、どこか憎めない彼らを見捨てることはできない、ため息をついて持ち場へと戻った。
「娘をどこへやった!」
イービル・フラワーのボスとエン・ガイの前で紳士が叫ぶ。塩招喜博士その人だ。
「ここにいるぞ」
「お父様!」
ニヤリと笑いながらエン・ガイが塩招喜博士の愛娘ナミを引きずりだしてきた。
「ナミ!」
「お父様!」
2人の頬に流れる涙は正六面体の結晶のように光り輝く。
「な、涙まで塩っぽいんでやんすか」
と驚くエン・ガイであったが気を取り直し、
「娘と平和に暮らしたいのならば、イービル・フラワーのためにプレミアムな塩を作れ、でやんす」
「な、なんと!」
厚顔無恥なエン・ガイの申し出に塩招喜博士は目を見開く。
「お父様!絶対だめ!」
正六面体の透明な涙を流しながらナミは叫ぶ。
「キーキーうるさい小娘め!」
腹を立てたエン・ガイが怒りに震えナミを突き飛ばす。
「あ!」
ナミはバランスを崩し、エン・ガイとボスのいる場所から転げ落ちた。塩招喜博士が絶叫した。
「ナミ~!!」
もうダメだ、と思ったその時、
「大丈夫だ!」
の声と共にふくよかボディが宙を舞う。ヒラリ・クルリ・プルンと優しくナミを受け止め、ボスンと塩招喜博士の元へとナミを届ける。
「ナミ!」
「お父様!」
喜び抱き合う父娘を確認した骨皮筋衛門は次の攻撃のために再び宙を舞う。
ヒラリ・クルリ・プルン・ボスン
ヒラリ・クルリ・プルン・ボスン
必殺技がさく裂し舞台下に控えた部下を次々となぎ倒した。
「おのれぇい筋衛門~」
怒りに震えるボスとエン・ガイ。
呼吸を整え更に宙を舞う骨皮筋衛門。
「ボス!お達者で!」
エン・ガイが壁にあるボタンを押す。ボスはキョトンとした顔のまま椅子ごと空中へと打ち上げられた。間一髪でボスは筋衛門の必殺技を免れたのだ。
「敵ながら見事なり」
自分の下でぐったりとするエン・ガイを見つめる筋衛門の目には慈愛の涙が。
「へ……へへ。あの人は見捨てられねぇ……」
そういうとエン・ガイは意識を失った。
骨皮筋衛門の活躍はこれからも続く。
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