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【#創作大賞2024】骨皮筋衛門「第七章:呑気な骨皮筋衛門」(2041字)
第七章「呑気な骨皮筋衛門」
日本で一番幸福度の高い町として知られる帳面町には有名な「街クジラ」という商業施設がある。町民だけでなく県内外からも人々が集まり、平日でもかなりの混みあいとなる。
混雑が過ぎると不満のひとつも出るものだが「街クジラ」に限ってはなぜかそれがない。理由はわからないが「街クジラ」を利用した客は皆、幸せそうな顔で帰っていく。
「街クジラ」で働く者も幸せそうだ。そのためアルバイト先としてもかなり人気で年度終わりの3月にはアルバイト希望者が殺到する。皆が幸せになる商業施設「街クジラ」は骨皮家の肝いりで作られたものだが、それが幸福度に繋がっているのかは謎である。
商業施設に「街クジラ」という奇妙な名前がついたのには訳があった。帳面町のほぼ中央に位置する山に商業施設を作ろうとなった時に、その地形を活かせないかという意見が出たのだ。
山はクジラのような形状をしており、町民から「街クジラ」の愛称で親しまれていた。町民が愛する対象が形を変えるのは忍びないと考えた骨皮家は地質学者や建設業者と検討に検討を重ねた結果、山全体を商業施設とすることにした。こうして自然と人工物の融和が実現し、帳面町名物の商業施設「街クジラ」は誕生したのだ。
誰からも愛される商業施設「街クジラ」に危険が迫っている、との情報が入ったのは骨皮筋衛門が珍しく捜査本部にいる時だった。
「なに?街クジラのゴーレム化だと?」
と、骨皮筋衛門が眉をひそめる。
「はい。イービル・フラワーの次の目標となっているそうです」
「で、攻撃はいつだ?」
「そ、それが……」
今回に限って情報の入るのが遅く、街クジラのゴーレム化が始まるまで残り10分だとういう。
「す……すみません」
目に涙をため謝る部下。
捜査本部にも動揺が走る。今までの難事件は全て筋衛門の潜入捜査で解決してきたのだ。捜査本部が動揺するのも無理はない。
しかし、当の筋衛門は、
「今回は用心したのだな」
と、ニコニコしている。
「筋衛門さん!潜入捜査ができないんですよ?」
「わかっている。でな「アストリッドとラファエル」というドラマを知っているか?」
「知りません」
知らないのか、あれにもゴーレムの話が出ていたんだよ、アストリッド役の女優がなかなか良くてね、と世間話に興じる筋衛門に唖然とする部下。なにを呑気な、何も知らない「街クジラ」の利用者が危機にさらされているのに世間話だなんて。呑気な筋衛門に部下が怒りをぶつけようとした時、
「筋衛門さんはスレンダーな女性がお好きなんですか?」
との悲しげな声が起こった。
周囲にいた女性捜査官達が、筋衛門の発言にザワついたのだ。目に涙をためている者までいる。
「いや……。アストリッドの行動と考え方が好きなだけだ。体型は関係ない」
女性捜査官達から安堵の声が漏れるなか、筋衛門は「テツオ・タナカの存在が気になるが」と独り言ちる。
「筋衛門さん!こんな時にドラマの感想だなんて!」
とうとう部下が怒り出した。
「街クジラのゴーレム化はすぐなのに!」
商業施設「街クジラ」は背中部分はキャンプ場や公園、内部はショッピングモールとなっている。「街クジラ」は買い物でも簡単なレジャーでも楽しめる全天候型の施設なのだ。その街クジラがゴーレム化すると聞いて部下はいてもたってもいられない。
「筋衛門さん!」
部下が叫んだ直後、捜査本部に設置された大きな画面に揺れる街クジラが映し出された。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
「もうダメだ!」
部下が叫んだ瞬間、街クジラの潮吹き穴に見立てられた噴水から、何かが飛び出すのが見えた。
ピユゥゥゥ~ン
「システムは無事作動したようだな」
「そのようですね」
先ほどまで筋衛門に対して黄色い声を上げていた女性署員達が、いつのまにか画面の前に座り、機器を操作している。
「捕獲!」
1人の女性署員の叫び声と共に噴水から網のようなものが飛び出る。先に飛び出した人々の上に網は落ち、その中でもがいている。
「ズゥゥゥゥムッ!」
網が画面に大きく映し出されると、網の中でもがく人々はゴーレム化をたくらむイービル・フラワーのメンバーだった。
「こ、これは!」
驚く部下に向かって女性達がウインクをしながら説明をする。
「街クジラはね、鉄壁のHONEKAWAシステムで守られているの」
「だから、筋衛門さんは落ち着いていたのよ」
「そ、そうだったんですか」
「悪かったね」
ポンポンと肩を叩く筋衛門に口をとがらせ部下が文句を言う。
「早くいってくださいよう」
「悪かった悪かった」
そう言ってほほ笑む筋衛門を見ているうちに部下も笑い出したくなってきた。
画面には地面に落ちてきた悪人をゆうゆうと取り押さえている警備員が映っていた。
「しかし、どうしてイービル・フラワーのメンバーだけが噴水で外に出されたのですか?」
「街クジラはね異物、つまり悪人だけに反応して排出するHONEKAWAシステムがプログラミングされているのだ」
「すごい……」
部下は改めて骨皮家のすごさを知ったような気がした。
こうして今日も平和は守られたのである。
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