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【#シロクマ文芸部】お盆マジック

消えた鍵はそのまま、そう決めると心が軽くなった。私の横で影がゆらりとしたので、

「なくてもいいよね?」

と聞いてみた。
黙っている影をじっと見つめていると、母の輪郭が浮かび上がってきた。

「やっぱりママだったのね。お盆だから来てると思ってた」

母が私を見て微笑む。生前はあまり行かなかった買い物に母を誘う。

「ママは方向音痴だったから、待ち合わせて買い物をするとか、絶対しなかったよね」
などと思い出話をしながらいくつもの店を見てまわる。

お母様にはこちらの洋服がお似合いですよ、と店員が影と輪郭が入り混じった母に洋服をあて私に微笑む。

へえ。他の人にも母が視えるんだ。
お盆マジック、すごいな。
嬉しくなり勧められた洋服を購入してしまう。

資生堂パーラーで甘味を楽しみ家路に着く。
楽しかったねえと母に問いかけると、真面目な顔をして「鍵」と言った。

なんのことかな?ととぼけていると

「鍵、鍵」

とうるさい。

今日は7月16日。
ナスの精霊馬で黄泉の国へ帰る日だ。
日付が変わると地獄の釜の蓋が閉まり、
黄泉の国に帰れなくなる。

「鍵は消えたんだって」

と白を切っていたが「鍵、鍵」とうるさい。
私が鍵付きの箱にナスの精霊馬をしまい隠したので、箱を開けたいと訴えているのだ。

来年まで帰らなくて良いじゃない、さっきも楽しかったよね?来年のお盆まで楽しく過ごそうよと言っても、鍵、としか言わない。

しばらく消えたと言い張ってみたが、母のしつこさに根負けして鍵を渡した。

「鍵ぃ〜」といそいそと箱を開け、嬉しそうにナスにまたがったので、ため息をつきながら送り火を焚く。

送り火の煙に乗り「楽しかったよ〜」と帰る母を見ていた私の頬を涙が一筋流れた。

霊感ゼロなので、このような体験をしたことありません。あまり親に甘えなかったので、シロクマ文芸部の場を借りて、

創作で甘えてみました😊

小牧幸助部長、ありがとうございました😊

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