ハナブサは町はずれに居を構え、 表向きは「飾り職人」を名乗った 父親は滅多なことで表に現れないが 母親は時折彼の様子を見にやってくる 母は美しく異国の衣装を身に纏っていた 彼の容姿は母親似なのだろう そっけない彼の代わりに、美しい母の世話を焼く美奈 そこだけは使える女だった
ハナブサはとにかく見目奪ういい男だった 彼に就きたい男、世話をしたい女はあとを絶たない そんな中、執拗に付きまとう女がひとり 美奈、武家の娘だというが素性は定かではない この女、相当にしたたかで粘着質であった 怪しげな手段を使って彼の内縁の妻に納まり 彼に近づく女を排除した
一見遊び人風情ではあるが、仕事は生真面目 ここ最近の彼は”追い出し屋”いわゆる地上げ屋を生業とした 雇われではない、野生の勘が彼を動かす 彼の仕事にスキはなく、殺伐としていていつも余念がない ただひとつをのぞいては… 彼には今、たった一つだけ 弱点と言える気を惑わすものがある
ハナブサは現在仕込みの最中にある 標的になったのは呉服問屋「枷屋」所有の町人長屋 追い出しは時間をかけ、巧妙に仕掛けられていくが常 だが滅多に彼が出張っていくことはない 彼には狡猾な異国の手下があり 名を「レ・ドアン・フォン」といった 正しく発音できずに「ホン」と呼ばれている