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カラスが

いつもの道。土手沿いの、信号機もほとんど無い道。

愛車のオンボロ軽を駆り、走る。いつもと変わらぬ景色が続く。ほとんどの場合、目線は遠くの山肌にあり、木々の色合いや、田舎の農家らしい民家の屋根の美しさに見とれる。朝、そんなに早くない朝。クルマの数もまばらだ。

ふと見やると、先行のプリウスが妙な動きでフラリ、フラリと左右に舵を切ってる。ブレーキランプも赤く点滅。はるか先の出来事だ。そこまで気を引かれるものでも無い。

一瞬だけアクセルをゆるめたが、「まぁいいだろ」と、すぐに思い直してぼく好みの速度を維持させる。プリウスもまた、白い車体を正常に戻す。

おや?地面になにやら黒い物体。そばの宙空にもう一体。カラスだ。2羽のカラス。一体は完全に横たわっていた。おそらくトラックにでもぶつかったか。

プリウスが走り去る。元気な方のカラスは滞空状態から大きく翼を広げ、地上に舞い降りた。横たわるもう一体のヤツに近づく。

「なんだ、食うのか?」と、見ていると。そのカラスはただ近づいただけだった。ただ近づいて横たわるヤツのそばに。ただ、居た。

ぼくは対向車や後続車も無いのを確認して、速度を落とした。ゆっくり近づいてみた。死んでない方のカラス、相変わらず動かない。ただ、死んだヤツを見ていた。

こんな畜生でも、もしかしたら悲しみや哀れみの感情があるのだろうか。死んだヤツは家族だったのだろうか。それとも恋人だったのか。などと考えていると、何やら泣けてきた。

ぼくはアクセルを少しづつ踏み、ハンドルを大きく回して車体を迂回させた。せめてもの慰みになるか。ならないか。ならないな。

文明の利器、ではあるがオンボロの軽。さほど脅威と思わなかったか、生きたほうのカラスは身じろぎもしない。よかった。それでいいのだ。気の済むまで弔ってやれ。

アクセルを踏み込み、ぼく好みの速度に戻す。ほんの2~3分の出来事。明日までには片付けられて、もうだれも気にもしないだろう。ルームミラーから見えるアイツはまだ動いてなかった。ただ、死んだヤツのそばに。ずっと居た。

なまけてる振りで 知らぬ顔 男たちは 今日も笑うのさ


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