スピードが、優しい貴方を鬼にする

降りたった山形県の庄内空港は小ぶりで、だけれど市街地からも近くて、使い勝手はそれほど悪くなさそうだった。窓からの景色は一面に、次の秋を待つ田んぼが続いていた。

公私ともに、ちょこちょこと飛行機に乗る機会があって、たった数時間のうちに「誰かにとっての玄関口」に降りたてるのはすごく楽しい。働いてる人も、流れてる空気も、ここを行き来する人の姿も、日本にいるみたいなのに外国みたいな「よそ者」感がまだまだある。出張強者の道はまだ遠い。

酒蔵の取材をして、とびきり美味しい日本酒をお土産でいただき、これなら恋人も気にいるだろうと、そわそわする。ぼくに付き合って、隣で飲んでくれることがあるけれど、恋人にとって日本酒がほんとうに美味しいものかを、そういえば聞いたことがない。事実だけを見ているから、そういうことになる。

願わくば、一緒に飲んでいるうちに好きになった、なんてことがあればいいけど……と思いつつ。

山形を日帰りして、そのまま別の軽めの取材と、懇親会を経て、ヘロヘロで家へ帰る。そういえば羽田空港発の朝が早すぎて、寝過ごしが怖くて短い仮眠だけで一日を回していたのだった。

そのダメージが割と後を引きつつ、爆弾低気圧にも晒されて、体力も気力もなかなか上向かないままの数日を過ごす。仕事も溜まっているし、カレンダーに並ぶ「〆切」のタスクを見ると、申し訳なくてつらい。つらくても仕事は終わらない。謝りながら進める。

こんな時に限って、運転免許証の更新時期も間近に迫ってしまい、「こんなことは早めにさっさと済ますに限る……」と、ぶつくさ思いながら試験場へ行く。

昨年のクリスマスイブに新宿で財布をすられたきりで、免許証無しの再交付と更新を同時に済ます。むしろこれがあるから面倒でまとめてしまった節はある。

「スピードが 優しい貴方を 鬼にする」

運転標語だけれど、案外、生き方にもつながるような気もする。

「免なし更新」とハンコが打たれた書類を見て、リンガーハットの「麺なしちゃんぽん」が思い浮かぶ。どこか主役のいない物足りなさがある。うーん、どうも気が塞ぎがちで、何かスコンと、抜けるきっかけを待っているような感じ。

そうだ、「今週は攻めてください」としいたけ占いに言われたのに。きっかけを待たずに、今を受け入れて、自分から変えていくようにしなければ。

でも、スピードを出すんじゃなくて、ゆっくりでもいいから進むこと。長い目で見て、構えること。心がぐらぐらしていると、近いところばかり見てしまうのは悪い癖だ。逆に、近いところばかり見ているときは、心がぐらぐらしているともいえる。

#日記 #エッセイ #コラム


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