振り向きざまに毒で殺せます

恋人が寝起きにお菓子を口へ入れてくる。なんの前触れもなく指先がそろそろと向けられることもあれば、振り向きざまに何かを差し出してくることも。ぼくは疑いもせず口を開ける。

たいていは、ラムネとか、チョコレートとか、ビタミンCのタブレットとか、あとはたまにサプリメント。

「嫌がったりしないよね」と(自分でしておきながら)恋人は不思議がるけれど、それはもちろん、君がくれるから嬉しいのだよ、という気持ちがあるからで、ぼくはことさら言わずに口を開ける。毎回、ちょっとしたゲームみたいで面白いのだ。

だからぼくを嫌いになったら、苦しませるのはかんたんだ。振り向きざまに毒。これでいい。そんな瞬間がないようにはしたいけれど。

そんな餌付けのせいもあってか、ここ最近、体がまた重くなってきた。運動習慣を持たねばなと思っていたところ、先週の日曜日に、恋人が「ホットヨガを体験しに行く」というので付いていった。噂に聞きし、ホットヨガ。女性たちの定番アクティビティ、ホットヨガ。自分一人では足が向かなかっただろう。

ホットヨガは35℃くらいの部屋でヨガをする。通常よりも発汗が促されるわけだ。サウナで暑さは慣れているから平気かと思いつつ試してみると、結論、これがめちゃくちゃ良かった。

動きそのものは、それほどあり得ないポーズをするわけでもないのに60分で汗みずく。1リットル以上飲めという水もぜんぜん足らず、サウナともまた違う恍惚感があった。

運動とストレッチのあいだ、というくらいの強度だったので、リフレッシュ感覚で使えそうなのもいい。入会しようかと思ったけれど、近所には男性が入れるホットヨガ教室はなく(体験は恋人の家に近いところでやったので、通うとなると難しそうだった)、あいにく生活には取り込めなかった。

……しかし、諦めきれずにいろいろ見てみると、家から徒歩でいけるジムにホットヨガの時間があり、男性も参加できる!こうして人生初のジム会員契約を決めた。恋人のホットヨガについていったら、こんな展開になるとは。自分一人ではあり得なかった現在地点にわくわくする。

とはいえ、まだ時間が合わずにジムのホットヨガは参加できぬまま、もっぱらプールで泳いでいる。ホットな思いは、すこしお預け。

#日記 #コラム #エッセイ

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