レトロアクティブ(第1話)

「ついに完成しましたね」
「…」
 巨大な格納庫のような施設に白衣を着た男が二人いた。一人は若手、もう一人は若手の上司といった風情だ。若手は高揚感を隠しきれない表情だが、上司と思しき年輩の男の表情からは何も読み取れない。男たちの目の前には遊具設備のようなものがあった。確かに設備の上部だけを見れば、複数の鉄棒を組み合わせた遊具に見えなくもない。しかし、設備の下部には無数のコンソールがあり、ただの遊具ではないことは一目瞭然だ。
「完成したといっても人体実験は終了していない」
「人体実験ができない理由は先生が一番ご存じのはず。それに動物実験、機械を使用した実験では成功しているではありませんか」
「確かに犬やサルでの実験自体は成功した。しかし、君も見ただろう。自身と全く同じ姿、全く同じにおいのする者に出会った時の犬やサルの反応を。彼らは戸惑っていたよ」
「…」
 男たちは暫く沈黙した。
「先生。政府はタイムマシンを何に使用するつもりなのでしょう」
「分からんが、完成の督促が度々あったことからも相当焦っているようだったな。それに今まで見たこともないような機密保持誓約書。それと君も気づいていたか知らんが、時々現れる目つき鋭い男たち。私は彼らが公安関係者だと思ったよ」
「私も気づいていました。私は彼らの立ち居振る舞いから自衛隊関係者ではと思ってました」
「そうかもしれんな」
「だとしたらタイムマシンを何やら良からぬことに…」
「…」
 
 2049年、中国は台湾を武力併合した。アメリカは台湾防衛のために2空母打撃群を台湾周辺に派遣した。しかし、投入された戦闘機数は中国軍が米軍を圧倒的に凌駕し、また対岸からの圧倒的火力に米軍はなす術もなく、米軍は台湾防衛を放棄し、今は沖縄を死守することを至上命題としていた。しかし、沖縄が日本領であり続けることは風前の灯火だった。

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