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留守番電話でリスニング

 時おり、ナゾの電話番号から着信がある。見覚えもなければ、電話帳にも登録されていない番号……。緊張の時である。世界のどこにいるかも分からない、会ったこともない相手と、スマホを挟んで隣り合わせ。今この緑のボタンをスライドすれば……世界の国からこんにちはになってしまう……。さくらの国で2023年のこんにちは……。
 私は電話帳に登録していない番号には絶対出ない。たとえその番号に見覚えがあったとしても出ない。いったん泳がせる。そして番号をネットで検索して、「やっぱり勧誘の電話か」とか「これは折り返さなきゃ」とかやっている。

 そんな中、最近ホットな不審番号が「不明」。「非通知」でも「公衆電話」でもない。「不明」。なんだよ、不明って。電話のくせに番号を明らかにする作業を放棄すなて。スマホが鳴って、画面を見たら「不明」がババンと表示されているときの恐怖たるや。そっちからかけてきたくせに身元を明かせないなんて、どうせ詐欺かやましい勧誘の電話。しかもお土産よろしく留守電も残されている。私は怖いもの見たさ(聞きたさ)で再生する。「ボイスメッセージ」のボタンをポチリと押して、やや悠長にお話になる音声ガイドを聞き過ごすといよいよ本丸。発信相手の肉声よ、どうぞ! 

 すると私の耳には中国語。ガサついた音質の中国語。怖い。怖すぎ。なにが怖いって言いますと、実はアタクシ中国語を少々齧っておりまして……。そのことを相手は知ってるんじゃないかということ。だって、中国語が分からない人にこんな留守電入れてもなんの効果もないはず。まったく、どこから私の個人情報を手に入れたのでしょう。そしたらそのうちにムカムカしてきまして。私もなにか手に入れたい。謎の対抗心が芽生えてきました。

 そうだ、この音声を使ってリスニングしてやろう。外国語学習において生の外国語は大切な教材なんだから。私は5回くらい聞き直しました。どの世界に学習目的でこの詐欺音声を繰り返し聞く人がいるだろうか。
 そして、結果的に私は勝利しました。どうやらこの音声は中国大使館から(という設定)のもの。アラヤダ‼ 外国からの謎の音声を聞いて内容を理解するなんて、なんだか有能なスパイみたいじゃない? 私は満足したので「不明」を着信拒否に設定してリスニングを終えました。

 それから1か月後、またヤツは来ました。
 次はなんと「匿名」。私のスマホは大変なボキャブラリーの持ち主なのか。もちろん出ることはありません。いったん泳がせます。すると案の定、留守電を残していきました。第2回リスニング大会の開始です。
 しかしなんということでしょう。今回は何度聞いてもさっぱり分からない。最終的に10回くらい聞きました。でも、分からなかった。悔しい。前回はできたのに……。 
 どの世界に学習目的で詐欺音声を繰り返し聞いて、その上分からずに敗北する人がいるだろうか。
 私の中国語力はまだまだということです。謎の中国語学習仙人が脳内で「勉強せえ!」と発破をかけてきたような気がしました。

 まさか詐欺留守電を聞いたばっかりに。やるせなさとともに私は「匿名」を着信拒否に設定してリスニングを終えました。

写真は大阪海遊館に行ったときのクラゲ水槽の写真。詐欺留守電とは一切関係ありません。


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