お務め 12月13日
日記を更新しないまま、あっという間に9日が過ぎてしまった。
師でもなんでもないというのに、常に小走りしている状態。
小走りしている間に何をしていたかというと、美容室に行ったり、
東京から友人が来たり、お店を整えたり。
8日からは毎年この時期に開催している漆作家・宮下智吉さんの
個展が始まって、今日はその合間の中休み。
慌ただしいといえばそうなのだが、実際には展示が始まって
宮下さんの漆の器に接していたら不思議とこころが落ち着き、
呼吸が深くなっていくような気がしているのだ。
宮下さんの前世は僧侶?聖?なんじゃないかと密かに思っている。
こころの中では手を合わせて拝んでいる。
んー。と言いつつ、
でもやっぱり前世だろうと未来人だろうと、宮下さんは
漆の神様に見い出された作り手なんでしょうきっと。
作っているものは器だけれども、どこかそれはお米や果物のような
農作物にも似ているというか、それを感じさせるところがある。
素地となる木材も、その上に塗る漆も、ひとつひとつが人の手には
負えない部分があり、湿度や気温に左右されるということ、
またそれを微細に感じ取りながらしごとを進めていく様子が
農作物をイメージさせるのかもしれない。
だからなのか、湯気がたちのぼるお味噌汁や炊き立てのごはん、
料理やお菓子などと相性が良く、しっくりと馴染んで
一層、美味しそうに見えるのだ。
今回は今まで宮下さんの作品には無かった曲げわっぱのお弁当箱や
お重箱が新作として加わった。
でもその一方でずっと作り続けているお椀も、毎年同じように見えて
どこかちゃーんと今年の顔をしているのがいい。
何より話を何も聞かずとも、いつにも増してワクワクするように
楽しんで作っていたことが伝わってくる作品の顔ぶれになったと
感じている。
自然に手を動かして生まれていく気持ちがいいかたち、
大きさや深さ、厚みというものは、何センチ、何グラムといった
数字では測れない手のしごとと言ったら良いのか。
2008年から毎年続けている展示だが、毎回学ばされることがある。
展示期間中は、閉店後に水で濡らしてかたく絞った手拭いで
漆の器をひとつひとつ拭いていく。これも毎年のこと。
器だけでなく、スプーンや箸置きまで全て。
まるでこころを澄ませながら目と手で確かめていく儀式のよう。
これが一日の終わりの、何とも言えない静かでいい時間なのだ。
実は開店前の掃除の時間も、在廊中は宮下さんが一緒に掃除を
して下さっている。
作家の方に掃除をさせるだなんて、私が怠けた鬼店長のようだけれど、
言い訳がましいが私も一応ぴっちりと掃除をしている。
宮下さんの場合は「手伝い」とは違う。たとえそこに塵や埃が
無かったとしても、ガラスが曇ったり汚れていなかったとしても、
一日の始まりの一連の作業に必要なものとして組み込まれている。
まるでお寺のお務めのように。
宮下さんが掃除をして下さった後に場が整ったと感じられるのは、
気のせいではないと思っている。
そこに並ぶ器たちも清らかな光を纏うかのように、凛としているのだ。
漆の器を使っているときの気持ち良さは、そんな見えない部分にも
あるのではないだろうか
前世は僧侶… いやいや、やはり漆のしごとびとなのだ。
12月13日(水)曇りところにより晴れ 最高気温8℃最低気温0℃
霜が降りないとリンゴに蜜が入らないそうで
友人の果樹園は今年は例年よりも2週間遅れの収穫作業だったとか。
気温差が極端な冬の始まり。