【劇評345】法廷劇に巻き起こる風。野田秀樹作・演出『正三角関係』。
『正三角関係』には、何が賭け金となっているのだろう。
ずいぶん以前、夢の遊眠社解散のときに、野田秀樹の仕事を概観して、「速度の演劇」と題した長い文章を書いた。今回の舞台は、まさしく役者と演出とスタッフワークの圧倒的な速度を賭け金として、日本の近現代史のとても大切な結節点にフォーカスしている。
舞台写真にあるように、色とりどりのテープ、球、蜘蛛の糸などが、大きな役割を果たしている。
年齢を重ねるに従って、日本の藝は枯淡の境地にたどりつくと思われているが、野田秀樹はどうやら例外らしい。どこまでも駆け抜ける野田演劇の集大成というべき代表作となった。
この舞台を観るために、原作とされているドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を読んだ。文学として巨大な峯のようにそびえ立つこの小説が、見事なまでに換骨奪胎されている。
唐松富太郎(松本潤)、唐松威蕃(永山瑛太)、唐松在良(長澤まさみ)が、原作の三兄弟のキャラクターを踏まえて、つねに揺れ動く三角関係を作り上げている。その三角関係をあざわらうように見下ろしているのが、竹中直人が演じる唐松兵頭だった。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。