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三津五郎さんの心配。

 坂東流からの依頼があって、三津五郎さんの評伝を書いた。短い枚数だったので、意を尽くせたとはいえないが、お元気な日々の明晰な様子が思い浮かんだ。
 ご承知の通り、私は三津五郎さんの聞書きを二冊、岩波から出している。現在では、岩波現代文庫に収録されている『坂東三津五郎 歌舞伎の愉しみ』と『坂東三津五郎 踊りの愉しみ』である。
 続編にあたる『坂東三津五郎 踊りの愉しみ』のときも、一年の時間をかけてお目にかかり、毎回、テープ起こしから荒い原稿に直して、次のインタビューまでにお目にかけていた。
 その最終回に、『坂東三津五郎 踊りの愉しみ』の内容が、どれだけ普遍性があるか、一般の人々にどのくらい伝わるかを案じていた。

「(もちろん原稿を読んで)僕はよく分かるんだが、これがはたして中嶋さん(岩波書店の編集者)含めいわゆる一般の方に読んでいただいて、あまりチンプンカンプンだという感想だと困るなと。『歌舞伎の愉しみ』ほうは、芝居というのはストーリーがあるし、見て分かるから、僕がお話していることもよく分かると思うんだけれど、踊りの場合はどうしても表現も抽象的な表現が多くなったりしないだろうか。「何を言っているんだろう」と。身振りの部分が文字にすると伝わらないから、これをもうちょっと整理された段階で(編集者や周囲の人に)読んでいただいて、それがどの程度一般的な方に伝わるかどうかを考えたい。ちょっと心配はしています」

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。