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【劇評295】人間は欲望の業火に焼かれて死ぬ。その残酷を執拗に描いたKERAの『Don’t freak out』。

 黒い哄笑が劇場に渦巻く。

 笑うのは観客でもなければ、俳優でもない。劇作家・演出家ケラリーノ・サンドロヴィッチが、「人間はいつの世も、こうして生きてきたのだよ」と腹を抱えて笑っているのだった。

 ナイロン100℃三十周年記念公演の第一弾にあたる『Don’t freak out』は、48Sessionとなる。旺盛な創作力を示すKERAは、二十六年ぶりに、下北沢の本多劇場ではなく、スズナリを選び、超弩級の舞台が生まれた。

 コンパクトな舞台に飾られたのは、北方らしき地域にある木造の館。しかも応接間や居間ではなく、勝手口につながった女中部屋である。この部屋に妹のあめ(松永玲子)と姉のくも(村岡希美)が暮らしている。
 上手にはくぐり戸が設けられていて、勝手口として使われているから、外から訪ねてくる人々は、この部屋のささやかな炉端で茶をふるまわれたりする。下手の扉は、主屋へと通じていて、主家の人々はこちらを使って、部屋に闖入してくる。

 館は山にあるが、そのさらに上で、現在の当主、天房茂次郎(岩谷健司)は、精神科の患者を収容する病院を経営している。大家族の天房の家は、母の大奥様せん(吉増裕二)妻の雅代(安澤千草)息子の清(新谷真弓)らがともに暮らしている。
 劇が進むにつれて、この家には大きな秘密が隠されており、人々を打ちのめす恐ろしい事件が立て続けに起こる。この事件たちが怒濤のように押し寄せてきて、すべての人々に破滅をもたらす。

 その容赦ない劇作こそが、『Don’t freak out』の尽きせぬ魅力となっている。タイトルを訳すとすれば、「パニックにならないで」あたりだろうか。そう、ケラリーノ・サンドロヴィッチは、登場人物にも、役者にも、そして観客にも、「パニックにならないで」と語り続けているのだった。
 なんとも、壮絶な企みである。

 テーブルの下についての秘密について、以下、書くことにいたします。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。