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【劇評314】時蔵の定高と松緑の大判事。この名作をのちの世につなげる秀逸な舞台。

 『妹背山婦女庭訓』の「吉野川」は、近松半二の華麗で、なお実のある詞章にすぐれる。両花道を使い、上手、下手の館を、急な川で隔てた舞台面も独特で、歌舞伎屈指の名作といって差し支えない。

 二○一六年九月、秀山祭で出てから、七年を隔てての上演だが、時蔵の定高、松緑の大判事ともに、位取りが高く、公にみせる厳しい顔と、子を思う内心の情がこもり、すぐれた舞台となった。

 ふたりの親ばかりではない。前半を支えるのは、梅枝の雛鳥、萬之助の久我之助だが、周到きわまりない準備を経ての舞台だろう。

 細部にまで神経が行き届き、国家の大事を重く見る久我之助、自らの恋情に身をよじる雛鳥を見せる。詞章がすぐれているのは冒頭にいったが、身体化するのは、役者の仕事。梅枝は、柔らかな身体と燃え上がる心を見せる。萬太郎は、声の調子がよく、澄んだ心境と背筋の伸びた生き方をよくみせている。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。