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カズオ・イシグロの最新作『クララのお日さま』。作家に操られることの喜び。

 カズオ・イシグロの最新作『クララのお日さま』は、AIが人間の仕事を奪っていく近未来を舞台としている。

 お店のショーウィンドーに並んだクララは、店の外に関心を持つ。風景だけではない。街をゆきかう人々の営みに深い観察眼を持ち、やがて「友人」となるべき人間を助けるための学習を積み上げていく。


 この小説のなかで、私が圧倒されるのは、クララが「友人」ジョジーと母親に選ばれ、購入されるまでの店内の様子と、クララの内面にある。圧倒的な描写力で、店のなかの光線の具合、その光と影、陰影が描かれ、そのときどきのクララの内面と呼応していく。

 物語がすすむにつれて、イシグロの傑作『わたしを離さないで』を読み進むときの不安感が蘇ってきた。臓器提供者となるために育てられた子供達は、あらかじめ未来がなく、いつ人生を中断されるか分からない。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。