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仁左衛門の病い。歌舞伎の今後をめぐって。

仁左衛門が、帯状疱疹になったと聞いて、胸が痛んだ。

 この病気の痛さ、辛さは、体験した者にしかわからない。昨年の十月十六日に発症して、この病いそのものは、一ヶ月で終息したのだけれど、帯状疱疹後神経痛の痛みが和らいだのは、一月も半ばになってからだろうか。半年が経過した今も、神経痛を沈めるタリージェの服用は続いている。朝、起きたときのひりつくような痛みはまだ取れていない。

 私は腹部だったが、仁左衛門は、頭部だったと聞く。発症の当座は、鬘を乗せるための羽二重が痛みで付けられなかったと聞く。
「現代劇だったら出演できたのに」
と、ジョークを飛ばすだけの余裕があったともれ伝わってきたから、早期治療が功を奏して、軽傷で終わったのだと思っていた。

 ところが、六月歌舞伎座の演目変更に続いて、この七月、大阪松竹座での舞台の休演を聞いて驚いた。体調不良のため「当面の間」休演、夜の部の「堀川波の鼓」で小倉彦九郎を演じる予定だったが、中村勘九郎の代演となった。これまでも仁左衛門は、ぎりぎりまで出演を諦めない姿勢で知られてきたから、
 今回も、三日定法を二回重ねて、勘九郎が本役となってからも、体調が戻れば、舞台に復帰するのではないか。

 大阪の観客からすれば、小倉彦九郎役を勘九郎と仁左衛門、ふたりで観られる機会に恵まれるとすれば、なによりのことだと思う。

 私自身も周囲に誤解があったので、ここでも強調しておきたい。
 帯状疱疹は伝染病ではない。幼児と直接肌を接触するような極端なことがない限りは、伝染はありえない。

 五十歳台を超えると三分の一が発症する病気だから、周囲に帯状疱疹になった人は多いと思うが、それでも、心ない発言をする人間もいる。
 仁左衛門に無用な負担をかけないようにしたい。なにより、この病気は、ストレスや過労によって、全人口の殆どが保菌しているウィルスが活動を始める病である。
 口さがない歌舞伎界のことである。休演に加えて、風評を流すような負担を掛けないようでありたい。

 歌舞伎座の狂言立て、配役を見ると、松竹の制作部は、明らかに若手花形中心に切り替えたとわかる。勘三郎、三津五郎の不在をいかに埋めるか。仁左衛門と玉三郎の奮闘でしのいできたが、大立者たちの体調を考えると、このままの番組編成が続くはずもない。

 乾坤一擲。
 のるかそるかの勝負に出ている。
 ここで一気に若手花形の人気が爆発することに、すべてを賭けているように思う。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。